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そして、時は訪れた

……………………


 ──そして、時は訪れた



 連合王国軍の主力消滅はどこまでも痛かった。


 訓練された将兵たちを丸々失い、今から徴兵を始めているが、予備役を動員し指揮官としているのは前大戦を生き延びただけの年老いた将校ばかりだった。


 彼らは前大戦の塹壕戦を知っているが、それだけだ。


 予備役に編入されていた年寄りたちを動員しても、より頭の固い連合王国軍が出来上がるのみで、問題の解決には一切寄与しない。


 そんな状況の中、連合王国軍は航空優勢をまずは喪失。


 続いて制海権を喪失。


 エヴァンズ首相は徴兵対象外の老人や女性などを組織して、郷土防衛隊を組織。


 武器は前装式のマスケットからパイプに槍を括り付けたものまでさまざまだったが、得てしてどれも時代錯誤なものばかりだった。


 連合王国はもはや共和国と合衆国が上陸作戦を掛けてくるのは確実と認識していた。そして、恐らく自分たちは負けるだろうということも。


 ここまで来たら素直に降伏するしかないのではと思われるが、どんな降伏条件が押し付けられるか分からないのに受け入れるわけにはいかなかった。


 せめて共和国と合衆国が連合王国の粘り強い抵抗を前に、参ったというようになってからだとエヴァンズ首相は言う。


 だが、そう上手くことが運ぶかどうかは多くの軍人と閣僚が疑問視していた。


 そんな中、ついにD-デイが訪れた。


 第1降下猟兵師団、第2降下猟兵師団がグライダーと落下傘を使って東部の港湾地帯の後背に展開。


 港湾地域に向かおうとする連合王国陸軍部隊を阻止することになる。


 師団長のブルーノ・ラムケ少将も高齢ながら降下作戦に参加し、港湾都市の後背に展開した。降下猟兵たちがまず始めたのは武器を確保することだ。


 落下傘降下は重量が重ければ重いほど、地面に降下した際の衝撃が大きくなる。


 そのため、短機関銃程度の所持は許されていても、機関銃や迫撃砲のような重装備は別途落下傘降下させなければいけなくなる。


 グライダーで降下した部隊はある程度武器を所持した状態でスタートできるが、落下傘降下した部隊はそうはいかない。


 そして、今回の連合王国本土上陸作戦に当たってグライダー降下できる場所は限られていた。その僅かな地域は既に降下予定の降下猟兵部隊で埋められていた。


「師団長閣下。機関銃と迫撃砲を確保しました」


「よろしい。対装甲地雷は?」


「ある程度」


「今はこれで耐え忍ぶしかないか」


 対装甲砲は流石に空挺降下させるには大きすぎる。


 敵の魔甲騎兵が来たら収束手榴弾と対装甲地雷で肉薄攻撃を仕掛けるしかない。


「塹壕を掘れ。大急ぎでだ。機関銃は火力が完全に発揮できるように設置しろ。まあ、諸君ならば言わずとも分かっているだろうが」


「無線機を確保しました。空軍が呼べます」


「上出来だ」


 今日は快晴。


 航空機が飛び回るには絶好の天気だ。


「ラムケ師団長閣下。例の空挺魔甲騎兵が集合しました」


「来たか」


 降下猟兵のひとりが報告するのに、ラムケ少将がその方向を見る。


 大型グライダーで降下させたのはヴィーゼルAusf.A空挺魔甲騎兵だった。


 主砲として47ミリ砲を装備。対空兵装として12.7ミリ重機関銃を装備。


 装甲はペラペラだ。ライフル弾は防げるがそれだけである。


 そんな4脚の空挺魔甲騎兵は塹壕に入ると、砲口を前方に向けた。


 まず襲い掛かってきたのは郷土防衛隊と連合王陸軍残存部隊の攻撃だった。


 砲兵を伴わず、歩兵だけで行われた突撃を前に、共和国陸軍降下猟兵師団は機関銃の射撃でそれを撃退。


 郷土防衛隊の士気は低く、機関銃で2、3名やられると壊走した。


 連合王国残存部隊も士気が高いとはとても言えず、彼らは機関銃の射程外に塹壕を掘り始めた。攻撃する気をなくしたのだ。


 だが、今は一刻も早く、敵に奪われた港湾都市の後背を奪還しなければならない。


 連合王国陸軍は旧式の火砲の砲撃を浴びせ、再び降下猟兵の陣地に迫った。


 空挺魔甲騎兵の47ミリ砲から榴弾が放たれ、迫撃砲が火を噴く。


 機関銃も残弾を気にしながら、連射武器というよりも遠距離火力として運用され、短機関銃では届かない範囲の敵を攻撃するのに使われた。


 中には7.92x57ミリ弾を使用する機関銃に狙撃銃の光学照準器をつけて射撃を行ったとの話も聞かれるが、本来狙撃銃が配備されていないに等しい降下猟兵師団がそのような運用を本当に行えたのかは謎である。


 いずれにせよ、歩兵だけでは降下猟兵師団の陣取る港湾都市の後背を奪還できないと考えた連合王国陸軍はなけなしの魔甲騎兵を投入した。


 旧式もいいところの魔甲騎兵であったが、砲弾の数が怪しくなり始め、また防御という面で紙である共和国陸軍の空挺魔甲騎兵には脅威だった。


 向こうの防御もお粗末であるとは言えど、47ミリ砲で抜くにはある程度寄せ付けなければいけない。


 だが、その前に敵の旧式魔甲騎兵の2ポンド砲を受けて、空挺魔甲騎兵が吹き飛ぶ。


 空挺魔甲騎兵の乗組員たちは決死の覚悟で旧式魔甲騎兵を砲撃し、2両を戦闘不能に追い込んだ。


 だが、空挺魔甲騎兵は一連の戦闘で戦闘不能に陥ってしまった。


 そこにまだまだ連合王国陸軍の魔甲騎兵が迫る。


「突撃部隊、敵魔甲騎兵を撃破せよ」


「了解」


 アルノルト・シュテンツラー少佐率いる第1降下猟兵師団の1個大隊が敵魔甲騎兵への肉薄攻撃を試みる。


 彼らは対装甲地雷や手榴弾を束ねた収束手榴弾を所持。


 魔甲騎兵に肉薄して火力を発揮せんとする。


 1両目の魔甲騎兵は油断していたこともあって、収束手榴弾を受けて脚部を損傷。そのまま走行不能に陥る。


 だが、2両目はシュテンツラー少佐たちの動きに気づいて、機関銃の射撃を浴びせてくる。これではシュテンツラー少佐たちも身動きできない。


「少佐殿。空軍が爆撃を実行するとのこと」


「畜生。遅いんだよ。離脱するぞ」


 シュテンツラー少佐たちは遮蔽物に身を隠しながら、魔甲騎兵から離れていく。


 そこに空軍の戦術爆撃機が殺到した。


 空軍は猛爆撃を浴びせ、シュテンツラー少佐たちは命からがら塹壕に逃げ戻った。


「友軍の魔甲騎兵だ!」


「おお! 本隊が上陸に成功したんだ!」


 そう、共和国陸軍の突撃魔甲騎兵が上陸に成功していた。


 まず橋頭堡を確保したのは山岳猟兵師団だった。


 彼らは上陸用舟艇で港に乗り付け、上陸を開始した。


 すぐさま連合王国陸軍の部隊からの反撃を受ける。


 だが、そこに『フォン・モルトケ』と『フォン・ビスマルク』の46センチ砲弾が降り注ぎ、連合王国陸軍は呆気なく吹き飛ばされた。


 山岳猟兵師団は完全に上陸し、艦砲射撃が行えなくなった段階で魔甲騎兵を含めた連合王国陸軍が反撃に出た。


 山岳猟兵師団は粘り強く抵抗し、同時に上陸したレオパルトPzPAusf.Bが短砲身290ミリ砲から砲弾を放ち、敵の魔甲騎兵を撃破する。


 同時に地雷の処理も始め橋頭堡が拡大していく。


 連合王国陸軍は敵の上陸作戦において上陸地点が分からないという難点があった。


 国防情報局による欺瞞情報はありったけ流されており、合衆国陸軍がいきなり北部カレドニアに上陸する可能性や、やはり大陸海峡沿いの沿岸都市に上陸するだろうとの推測も行われていた。


 なので、部隊は機動的に運用することになり、敵の上陸地点が把握できてから、魔甲騎兵と歩兵を含む部隊を送り込むつもりだった。


 だが、降下猟兵師団の降下によって敵の機動戦力は拘束され、沿岸に張り付けられた薄い防衛線はいとも簡単に食い破られた。


 そして、共和国陸軍歩兵師団に随伴する突撃魔甲騎兵が上陸し、本格的な戦線の押し上げが始まる。


 橋頭堡は拡大していき、連合王国陸軍は押されて行く。


 エステライヒ=コロンビア合同軍司令部も上陸し、装甲部隊もついに上陸した。


 そう、橋頭堡は完全に確保されたのだ。


「後は閣下がロンディニウムへと命じられるだけです」


 ミヒャエルは同じく上陸したルントシュテット上級大将にそういう。


「では、言おう。ロンディニウムへ。ロンディニウムを包囲し、連合王国の心臓を潰すのだ」


 上陸した第7装甲師団のロンメル少将はウィリアムズフォースを防いだことで勲章を受け取ったものの、昇進していないのが不服であった。


「ロンディニウムへ一番乗りだ」


「了解」


 今度こそはとロンディニウムへ向けて第7装甲師団を始めとする装甲部隊が前進する。


 彼らの兵站は合衆国が大量に動員した輸送船によって成り立っている。


 そして、ロンディニウムでは──。


「国王陛下はロンディニウムに残られると仰っておられる」


 エヴァンズ首相がそう言う。


「だが、エリザベス王女にはカレドニアに一時的に疎開していただく」


 そう言って、エヴァンズ首相はうなだれたように呟く。


「神よ。我らが連合王国を救いたまえ」


……………………

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