表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/75

共和国大使館の日常業務

……………………


 ──共和国大使館の日常業務



 定期的に執務室の盗聴器の掃除をしろとのポール少将の言葉通りに、ミヒャエルは信頼できる共和国陸軍の技術将校に不規則に盗聴器を掃除させた。


 今のところ、盗聴器は発見されていないが、敵がいつ仕掛けてくるか分からない。


 緊張感をもって仕事をとガブリエラとミヒャエルは用心に用心を重ねた。


 大使館では日常業務が行われている。


 共和国と帝国の間での通商協定の維持及び更新。


 窓口業務としてはビザの発給などが行われている。


 ガブリエラたちは公式の場で帝国陸海空軍の軍人と会ったりもある。


 ほとんどの場合が式典などの儀礼的なものだが、中には共和国陸軍の内情を探ってくる動きもある。


 ミヒャエルはそれを受け流しつつ、逆に帝国陸軍について聞き出そうとする。


 だが、帝国陸軍軍人の口は少なくとも公式の場では固い。


 それでも後になって酒を奢り、金を掴ませると内情を少しずつ漏らしてくれる帝国陸軍の軍人もいる。


 それと既に出来上がっている資産のネットワークからの情報をミヒャエルは大使館に持ち帰ってくる。


 それから新しく駐在武官が帝国側に認められた。


 空軍から1名、海軍から1名。大佐がミヒャエルの仕事の補佐として加わった。


 空軍はホルスト・シュレーア空軍大佐。戦闘機部隊の教官から転属。


 海軍はギュンター・カールス海軍大佐。潜水艦艦長から海軍大学校教官を経て転属。


 ホルストはポールのやり残していった仕事の継続を、ギュンターはミヒャエルの補佐とバルト海における敵潜水艦隊の状況把握が仕事だった。


 最初から共和国海軍は帝国海軍水上艦隊を相手にしていなかった。


 ほとんどが前大戦中、共和国海軍の機雷封鎖により出撃できなかった旧式艦で占められており、共和国海軍が41センチ砲艦を建造する中、未だに30.5センチ砲艦を抱えたまま。前大戦で得られた水中防御や水平防御についてもまるで進歩していない。


 脅威となるのは潜水艦のみと考えられており、その保有数と練度について調査が行われていた。


 空軍は帝国空軍の主力戦闘機が展示飛行では未だに複葉機だったことが欺瞞情報ではないかと考え、帝国空軍の実際の戦力について調査が始まっていた。


 だが、ホルストもギュンターも重要なのは帝国の装甲部隊についてであることはカナリス上級大将から聞かされ、承知している。


 ミヒャエルたちは共和国のイデオロギーを一時は押し殺しつつ、帝国陸海空軍の将兵とゆっくりとだが確実に付き合いを深めていった。


 そして、情報ネットワークから情報を吸い上げる。


 ある装甲部隊を受け持つ騎兵中将は浮気をしているだとか、ある魔甲騎兵の開発者はギャンブルで首が回らなくなってるなどの情報を手にし、ネットワークを拡大する。


 ミヒャエルの在任中に起きた最大の事件は帝国陸軍造兵廠の設計責任者が共和国に秘密裏に亡命したことだ。


 亡命は密かに行われ、亡命後国家保安省と国防情報局が設計責任者を問い詰めた。


 そこで分かったのは帝国は低品質な人工筋肉を補うために8本足の魔甲騎兵を採用し、主砲は42.5口径76.2ミリだということであった。


「装甲に関する情報は部分的だ。改善点として上げられ、改善されている途中で亡命したようだからな。だが、帝国が設計責任者の亡命に気づかないとは」


「どうも怪しいですね」


「確かに。だが、最低でも帝国は76.2ミリ砲で武装しておるということだ」


「それから8本足である理由もです。私が文学部史学科だったのはお忘れではありませんよね?」


 ガブリエラが語る。


「帝国の気候は厳しい冬ののち雪解けが訪れます。大量に降り積もった雪が解けたあとどうなるのか」


「泥か」


「その通り。帝国のインフラは西方戦線のように整備されていません。恐らくは主要な道路も泥に沈むでしょう。そうなると、着地面積を増やし、重量を分散させる多脚式の魔甲騎兵は理にかなっている。そう思いませんか?」


「なるほど。連中は自国領内で戦うことを考えているということだな」


 先制攻撃をかけてインフラの整った共和国領内で戦うのではなく、自国領内に引きずり込んで、敵の兵站を疲弊させ、弾薬と燃料の尽きたところを攻撃する。


 そのような縦深防御ののちに、機動部隊を向かわせる。


 そう考えると一見兵站に負荷がかかるようなだけに思われる8本足の魔甲騎兵にも納得がいくというものだ。


 人工筋肉の出力が弱いというのは恐らくは嘘だろう。


 帝国が黙って亡命を見過ごしたわけだとミヒャエルは思う。


 共和国に上手いように帝国陸軍は弱いと思わせることに成功しそうになったのだから。そうやって油断して攻め込んだところを戦略的に“後の先”で叩く。


 思えば共和国の革命戦争が潰えたのも、帝国に攻め入り、その環境でダメージを受けてからだったなとミヒャエルは思い返した。


「助かった。後で正式な報告書として送る。手伝ってくれ」


「はい」


 共和国への設計責任者の亡命は、やはり帝国陸軍で騒ぎになっておらず、情報が偽りである可能性が高くなってきた。


 このような情報戦の分析ができるのはギュンターだ。彼は海軍大学校時代に潜水艦隊の情報戦について教えている。


 彼は同じ海軍の軍人であるカナリス上級大将から指導も受けており、冷静に情報を分析していった。


 何が帝国の掴ませたがっている偽の情報で、何が帝国の隠したがっている本当の情報なのか。


 ミヒャエルは情報戦の経験はこれが初めてのことだったのでギュンターの助けはありがたかった。


 ギュンターが分析した情報を基に帝国の装甲戦力について分析していく。


 敵は既に装甲部隊の集中運用というドクトリンに辿り着いている。しかし、自動車化、機械化は進んでおらず、装甲部隊が突出するような歪な構造が見える。


 帝国の人工筋肉の技術レベルは共和国並みとはいかないものの、合衆国並みと言えるレベルで、76.2ミリ砲を主砲としているのは欺瞞情報ではない可能性が高い。


 嘘を吐くときは一握りの真実を入れろというが、その一握りの真実が魔甲騎兵の主砲であったわけだ。


 装甲については鋳鋼装甲と圧延鋼板の組み合わせである可能性が高いということだった。その点では共和国陸軍のレオパルトAusf.Aとよく似ている。


 興味深いのはここまで機動戦を重視していながら、無線機は指揮車両にしか搭載されていない可能性が高いと言うこと。


 戦略、作戦レベルでは機動戦について共和国と同じ結論に至っているだろう帝国だが、戦術レベルでは歩兵の自動車化を始めとして、未熟な部分が見受けられる。


 だが、砲兵についてはカノン砲を大量に配備し、縦深作戦に備えていることがまさに浮かび上がっていた。


 共和国では砲兵は榴弾砲がメインであり、カノン砲は少数の配備に留まっている。


 カノン砲と榴弾砲の違いはその射程であり、カノン砲の方が長い射程を有する。


 このことは対砲迫射撃においても相手側に有利に働くことを意味する。相手は文字通りアウトレンジで自分たちの砲兵にカウンターを放てるのだ。


「あまりよくないですね」


「ああ。不味い。敵の砲兵にこちらの機動戦力が拘束されるとなると」


「縦深防御は破綻します」


「そうだ。こちらもカノン砲を量産するか、ロケットアシスト弾を量産しないとな」


 ロケットに着目していた貴様の考えは間違いではなかったぞとミヒャエルは言う。


 それからホルストからも気になる情報がもたらされた。


 帝国は未だに複葉機を使い続けている反面、対地支援用の頑丈な機体を生産している可能性があるということだった。


 アンバランスな空軍だが、どうやら新型機を次々と開発設計しており、そのせいで装備の更新が追いついていないということだった。


 帝国の工業力は低くはないが、高くもない。合衆国に及ばないし、共和国にも及ばない。それでいて新型機をいくつも複数の生産ラインで製造できるはずもない。


 帝国の汚職が深刻だというのがこの情報を裏付けている。


 帝国の複数の航空機設計事務所が空軍に賄賂を渡し、自分たちの航空機を優先的に製造させるように仕組んでいるらしい。


 そのせいで製造ラインが混乱しているということだ。


「空軍はどうにかなりそうだな」


「油断は禁物ですよ。戦時体制に入った帝国がどの程度本気になるかによります」


 ミヒャエルたちは縦深作戦という概念から帝国の戦力を分析する。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人生リトライな悪役魔術師による黒魔術のススメ」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ