新しい技術ならば
本日1回目の更新です。
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──新しい技術ならば
「敵の魔甲騎兵を阻止できたのは、88ミリ高射砲の水平射撃です」
「なるほど。あの砲ならば、確かにどのような魔甲騎兵でも撃破できるでしょう」
ロートシルト長官が頷く。
「では、主力魔甲騎兵という兵器の主砲は88ミリ砲で?」
「え? いえ、それは考えていません。現在開発中の48口径75ミリ対装甲砲を考えています。88ミリ砲は確かに強力ですが、乗せるには重すぎませんか?」
ロートシルト長官が言うのに、ガブリエラが困った表情を浮かべる。
「何の何の。人工筋肉の技術は日進月歩です。88ミリ砲を載せられるような人工筋肉はあっという間にできるでしょう。兵器開発においては常に数世代先を見越しておかなければなりません」
ロートシルト長官が語り始める。
「88ミリ砲を搭載した魔甲騎兵はまさに無敵でしょう。敵をアウトレンジで次々に撃破する。敵は88ミリ砲の砲声に怯えるに違いありません。それで、装甲は?」
「37ミリ、45ミリ、47ミリ対装甲砲の砲撃に耐えられるだけのものを、と」
「ふむ。機動力が重要なのは分かりますが、この手の兵器では自分たちの主砲に耐えられるだけの装甲をというのが常です。少なくとも海軍の戦艦についてはそうなっています。こちらが長砲身75ミリ砲を使うのに、相手が使ってこないと想定するのは些か」
ロートシルト長官が首を横に振る。
「もちろん、いつ戦争が勃発するか分からず、早急に軍としてはゲーリケ少尉や、ブロニコフスキー大佐が言う主力魔甲騎兵が欲しいのは分かります。ですが、将来を見るとこのままでは不味い」
「それはもっともです。機動力を維持したまま、重火力、重装甲が実現できるならば、それに越したことはありません」
ガブリエラは頷く。
「可能になるでしょう。いや、しなければいけない。機動力があり、攻守のバランスが取れた兵器。素晴らしい。将来的に主砲は88ミリ、いや128ミリまで想定し、我が軍が使用する長砲身75ミリ砲、あるいは88ミリ砲に耐えられる装甲を」
一体どんなお化けになるのやらとガブリエラは思った。
「低地地方などは平原が広がっていますが、王国のアルドゥエンナの森を抜けた付近は山林が広がり、不意な遭遇戦になるでしょう。だが、帝国、特に南部などは平原が広がっています。そうなるとアウトレンジというのは重要になりますね」
ミヒャエルはそう言った。
そこでガブリエラは気づいた。
ミヒャエルは既に東方戦線のための主力魔甲騎兵を考えてるのだと。
「うむ。帝国は絶対に打倒しなければならない敵だ。それも帝国はここ近年急速に軍の装甲化を進めているという。我々の戦う魔甲騎兵が我々より上だという可能性は十分にあるのだ」
帝国については神秘のベールに包まれている。
帝国は軍事技術を秘匿し、ひけらかしたりしない。軍事パレードで出される兵器はどれも古いもののように思われるが、実際の実働部隊に配備されている兵器は違うと分かっていた。
というのも冬戦争で帝国陸軍の最新鋭車両を鹵獲したスオミ共和国が、車長、砲手、装填手、運転手と4つの役割に分れた近代的な魔甲騎兵を見つけているからだ。
軍事パレードでは車長が砲手を務めるような前時代的魔甲騎兵を披露しておきながら、実際の車両は最新の運用思想を取り入れたもの。
対する王国、連合王国は古い設計思想のままの武器を使っていると報告されている。車長が砲手、装填手まで兼ねる魔甲騎兵までいるという話だ。当然、無線機など装備されてはいない。
その点、帝国の魔甲騎兵は進んでいるのではないかと思われている。
「帝国の魔甲騎兵の主砲として想定されるのは?」
「冬戦争で鹵獲されたものの多くは45ミリ砲だった。だが、その魔甲騎兵が対装甲砲の砲撃に耐えられないことや、45ミリ砲では威力不足なのは帝国中央に伝わっているとみるべきだろう」
そこでロートシルト長官が顎をさする。
「この間の軍事演習では76.2ミリ榴弾砲が公開されていた。思うに、次の魔甲騎兵はその程度のサイズの主砲を積んで来るのではないかと思われる」
47ミリ砲を想定しているところに共和国陸軍が主力魔甲騎兵として想定している長砲身75ミリ砲を僅かに上回る76.2ミリ砲。
ガブリエラは思わず息をのんだ。
「帝国と本格的な戦闘に突入するまでには」
ミヒャエルが言う。
「そのレベルの砲に耐えられる魔甲騎兵が必要とされますね」
彼が帝国との東方戦線における序盤の流血を許容したとガブリエラは見た。
「魔甲騎兵の開発は確かに人工筋肉の進化だけで支えられるものではないことは分かっている。材料工学の必要性もある。だが、将来的には88ミリ砲が主砲になるよ」
ロートシルト長官はそう請け負った。
「素晴らしいことだ。我が国の優れた科学技術によって前線の兵士の命が救われるのだから。祖国の大地を守る彼らに乾杯」
「乾杯」
大統領は今は意図してか、東方戦線の序盤で敵を自国領土内に侵入させなければいけないことを言わなかった。
もし、言っていれば、グレーナー長官とヘーリンゲン元帥の面子を潰し、軍の反感を買うことが必須だからだ。
彼は西方戦線における奇跡的な勝利を挙げられる作戦をいかにして確実なものにするかだけに注目して話を進めた。
ガブリエラは勝利を確実なものにするためには敵装甲部隊による反撃及び防御を粉砕すべき、空軍をもちいることや大規模な攻勢準備射撃を上げた。
「ロケットについてはどうなっていますか?」
そこでふとガブリエラが尋ねると、エアハルト大統領とロートシルト長官の肩がぴくりと揺れた。
「ロケットというのは?」
ああ。これは何か秘密プロジェクトが進行中なのだなとガブリエラは悟った。
「軍でも一部で配備されているロケット弾です。ハーフトラックの車体に付けて発射するような。あれを大規模なものにしても、攻勢準備射撃としてはかなりの効果が見込めると思われます」
「なるほど。あの手のロケットならば、まだまだ開発の余地はあるだろう」
あの手のロケットということは別のロケットでも開発しているのだろうか。
「ありがとうございます。砲兵の間接射撃は面を制圧するものですが、ロケット砲は特に広大な面積を制圧できます。当たり所によっては魔甲騎兵すら操縦不能に陥らせられるでしょう」
「うむ。覚えておこう」
多連装ロケット砲というものについてガブリエラが考えていたが、それは多脚歩兵戦闘車ファミリーではなく、ハーフトラックの機動力で十分だと考えた。
「主力魔甲騎兵にも私は感銘を受けたが、多脚歩兵戦闘車というものがまた素晴らしいのだ。これは歩兵を魔甲騎兵に随伴させるもので、その兵士たちは装甲擲弾兵と言われることになっている」
「なんと。素晴らしく勇ましい名前ではありませんか。志願者が殺到するでしょう」
「うむ。早く共和国親衛師団にも配備したいところだ」
それから5ヵ年経済計画の進み具合や、今回の机上演習に対する軍上層部の反応などが話し合われ、軍上層部も渋々ながらミヒャエルとガブリエラの陰謀に加担することに同意した。
そして、晩餐会は終わり、それぞれが帰宅していく。
「今日は会えてよかった、ゲーリケ少尉、ブロニコフスキー大佐」
「私もです、大統領閣下」
ガブリエラたちと今度はカメラ抜きで握手を交わし、エアハルト大統領はガブリエラたちを見送った。
「上手く説得できた、と考えていいんでしょうか?」
「まあ、悪くはない反応だったな。貴様が言うと年寄りどもは喜んで言うことを聞くようだぞ、ローレライ?」
「やめてください。私は船を沈没させたりしません」
「全くだ。共和国という船に沈まれては困る。だが、貴様の愛嬌は武器になると覚えておけ。まあ、不純な意味もあるだろうが」
ミヒャエルはやや吐き捨てるようにそう言った。
「大佐殿は私に不純な気分を抱いたりしません?」
「押し倒してやろうか?」
「できるものなら」
「大した戦女神だ」
やや呆れたようにミヒャエルが言う。
「陸軍会館まで送ってやれ。俺は参謀本部に一度戻る」
「お仕事ですか?」
「ああ。書類だ、書類。書類仕事なしに軍隊は動かんのだと、貴様も覚えておけ」
そして、陸軍省前でミヒャエルが一度車から降りる。
「今日は助かった。礼を言う」
「共和国のためですよ」
「それでもだ」
そして、ミヒャエルは明かりの消えた陸軍省内に入っていった。
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