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東方戦線の仮定

本日1回目の更新です。

……………………


 ──東方戦線の仮定



 共和国は周囲を仮想敵国に囲まれている。


 西に王国と連合王国、東に帝国。


 唯一と言っていい友好国の合衆国は大西洋を挟んだ遠い彼方。


 まずは独力で活路を切り開かなければならなかった。


「北方諸国との外交関係はどうなのですか?」


「依然として中立を保つと。我々としてもそれが望ましい。一部の貴金属は北方諸国に頼っている。スカンディナビア連邦が中立であってくれれば、我々寄りの姿勢を示し、かつ貴金属の輸出を続けてくれるだろう」


 北方諸国。スカンディナビア連邦は3つの国家が緩い連邦制度を取っている。


 ひとつの国として扱うには緩すぎるので、北方諸国と呼ばれることが多い。連邦の名を冠していても、実情はひとつの経済同盟のようなものに過ぎないからだ。


「では、連邦には可能な限り中立を維持してもらいましょう。しかし、帝国と連邦の間には領土問題があります。それが再燃する可能性はある。そうですね?」


「我々としては領土問題は未解決だと認識している」


 帝国はかつてスオミ共和国を領土に組み込んでいたが、前大戦の混乱の最中にスオミ共和国は独立を果たし、連邦に加盟した。


 だが、スオミ共和国の領土からほど近い位置に帝国のバルト海における最大の軍港都市ペトロパヴロフスクがあった。


 これを脅威と見た帝国はスオミ共和国に緩衝地帯としてスオミ南部のカレリア地方の割譲を要求し、スオミ共和国はこれを拒否。戦争が始まる。


 冬戦争と呼ばれた戦争で共和国の大規模な支援を受けたスオミ共和国は善戦したものの、帝国陸軍の物量を前にしては小国ではいかんともしがたく、屈辱的な領土割譲に同意せざるをなかった。


 以後、その地域の領土問題は両国間に横たわっており、連邦が共和国寄りの中立という外交姿勢を保つ要因ともなった。


「彼には中立でいてもらいたいですが、連合王国が陥落すれば、連邦の広大な海岸線の防衛を心配する必要もなくなりますね?」


「……彼らに参戦を要請するつもりかね?」


「大統領閣下は仰られた。今重要なのは人的リソースだと。では、連邦に第二戦線を開いてもらい、我々の負担を減らしましょう。あくまで連合王国が陥落した後の話であり、それまでは我々寄りの中立を維持してもらうのがいいでしょう」


「ふむ。装甲師団、歩兵師団の改編にともなって生じる旧式兵器を供与するのもいいだろう。どの道、標的にするか、廃棄するかするものだ」


 大統領もミヒャエルの提案に納得する。


 ガブリエラは勝利のためには他国の領土問題まで利用するのかと些か引いていた。


 腹黒とはミヒャエルのような人物を指すのだろうとガブリエラは思った。


「しかし、それは連合王国が陥落してからの話だ。それまではどうするのかね?」


「機動防御を実施します。装甲部隊は全て西方戦線へと言いたいこところですが、東方戦線へも幾分か配備します。規模としては3個装甲師団と2個自動車化歩兵師団」


 そこでミヒャエルがガブリエラを見た。


 機動防御の説明をしろということなのだろうとガブリエラは納得した。


 そして、続きをガブリエラが語り始める。


「はい。まず帝国の側に緩い防衛線を配置します。敵は我々の抵抗は弱いと見て機動部隊を推し進めるでしょう」


「国境は守らないのか?」


「この場合は国境で敵の機動部隊を防ぎ続けるのは愚策です」


 ガブリエラがそう言う。


「そして、敵を縦深を持った防御で弾薬と燃料を存分に消耗させたところで、3個装甲師団と2個自動車化歩兵師団からなる我が軍の機動部隊で挟撃します」


 すると、敵の機動部隊は殲滅に近い打撃を受け、敵の攻勢はこれによって頓挫するとガブリエラは言う。


「敵が従来の塹壕戦を行ってきた場合は?」


「それは逆にこちらにとって都合がいいものです。敵が塹壕戦の姿勢を取って、戦線を膠着させれば、安心して我々は西方を片付け、次に帝国を片付けるだけです」


 敵が機動戦を取った場合のみ東方戦線は脅威となるのですとガブリエラは言った。


「しかし、自国の領土を戦場にせねばならないとは。勝てる見込みはあるのだね?」


「あります。間違いなく共和国陸軍は勝利するでしょう」


 ミヒャエルがそう強く告げた。


「結構だ。君たちにはいずれ共和国の次の大戦のグランドデザインも描いてもらいたいものだ。きっと意義のあるものになるだろう」


 そこで大統領の傍らに大統領官邸のスタッフがやってきて何事かを告げた。


「ああ。分かった。これから君たちのために晩餐会を開かせてもらいたい」


「ええ。喜んでお受けします。ですが、他には?」


「5ヵ年計画担当のエゴン・フォン・ロートシルト長官。国防省のコンスタンティン・グレーナー長官。それから陸軍最高司令官のパウル・フォン・ヘーリンゲン元帥だ」


「それは素晴らしい方々がお集まりになられるようですね」


 ミヒャエルはこれは上層部に装甲部隊の存在意義についてエアハルト大統領の代わりに説得しろという意味だと受け取った。


 ガブリエラも同様に主力魔甲騎兵と多脚歩兵戦闘車ファミリーが欲しければ、自分たちの手で勝ち取れという意味だと受け取った。


 そして、晩餐会の準備が進むまで大統領官邸のゲストルームに通された。


「正念場だぞ」


「大統領──閣下を説得するだけじゃないんですね」


「この国は民主主義国家だ。それなりに政治的なプロセスがある。大統領が一方的に決定したとしても、議会が拒否したら、それで終わりだ。今は国家戦線党が第一党だから議会と大統領の間に意思決定の齟齬はあまりない」


 だが、とミヒャエルが言う。


「国家戦線党内にも派閥がある。陸軍を支持する層だけとっても、陸軍上層部を支持する層と陸軍の若手を支持する層、そして陸軍に武器を卸す軍需産業を支持層にしてる連中とバラバラだ」


「今回の出席者は?」


「大統領は若手の支持、5ヵ年計画担当長官は軍需産業の支持、国防省長官は将軍たちの支持、ヘーリンゲン元帥はいわば俺たちに対する対抗カードだ」


「なるほど。詳しいですね?」


「俺が何の情報収集もせず、ただ地図を睨むだけで軍が変わると考えてる馬鹿だとでも思っていたのか?」


 軍事に政治。それらは密接に結びついているのだ。


「政治を理解しなければならんが、政治に口出ししてはならん。それが軍人というものだ。戦争とは外交の延長であると昔の将軍も言っただろう。ならば、軍人は外交を学ぶべきだし、そして外交について理解するために政治を学ぶべきだ」


 もっとも政治的な将校というのは軍の嫌われ者だがとミヒャエルは言う。


「そうなんですか?」


「貴様も革命戦争を学んだならば知っているだろう。軍人が政治に口出しするようになってから、革命はおかしな方向に向かい始めた。やれ、革命の輸出だとか、東大陸統一だとかで、革命戦争は広がり続けただろう?」


「ああ。そうした過去の反省ですね」


「そうだ。それに北ゲルマニアの連中は昔から軍人は政治に口出しするべきではない、我々は君主の忠実な(しもべ)たれという考えがある。王殺しが蔓延ったロムルス半島の連中とは違うと言いたいのさ」


 共和国は広大で、様々な民族を抱え、様々な政治主張を抱えている。


 いかなる民族であれ民族主義者はどの政党にも容認されなかったが、政治主張の中には民族の習慣を反映したものもある。


 北ゲルマニアの軍人の政治への不干渉などがいい例だ。


 これが南部に行くとまた変わってくる。軍人も政治に積極的に関与すべしというものになったり、連合王国のような立憲君主制の下で政治を行うべきというものになるのだ。


 エステライヒは不可分の、非宗教的、民主的かつ社会的な共和国である。エステライヒは、出生、人種または宗教による差別なしに、すべての市民に対して法律の前の平等を保障する。


 この共和国憲法の第1章第1条があるからこそ、様々な民族・宗教・政治を掲げた共和国は分裂せずに済んでいると言える。


「なら、次の戦場は政治ですか」


「そういうことだ。気合を入れていくぞ。まず──」


 ガブリエラとミヒャエルが晩餐会におけるそれぞれの役割について話しあった。


……………………

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