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第9話

「えっ!?何の話ですか?」

「今、”戻る”って言いましたよネ?”戻る”ってなんデス?」


「あ、えーと、それはですね…傷跡が戻る………」


(しまったー!!)


「傷跡は治る、消える、無くなるとは言いますが、”戻る”とは言いませんよネ?」

「…」

「…」

「すみませんでした!能力スキルで皆さんの会話を聞いていました」

「そんな能力スキルまで…。盗み聞きなんて趣味が悪いですネ」

「いや、実は理由があって…大事な話にも関係があるんですが…」


 スギルは自分が多くの能力スキルを所有していること、それらの能力スキルを所有していることをできるだけ他人に知られたくないこととその理由、口外されるのが不安で盗み聞きをしていたこと、レンタル屋の受付をしてほしいことを伝えた。


「確かにスギルさんの能力スキルは凄かったデス。ワタシの知らない能力スキルもまだまだありそうですし、戦争に利用されたら大変ですネ」

「はい、能力スキルの件は本当に口外しないようにお願いします。受付は当然報酬も払いますのでご検討ください」

「受付してもいいですヨ」

「え?即決ですね。信用を失ったので引き受けてもらえないと思ってました」

「さっきの話で納得したので大丈夫ですヨ。でも一つだけ条件がありマス」

「何ですか?」

「スギルさんは他の人の能力スキルがわかるんですよネ?元の世界に戻れる能力スキルを見つけたらワタシにくだサイ」


(なるほど。元の世界に戻る方法をがむしゃらに探すより効率的だな。”探してほしい”じゃなくて”見つけたら”だから、俺の負担もほとんどない。いい条件だ)


「なるほど。もちろんいいですよ」

「じゃあこれからよろしくお願いしますネ!社長さん」

「いやいや、会社じゃないですよ。スギルで大丈夫です」

「わかりマシタ。ワタシもルナでいいですヨ」

「わかりました。よろしくお願いします」


「そういえば受付って具体的に何をすればいいんデス?」

「これから各所にレンタル屋の貼り紙を貼ります。それに”タストの町の冒険者ギルドにいるルナという女性が受付を行っていますので彼女に依頼してください”というような文言を書いておきます。ルナが出かける時はギルドの人にいつ頃戻るか伝えておけば、その時間に合わせてお客さんも来てくれるでしょう。都合が合わなければ合うまで探してもらうことになりますが」

「フムフム…」

「ルナがお客さんと会えたら、これを使ってください」


「これは短剣?」

「この短剣には魔封石という石がはめ込まれていて、魔封石には特定の魔法を封じ込めておく不思議な力があります。この魔封石には花火のように爆発する魔法を封じ込めています」

「オー、花火綺麗ですよネ」

「観賞用ではないので綺麗ではないですよ。使用者の血液を魔封石に染み込ませることで、魔法能力(スキル)を持たない者でも封じ込められた魔法だけは使えるようになります」

「私でも爆発する魔法が使えるようになるんですネ!」

「はい、能力スキルが使えるようになるわけではないですけどね。なので血液を少し分けてもらいたいんですがいいですか?」

「ワタシ、注射苦手デス…」

「魔法なら一瞬で終わりますし、痛みもありません」

「ウー、それなら…」


 スギルは【空間魔法】で血管内の血液を抽出、同時に【神聖魔法】で回復し、ルナの血液を小さな容器に入れた。


「終わりました」

「スギル…これからアナタはワタシの注射器として働いてもらいマス」

「バラバラ死体になった人が注射くらいのことで何を…」

「…ウッ…嫌なことを…、思い出したら辛くなってきマシタ…」


 両手で顔を隠して俯くルナ。


「あっ!すみません!軽率でした!本当にごめんなさい!」

「チートなスギルも女の涙には勝てないんですネ」


 ルナはいたずらな表情で指の間からスギルを見て舌を出していた。


「……。で、この血液を魔封石に染み込ませます。血液を染み込ませた者にしか魔法は使えません」

「フムフム」

「よし、これで爆発する魔法が発動できるルナ専用の短剣ができました。お客さんの依頼内容を聞く前に、これを外で空に向かって発動してください」


 ルナは短剣を興味津々に受け取った。


「ワタシしか使えないんですネ!ア、魔石もはめ込んであるんダ」

「魔素がないと使えませんからね。そういえば、魔法使えるのに魔石持ってないんですか?」

「持ってたんですけど、飛竜にやられた時に体から離れて落ちたみたいで…。転生時には身に着けているもの以外無くなっちゃうんですよね」

「へぇー」


(死に方次第では下手したら衣服、もしくは衣服の一部も無くなって転生されるのか…それは何ともおいしい展開…じゃなくて困ったことだ…)


 想像して鼻が伸びてしまったスギルをルナは見逃さなかった。


「…変なこと考えたデショ」

「いやいや!とんでもない!おいし…困ったもんですねー、あはは」


(盗み聞きの件の時もそうだったけど、女性の感は本当に鋭いな…気をつけよう)


「…」

「あ、そうだ!これあげますよ」


 スギルはぼんやり光る濃い紫色の宝石のような石を渡した。以前、ワイズに渡したものと同じ石である。


「これは、魔光石!?こんな貴重な物いいんデス!!?」

「自分にとってはさほど貴重じゃないので、契約金ということで。魔法が使えないと困るでしょう」

「でも魔光石って同じ大きさの魔石約10個分の魔素蓄積量と魔素吸収速度を持ってるんですよネ?」

「はい、だから今後は魔素が足りなくて魔法が使えないなんてことが減ると思いますよ。普通の魔石もありますけどそっちの方がいいですか?」

「そういうわけじゃないケド…じゃあ、ありがたく貰いますネ」

「では、依頼が来たらお願いしますね。報酬は一件完了する毎に支払います。あとは普段通りに生活してくれて構いません」

「わかりマシタ!できるだけギルドか、ギルド寮にいるようにしますネ」


 ルナは意気揚々とギルドに戻っていく。


(ギルド寮、そういえばギルド登録者が安い賃貸料金で住める寮があったな。ギルド側には冒険者を管理しやすくなり、夜間等に緊急の依頼が入っても冒険者を確保しやすくなる等のメリットがある、Win-WInの仕組みだ。よし、貼り紙をささっと貼って今日も飲むか)


 スギルは貼り紙を貼り終えると、どんな人にどの能力スキルをレンタルしようかと妄想を膨らませながら夜遅くまで酒場で飲んだ。




 二日後の午前、ようやく花火が上がった。


 スギルは光学迷彩ステルスを使い、急いでギルドに向かう。ギルドに到着し、座って待っているルナを見つけるが付近に依頼主らしき人が見当たらない。【伝心】能力スキルでルナの脳に直接話しかける。


・【伝心】

自身の心の声を相手に伝えることができる。


『ルナ、依頼主は?』

「ワッ!スギル?あれ?いない…気のせいカナ?」

『気のせいじゃないですよ。【光魔法】で姿を消し、【伝心】という能力スキルで君の脳に直接話かけている感じなので、周りの人に俺の声は聞こえません。ルナも頭の中で会話するイメージで話してください。【読心術】で読み取りますから』


・【読心術】

相手の心の声を読むことができる。


『盗み聞きより悪趣味な能力スキルですネ…』

『ごもっとも。それで、依頼主はどこですか?』

『いまセン。でも、質問してくる人が多くて回答に困ってるんデス。どんな能力スキルを貸してもらえるのか、何個でもいいのか、危険性はないのか、酒とつまみを渡すだけで本当に能力スキルなんて貴重なものを貸してもらえるのか、なぜレンタル屋は姿を見せないのか等デス』

『なるほど。確かに胡散臭い、怪しいと思う人が多いのは自然ですね。後で貼り紙を修正しておきます。あとは信用…秘密兵器の出番か』

『秘密兵器?』

『ええ、少し待っててください』


 冒険者の男がルナに話しかけてきた。


「すまん、レンタル屋のことで聞きたいことがあるんだが」

「ハイ!あ、キリ兄さん、何でも聞いてくだサイ」

「その呼び方はやめてくれ」


 冒険者の男はそう言うとルナの向かいの席に座った。


『さっそく来たか、すぐ戻ります』

『わかりマシタ』

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