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第4話

「待って!」


 いつの間にか近くまで来ていたネスがゴーダに声をかけ止めようとした。


 しかし、ゴーダは止まらない。ワイズとの距離を詰める。


火炎放射(フレイム)!!」


 直撃軌道の炎がゴーダを襲う。


「ゴーダ!!」


 ネスの声が辺りに響く…が、ゴーダは再び横に転がるように回避する。


「来るとわかってれば何てこと――」

「――うぅわぁぁぁぁあああ!!」


 ワイズの絶叫の後、突如、ゴーダの周りを囲むように円状の炎が現れる。その炎はゴーダの身長を超えるほど高く燃え上がっている。


「ぐっ…ばかなっ!」

(離れた場所にも魔法を発動できるのか!?しかし…熱い…!!)


 炎に囲まれ慌てるゴーダの前には、傷口を焼いて止血したワイズが立っていた。先程の叫びは止血の痛みに耐える声だったようだ。


「どうやら僕は炎の操り方が上手くなったみたいだ。この炎で君を焼き尽くすこともできる」


「なんだとっ!?」

(くっ…熱すぎる!!しかも炎のせいで周りがよく見えない!多少の犠牲は必要か!)


 ゴーダは盾を下に向け、炎から自身の体を守りながらワイズと反対側に転がり、炎の円から抜けようとするが、ゴーダの動きに炎の円もついてくる。


「君が僕との距離を縮めたら焼き尽くす。これは脅しじゃない…僕も命がけなんだ」

「くそぉっ!うあぁぁっ!熱いっ!!」


 ネスがワイズに近づきながら怯えた声で話しかける。


「ぅ…ワイズ…悪かったよ。もういじめたりしないからさ…ゴーダのことを解放してくれよ…」

「君達が僕の言うことを聞いてくれたことが一回でもあったと思う?」

「っ…ないけど…これからはちゃんと話聞くからさ…頼むよ」

「随分偉そうに頼むんだね」


 ワイズの怒りを悟ったネスは、地面に頭をつけて懇願する。


「わ…ワイズさん…すみませんでしたっ!もう…勘弁してくださいっ!何でもしますから!!」


 ゴーダの周りの炎が消え、真っ赤な顔で汗だくになったゴーダが膝をつく。


「はぁっ…はぁっ…」

「ネスは謝罪したけど君はどうする?」

「くっ…!」


 ゴーダは奥歯を噛みしめながらゆっくりと地面に頭をつける。


「………お前の…勝ちだ……悪かった…!許してくれ…!」


「………許さない」

「!!」


 驚いた二人が見たワイズは掌を天に向けて片腕を伸ばし、人間の上半身が丸ごと入りそうな程の大きな火球を出した。


挿絵(By みてみん)


「えっ!?ま、待って!!そんなの…死んじゃう!待ってください!ワイズさん!何でもしますから!お願いします!お願いします!」

「はは…なぁ…冗談だろ…?悪かったって!許してくれよ!!」



 二人の言葉を聞かずに腕を振り下ろすワイズ。震え上がる二人――。




「あ!スギルさん!やっと見つけましたよ。本当にありがとうございました!」


 ワイズは町を歩いているスギルを見つけて声をかけた。


「…どうだった?」

「僕には覚悟が足りなかったみたいで…死にかけました」


 ワイズは頭をかきながら苦笑いする。


「でも、少し…自信が持てるようになりました」

「それはよかった。ゴーダとの戦いで能力スキルレベルも上がったみたいだね。成長の早さに驚いたよ」

「あっ、見てたんですか?」

「実はこっそりね」

「スギルさんと練習した成果と才能Sのおかげですかね?自分でもびっくりしました」

「才能Sでも早すぎる気がするけど…」

「…貴重な魔法能力(スキル)を失ってまで助けてくれた…スギルさんには感謝してもしきれません。本当に人生が変わりました。前向きに生きて…いつか恩返ししますね!!」

「【炎魔法】のことなら心配いらないよ。使えるから」

「え?」

「え?」

「あ、いえ、さすがです…」


(もう驚かないと思ってたのに…予想を超えてくるな…この人)


「あの、一つ聞きたいことがあるんです。スギルさんはどうして僕を助けてくれたんですか?」

「助けた理由か。…目の前で君の酷い扱われ方を見たからかな。一言で言うと同情か。君のことを誰かから話で聞いても助けなかっただろう」

「え?そうなんですか?」

「そういう人は世の中にたくさんいるからね。今もどこかで誰かが魔物に殺されかけているかもしれない。でも、そのために行動を起こそうとは思わない。多くの人がそうやって生きている。他者の命より自分の生活の方が大事なんだ」

「たしかに…そうかもしれませんけど…。なんか冷たいですね」

「…そうだね。俺は目の前で君がされていたことを見て不快になった。君の周りの人間に苛立ちを覚えて何とかしたいと思った。つまり、俺の自我エゴが君を助けた本質的な理由になるのかな」

自我エゴ…ですか…」


「君だって自分を守るために人を燃やしたよね?」

「………」


「俯瞰的に見ると人間…というか生物なんてそんなものだよ。生きるために親や仲間を食べる生物もいる。いつの時代でも戦争は無くならない。まぁ、中には自分を犠牲にして他者を救おうとする善人もいるけどね。君がどうするかは君次第だ」

「僕は…スギルさんのように目の前の人…いや、できる限り、助けられる人は助けたいと思います」

「…そうか。応援してるよ」


「じゃあ、俺は用事があるから」

「はい!ありがとうございました!今度お酒をおごらせてください!」

「いいねぇ…!!」


 満面の笑みで親指を立ててからワイズと別れた。


(【能力スキル付与】…なんて楽しいんだ。でも、毎回付与した能力スキルを所有してる魔物を探して【能力スキル吸収】で奪うのは面倒だな…。あ、付与した人に返してもらえばいいのか?レンタル屋的な…いいかもしれない!次からはそうするか)


―――――


 こんな感じで俺はレンタル屋を始めてみようと思った。


 ワイズは誰が見ても不幸な人生を送っていた。あのままなら本当にいつか命を落としていただろう。その彼が、騎士を目指すゴーダに勝てる程強くなり、自信をつけて精神的にも強くなった。彼の人生を変えたのは間違いなく俺が与えた能力スキルの影響だ。これが楽しかった。


 もっと高いレベルの能力スキルを与えればさらに劇的に変わるだろうけど…大金を手に入れた人間が人生を狂わせるのと同じように、強力すぎる能力スキルは人格すら変えてしまうだろう。彼には少しだけ、普通の人間に近づいて人並みの幸せを知ってほしいと、俺は思った。


 チートすぎる能力スキルを大量に所有している俺はなぜ人格が変わらないのだろう?変わってこれなのだろうか。欲の方向が常人とは違うんだろうな。大金が手に入っても節約しちゃうタイプ?いや、違うな…酒と娯楽さえあれば満足するタイプか。…おっさんだな。


 え?ワイズは人殺しになったのに幸せなのかって?彼の性格なら自分を責めるかもしれないね。続きを話そう。


―――――


「いいねぇ…!!」


 ギラギラした目と不気味な笑みで親指を立ててからスギルさんは去っていった。その背中に手を振り見送る僕に、話しかける者がいた。


「ワイズさん!今日も一緒に狩りに行きましょう!」

「ため口でいいよ、ネス。13歳だよね?僕より年上なんだから気を遣わないでよ」

「いえいえ!ワイズさんのことを呼び捨てだなんてとんでもない!サポートしますんで今日も稼いでもらいますよ」

「現金だなぁ…じゃあギルドに行って狩猟の依頼を探してみようか」

「行きましょ行きましょ!」


 ネスと二人でギルドに向かう途中、僕が燃やした彼の……ゴーダの家の前で立ち止まった。


「右手の火傷は大丈夫?」

「いや、まだ剣は握れないが、狩りなんて左手だけで十分だ。ギルドに行くんだろ?おれも一緒に行っていいか?」

「うん。利き手が使えなくても戦えるなんて、頼もしいね」

「当たり前だ!おれは将来騎士になる人間だ!それに…お前が仲間にいるしな」

「え?それって僕頼みってこと?」

「ちっ、違う!役割は果たす!」


 一週間前のゴーダ戦、僕はゴーダの右手に火傷を負わせる程度まで威力を抑えてから火球を放った。この件以来、僕をいじめる彼らはいなくなった。そして僕のことを一人の人間として見てくれる、成長した彼らと僕は友達になった。彼らは人の痛みを知ったことで、人の話に耳を傾け、自身の行動を省みるようになったみたいだ。


 僕は【不運】能力(スキル)持ちの頃には諦めていた冒険者ギルドに登録し、既に登録済みの彼らと一緒に依頼をこなすようになった。ゴーダはすごく仲間思いで先頭に立って体を張り、ネスはムードメーカーで人が嫌がる役割を進んでこなしてくれる人だった。僕も彼らのことをよく見ていなかったみたい。


 僕は今、生きていることが楽しい。スギルさん、本当にありがとう。


(たまらん!どういたしまして!しかし…これは禁断の術!俺は人間不信になりたくない…でももう少しだけなら…いや落ち着け!)


 ※スギルは【読心術】能力スキルで他人の心を読むことができます。他人の心を読むと表向きの態度とは異なる場合が多々あり、人間不信になる可能性があります。


 【光魔法】の光学迷彩ステルス(光の屈折を操作し、姿を隠す魔法)で、誰からも見えなくなっている状態でワイズをストーキングするスギルであった。

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