第2話
その夜、スギルは冒険者ギルド隣の酒場にワイズと両親を招待した。
「この人がスギルさんだよ、父さん、母さん」
「はじめまして、よく来てくださいました」
スギルが軽く会釈をするとワイズの両親もお辞儀をした。
「どうも、はじめまして。すみませんねぇ。今日は食事をご馳走してくださるとか…。意地汚いと思われるでしょうが、私達は本当にお金がなくて…」
「おい、あんまり湿っぽいことを言うなよ。へへ…そういうことで今夜は甘えさせてもらいますね。お勧めの酒があるんですよ」
「!!…では席まで案内しますね」
父親の言葉を聞いて胸が高鳴った酒好きのスギルは、席へ向かう途中、賑わう店内の物音に邪魔されないようワイズの耳元で囁く。
「素敵なお父さんじゃないか」
「え?…はぁ」
全員が席に着き、注文を終えるとスギルが口火を切る。
「実は、今日はお二人にワイズ君のことで話があって招待させていただいたんです」
「ワイズの…ですか?この子が何かご迷惑でもかけたのでしょうか」
「いえ、ワイズ君にとってもお二人にとってもいい話ですのでご安心ください」
不安そうな表情をしていた母親はほっと胸を撫で下ろした。
「ワイズ君が所有していた【不運】という能力を本日除去させていただきました」
「――本当ですか!?」
母親は思わず大きな声を出す。
「【不運】能力?なんだお前、知ってたのか?」
やはり父親は知らなかったようだ。スギルは【不運】能力の詳細を話した。
「そんな恐ろしい能力がワイズに…」
「…この子が能力を鑑定してもらう日、私も付き添いでギルドまで行ったんです。私がトイレに行っている間にこの子に鑑定結果が伝えられたようで、この子からは能力無しと聞きました」
「俺もそう聞いてる」
母親が父親の方を見て頷く。
「親の能力が遺伝しやすいという話を聞いていたので、父親の【剣術】能力を継いでくれればと思っていたんですが、私と同じ能力無しだと聞いて落胆しました。信じたくなくて、次の日、ギルドに確認したら【不運】と【剣術】を持っていると言われたんです…」
「ワイズ、お前…俺の【剣術】を継いでいたのか!」
黙って聞いていたワイズが口を開く。
「父さん、母さん、嘘ついててごめんね。【不運】能力の説明を見て怖くなったんだ…。もしギルドに登録して危険な依頼をこなすようになったら…僕はどうなるんだろうって…。能力がない人はギルドに登録しない人が多いから、能力無しってことにしたんだ」
「やっぱりそうだったのね…」
母親はワイズの気持ちを察して、知らないふりをしていたようだ。
「お父さん、今日はワイズ君を見てどう思いますか?」
「…いつもならワイズを見るたびにイライラしてきて、つい当たっちまうんだが…今日はなんとも…まさか!【不運】能力がなくなったからか!?」
「その可能性があります」
両親ははっとした表情でお互いの顔を見た。
「じゃあ、もしかして私の発作も…?」
「【不運】LV3の”誰からも愛されなくなる”前兆なのかもしれません」
「というか、スギルさんはうちの家庭事情を知ってるのか…?」
父親の疑問はもっともだろう。
「ワイズ君を助けてあげたいと思い、彼から聞きました。勝手に事情を探るようなことをして申し訳ありませんでした」
本当は能力を使って情報収集したが、多くの能力を持っていることを隠したいスギルは嘘をついた。
「いや、いいんだ。スギルさんは俺達の恩人だ」
「能力を確認しやすいようにギルドの隣の酒場にしました。よければ確認してきてください」
ワイズと両親が目を合わせると父親が言う。
「俺は実感してるからいい。二人で行ってこい。俺はスギルさんに酒をつぐ」
「わかりました。ワイズ、行きましょう」
「うん、母さん」
二人が店を出ると、ちょうど酒と料理が運ばれてきて父親がスギルに酒をついだ。
「これはシャオンという醸造酒で、世話になった人に贈られたりする酒です。この酒代はうちで払います」
「お気持ちだけで結構です。それよりワイズ君のことをもっと労って、彼のためにお金を使ってください。今のままでは彼はいつ命を落としてもおかしくありませんよ」
「うっ…」
父親は冷たい視線を向けるスギルに圧倒される。
「能力の影響で優しくしてやれなかっただけで…これからは…」
「ワイズ君は家族のために努力をしています。簡単な仕事をダラダラこなすあなたとは大違いです。それに彼はあなたと違って私欲だけのためにお金を使ったりもしません」
「な、なぜそれを…」
「これは能力とは無関係です。あなたが変わらなければいけません」
「う……す…すみません…」
「謝罪は彼にするべきです」
「………はい」
「さぁ、料理が冷めるので食べましょう」
「………」
うつむいて黙ってしまった父親を尻目にスギルは酒と食事を楽しむ。しばらくするとワイズと母親が戻ってきた。ワイズは様子がおかしい父に声をかけた。
「父さん、どうしたの?」
父親はワイズの前に立ち、深く頭を下げた。
「…ワイズ…今まですまなかった…」
「父さん…それは能力のせいだったって…」
「能力の影響だけじゃない…俺は家族のためにもっと努力しなければならない…お前のように…。今までのことを全部許してほしいだなんて言わない。これからは心を入れ替えるから見ていてほしい。本当にすまなかった…」
「父さん…」
父の決意に心を打たれ、ワイズは一筋の涙を流す。そして笑顔で答える。
「一緒に頑張ろうね!」
「あぁ…」
(おれはワイズにこんなに負担をかけていたのか…そりゃそうか…。変わらなければ…!)
その後、母親は【不運】能力が除去されていたことを報告した。スギルは母親の作っている薬は効果が低いことを伝え、より良い薬の調合方法が書かれた紙を渡し、それを教えた。ふと疑問に思った母がスギルに尋ねる。
「ところで、どうやって【不運】を除去したんですか?」
「それは教えられません。それと、本件は口外しないようにお願いします」
「わ、わかりました」
「では、私は席を移動しますので後は家族の時間をお楽しみください。会計時には声をかけていただければ」
「すみません。ありがとうございます」
スギルはカウンター席に移動し、家族三人の会話や時間を邪魔しないよう気遣った。
幸福な家庭に一歩近づいたワイズ一家は三人とも笑顔で楽しい一時を過ごせたようだ。
「うん、飯が美味い!シャオンも絶品だ!」
(コクと香りの豊かなバジルソースをかけた、新鮮なトマトと熟成チーズのスライス――ひき肉と刻んだ玉ねぎを丁寧に炒めて作られた、うま味たっぷりのソースがよく絡むパスタ――野菜と香辛料や調味料を混ぜ合わせて煮詰めた濃厚なソースをたっぷりとかけた、赤身と脂身のバランスが絶妙で噛むとほどける肉――どれも赤ワインに似た果実酒のシャオンと非常に合う。まさに異世界イタリアン)
※厳密にはトマトや玉ねぎ等は無く、それらに似た食材です。
スギルはワイズ一家の様子を見ながら酒とつまみと酒を存分に楽しんだ。
「あっ、スギルさん!昨日は本当にありがとうございました!」
何故かワイズの家の前にいたスギルにお礼を言った。
「教えてもらった薬のお陰で傷がすっかり治りました!父さんも気合いいれて仕事に行きましたよ」
「それはよかった。でも本番はこれからだよ」
「えっ…?あ、もしかして…」




