第12話
「やっぱりな」
スノシュは地面を強く蹴り、天井付近まで跳躍した。穴から放たれた全ての矢は反対側の壁に当たり地面に落ちた。矢を避けたスノシュは地面に着地する。
カチッ
「なにっ!?」
着地したスノシュに再び矢が襲い掛かる。音ですぐに気づいたスノシュは再び跳んで矢を避ける。
(一回避けたら終わりだと思ってたが甘かったか!ルナちゃんの魔法がなかったら危なかった。まぁ、この発射間隔なら何回でも避けられそうだ。ルナちゃん、心配そうに見てるな)
三回、四回…と矢を避け続けるスノシュ。
(最初はビックリしたけど、ぴょんぴょん跳んでるスノシュさん、なんか…元の世界にあるゲームの主人公みたいデス。スーパーマルオだったカナ)
「ふぅ、やっと終わったか。さて、お宝は…」
矢の罠を回避しきったスノシュは宝箱の中身を確認する。
「巻物、魔法薬3つ、魔石…それとこれは戦鎚か」
中身を持って部屋の外に出て、成果を見せる。
「オー、頑張った甲斐がありますネ!マル…スノシュさん」
「マル…?まぁいいや、ルナちゃんの魔法のおかげだよ」
「魔法薬も魔石もありがたいわね。この巻物は…?」
リアスが巻物を開くと、周囲を警戒しながらも全員でそれを確認する。
「おぉ、この迷宮の地図じゃないか」
「持ってきた地図ともほぼ一致している」
「B5Fのゴーレムが守る部屋までの経路もバッチリですネ」
「B5Fまでの地図と…待って、他にも書いてあるわ。これは…ゴーレムについての情報ね」
「これもキリ兄が聞いた内容と一致するな」
「あぁ」
「それ以外にも打撃武器が有効と書いてあるわ。表面は硬い鉱石で覆われているけど、中は表面ほど頑丈じゃないから打撃による衝撃で内側を破壊するのが有効みたいね」
「なるほど。ちょうど戦鎚も入ってたな」
「随分親切な宝箱さんですネ」
「戦鎚はキリ兄なら使いこなせるだろう。持っててくれ」
「あぁ、任せろ。ゴーレムは俺がやる」
ゴーレムに対する有効な手段を知り、自信をつけたキリニティ達は難なくB5Fまで到達し、問題の迷路を進んでいく。
「次は突き当りを左、すぐに右よ」
「了解。しかし、本当に迷路みたいだな。通路ばっかりだ。キリ兄が用意した地図と情報だけじゃ迷ってそうだな」
「あぁ、予測してた目的地の方向は合ってるが、この経路は予想外だ」
「本当に親切な宝箱でしたネ。地図は誰が書いて宝箱に入れたんですかネ?」
「普通の迷宮だと、建築時の設計資料等が迷宮内に残ってて地図代わりになったり、他の冒険者が持っていた地図が落ちていることもあるわ。でもこの迷宮はB6F以降、不定期に部屋や通路の構造が変わるみたいだし、謎だらけよ」
「エェッ!?じゃあB6F以降は地図が役に立たないんですネ」
「構造が変わるまでは一応使えるけどねぇ。乙女心と一緒で気まぐれな迷宮だよ」
「だが、構造が変わる際に宝も再配置される。富の迷宮たる所以だ。俺には及ばんが、なかなか男らしい迷宮だな」
「次は右、十字路は直進、突き当りを左よ。罠も再配置されるし、魔物も変わったりするから一筋縄じゃいかないけどね」
「フムフム。多くの冒険者が挑戦するわけですネ」
迷路の構造を利用し、やり過ごせる魔物はできるだけやり過ごしながら進み、ついにゴーレムがいる部屋の前まで到達する。全員怪我もなく、魔素も温存してほぼ万全な状態と言える。
「この扉を開けるとゴーレムがいるはずよ。キリニティが攻撃役、スノシュは攪乱、私とルナは補助に回るわ」
「前衛の脚部強化は切らさないようにしますネ」
「頼むぜ、キリ兄。隙は作るからよ」
「任せろ。ゴーレムの体長は5m程、まずは足の内部を破壊する」
「妥当ね。脚部が使えなくなれば巨体故に体の制御は難しいはずよ。一気に有利になるわ」
「皆さんの脚に魔法をかけますネ。身体強化魔法!」
「よし、まずは先陣を切るぜ」
「わかった。隙を見て叩く。行くぞ」
扉を開けると巨大なゴーレムが大きく見えない錯覚に陥る程、大きな広間が現れた。ゴーレムは頭を少し動かし、彼らを認識した。
(これだけ広いと壁を蹴っての回避は使いどころが限られそうだ。しっかり引き付けて避けないとな)
「グオォォォォ!」
ゴーレムが雄叫びを上げて自身の体から生えている鉱石を折り、キリニティ達に向かって投げつけた。それは凄まじい速度で彼らに迫る。
「避けろっ!」
脚部強化のおかげで辛うじて避けるキリニティ達。鉱石と床が衝突、破片が飛び散り彼らに当たったが、傷を負うほどの破片は運よく当たらなかった。
「くそ、破片まで避けるのは至難だな」
「【減速魔法】!」
リアスがゴーレムに魔法を試みる。するとわずかにゴーレムの動きが鈍くなった。
「効いたわ!でもあまり効きは良くない。過信しないで」
「十分だぜ」
スノシュがゴーレムとの距離を詰める。ゴーレムは反射的にスノシュを狙って大きく硬い拳を振り下ろす。拳が衝突した部分の床が割れ、スノシュはゴーレムの左側面に回り込んで短剣を頭部に投げる。
キィン!…狙い通り命中するものの虚しい音を立てながら短剣は地面に落ちた。
「まぁ効かないよな…」
(それにしても、あの拳…一撃でも食らったら終わるな)
短剣で傷一つつかなかったゴーレムだが、次の攻撃を警戒してスノシュの方を向く。
「伊達流 樹伐斧!!」
ドゴォッ!!
「いい攪乱だ…!」
既にゴーレムの右脚部に一撃を加えられる位置まで移動していたキリニティの戦鎚が確実にそれを捉えた。ゴーレムはすぐさま左手を開いてキリニティを叩き潰そうとするが、後退して避け、間合いの外に逃れる。
「お前の相手はこっちだよ!」
スノシュはゴーレムの胴の高さまで跳躍し、背中に蹴りを加えると同時に反動を利用して距離を取る。
(俺の格闘の打撃程度じゃダメージはないか)
「身体強化魔法!自然治癒力強化!」
ゴーレムとの距離に気を付けながらも味方に補助魔法をかけられる距離まで近づいて彼らを援護するルナとリアス。
「魔素を使いすぎないで!自然治癒力強化は必要な時だけでいいわよ」
「大丈夫デス!魔光石持ってますカラ」
「魔光石ですって!?いつの間にそんなものを…それでも効率よく使うことを意識して」
「ワタシにはこれしかできないので…命を懸けてる二人をただ見てるだけなんてできまセン」
「それは同感ね。私も試してみるわ」
【地魔法】LV1を所有しているリアスは弓を構えて矢の先端に【地魔法】で鋭く尖った矢じりを作った。
【LV0】魔素を土、砂、石に変換できない、または土、砂、小石しか出せない
【LV1】土、砂、石を生成することができる。少量の土、少量の砂、小石、植物を操ることができる
弓を思い切り引き絞り、ゴーレムの頭部に狙いを定める。
「地魔法矢!」
弓本来の力に、矢じりを操る魔法の推進力を加え、銃の弾丸に匹敵する程の速度で矢は放たれた。
カツッ!…ゴーレムの頭部に命中する直前、【地魔法】で作られた矢じり部分が消えた。速度は衰えずに矢だけが頭部に命中したが、ゴーレムを傷つけるには至らなかった。
「やっぱり属性魔法は駄目か…!」
ドゴォッ!!
矢に一瞬気を取られたゴーレムに再び戦鎚の強烈な打撃が命中する。すかさず繰り出されたゴーレムの反撃を避けて再び隙を伺う。
「キリ兄さんすごい!リアスの援護のおかげですネ!」
「無意味じゃなかったみたいね」
リアスの行動はそれ以外にもキリニティに重要な影響を与えていた。
(ついつい普段通り戦ってたな。リアス、お前のおかげで思い出した。俺も【水魔法】LV3が使えるってことを!)
【LV0】魔素を水に変換できない、または少量の水しか出せない
【LV1】実戦で役立つ程度の水を出すことができる(放水等)
【LV2】水を形作り、自由に動かしたり、自身から離れた場所に水を出すことができる(水の塊を飛ばす、霧を発生させる等)
【LV3】複数の水を操ることができる
キリニティは【水魔法】で生成した水で戦鎚の頭(柄ではない打撃を与える部位)を覆った。
(キリ兄、魔法は効かないはずなのに…何か考えがあるんだろう。どっちにしろ俺は攪乱するだけだ!)
スノシュがゴーレムを引き付けている間に、キリニティは戦鎚の頭よりも二回りほど大きな直方体の水の塊を生成し、ゴーレムの左側頭部めがけて放った。
「水塊鎚!」
水塊鎚は水を操る魔法の力に加え、進行方向とは逆方向に水を勢いよく噴射し、加速しながら飛翔していく。
ドォンッ!
大きな質量を持つ高速の水の塊は左側頭部に見事に命中して飛沫となり、ゴーレムはぐらりと体勢を崩した。
「あ、当たった!?」
「えっ!どうしてっ!?」
「キリ兄さん、いけーッ!」
左足が浮き、荷重がかかっているゴーレムの右足に、先程までと同様、戦鎚での一撃を食らわせようと構えるキリニティ。しかし、戦鎚からは水が勢いよく噴射され、さらに水の質量が加わったその威力は、先程までとは全くの別物だった。
「伊達流 樹伐水斧!!!」




