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第10話

キリニティ・マス

挿絵(By みてみん)




 ワイズの家の前に【空間魔法】で瞬間移動し、光学迷彩(ステルス)を解除、ドアをノックするとワイズが出てきた。


「あ、スギルさん!どうしたんですか?」

「君に頼みがある。君にしかできないことなんだ」

「スギルさんの頼みなら何でも頑張ります!」


 ワイズに事情を説明し、レンタル屋にくる質問者に有用な能力スキルを貰ってよかったこと等を宣伝してほしいと頼んだ。


「ある程度顧客が定着するまででいいんだ。もちろん報酬も払う」

「そんなことでよければいつでも!父さんも頑張ってるし、僕もギルドの依頼をこなせるようになって収入も生活も安定してきましたから」

「悪いね、実はすぐにでも頼みたいんだけど…もちろん都合がよければ」

「あっ、はい、わかりました!母さんに伝えたらすぐ行きます」


ワイズは母へ出掛ける旨を伝え、二人でギルド付近の人気の無い場所に瞬間移動する。


「わっ!」

(これが瞬間移動…すごく不思議な感覚だった)

「さっき説明した通り、ルナという女性と一緒に顧客を獲得してほしいんだ。俺は能力スキルで消えて近くにいるから」


(消える…?サラッと言うけど、これがスギルさんなんだよなぁ)


「わかりました、頑張ります」


 そう言うとワイズはギルドに入り、ルナを探した。


「キリ兄さん、ぜひレンタルしてみてくだサイ!」

「しかし、実績がないのがな…」


(あ、あの人がルナさんかな。)


「お話し中すみません、あなたがルナさんですか?」

「ア、ハイ、そうですけど…」


 振り向いてワイズの顔を見たルナの表情は、まるで生き別れの肉親を見つけた時のような驚きの表情に変わっていく。


「アナタもこっちに来たのネ!」

「えっ?うわっ――」


 急に抱きつかれたワイズはルナの胸にうずまった顔を赤らめて何もできずに戸惑っている。スギルは少し羨ましそうにその光景を見て思った。


(ワイズに【不運】返そうかな)


「モティ、会いたかったヨー!いつ来たノ?ケガはナイ?魔物に会って怖い思いしなかっタ?」

「あ、あのっ、す、すみません!人違いだと思います。僕の名前はワイズです」

「エ?あ、そういえば…目の色が違いますネ。……すみませんデシタ!」

「い、いえっ、全然大丈夫です。ところでレンタル屋の宣伝役を頼まれて来たんですけど」

「オー、アナタが秘密兵器!随分かわいい兵器ですネ。宣伝お願いしマス!」

「わかりました」


 ワイズは質問者に対して待たせたことを謝罪し、宣伝活動を始める。


「お待たせしてすみません」

「宣伝?レンタル屋のことを何か知ってるのか?」

「はい、僕はレンタル屋さんに能力スキルを分けてもらったんです」

「ほぉ、そいつは参考になる」

「僕は貧乏で、毎日ご飯を食べるのがやっとの生活でした。親に叩かれたり、友達にいじめられたりすることもよくありました。…なんであんなに辛い生活をずっと我慢してたんだろうって、今になって思います」

「そりゃあ気の毒にな…」


「そんな時、レンタル屋さんに出会ったんです。レンタル屋さんは僕の話を聞いてくれて、能力スキルを分けてくれました。そこから僕の辛かった生活は、希望溢れる楽しい人生に変わりました。今では生活にも余裕が出て、友達と一緒に騎士を目指そうかなんて話したりしています。僕は能力スキルの偉大さを知りました。能力スキルが増えるだけでこんなに世界が変わるんだなって…。だから、あなたも能力スキルをレンタルして人生を変えてみませんか?」


(本当は【不運】能力スキルの除去も影響してるけど…まぁこれくらいは許容範囲だよね)


「そんなに変わったのか…たしかに能力スキル一つの冒険者と能力スキル二つの冒険者じゃ扱いも違う。わかった。利用料は酒とつまみだったな。用意したら頼みにくる。多分、明日だ」

「はいっ!ありがとうございます!」

「ありがとう」


 冒険者の男は礼を言って立ち去った。


(やるじゃないかワイズ。俺の名前もちゃんと伏せてるし、完璧だな。初めての客か、あとはルナにヒアリングしてもらって貸す能力スキルを決めるか…ってまた!?)


 ふとルナを見ると涙を流しながらワイズを優しく抱きしめていた。ワイズは先程と同様、戸惑うばかりであった。


「えっ!?えっ!?ど、どうしたんですか!?」

「ウッ…ウゥ…大変だったネ…頑張ったネ…」


(泣いてる…?あぁ、僕の話を聞いて同情してくれたんだ)


 ワイズはルナの肩を掴んで自身の体から離し、目を見て力強く言った。


「大丈夫です!僕は今、幸せですから」

「そう…そうネ。モティは強い子だもんネ。お姉ちゃんももう泣かないネ」


 涙を拭うルナ。スギルとワイズは体も思考も固まっていた。


(………ん?モティ…?ん?お姉ちゃん…?)


「モティ、ワタシのことをお姉ちゃんだと思っていつでも会いに来てネ?」

「あ、あの、僕はワイズ…」

「ごめんごめん、そうだったネ。毎日でもいいからネ?お姉ちゃんの得意な、モティが大好きなパスタも作ってあげるからネ」

「え、あ、僕はワイ……は、はい。宣伝の件もあるのでこれからよろしくお願いします」


(ワイズ…前言撤回だ。君はやはり不運だ。モティはルナの弟の名前。そして彼女はブラコン。君はこれからモティ代わりの人形となり、彼女の人形遊びに付き合わなければならなくなってしまったようだ。ワイズ、君のモティ似生まれの不幸を呪うがいい)


(謀ったな!スギルさん!)


 混乱してよくわからない言葉が思い浮かぶワイズだったが、彼の活躍で今後レンタル希望者は増加していくのだった。




――能力スキルレンタル屋『転タル』――

あなたも能力スキルをレンタルして小さな幸せを掴んだり、人生を変えたりしてみませんか?


こんな方はぜひご相談ください!

・とにかく困っている

・成し遂げたいことがある

・お金がない、能力スキルがない、何でもいいから冒険者に必要な能力スキルがほしい

・微妙な能力スキルでパーティに入れてもらえない、仲間が欲しい

・仕事や家事を効率よくこなしたい、休みがほしい


親身になってご相談を承ります。相談内容に応じてこちらで適切な能力スキルを選択し、レンタルさせていただきます。タストの町の冒険者ギルドにいるルナが受付をしていますのでお気軽にご相談ください。受付が不在の場合はギルドにご確認ください。


〇利用料

料金の代わりにあなたがお勧めする美味しいお酒と、それに合うおつまみを納品してください。3日間レンタルする場合は3日分ご用意ください。一日分の酒量は下記を目安にしてください。

アルコール度数/容量

5%/500ml

15%/200ml

25%/100ml

40%/60ml

おつまみは上記の量に合わせてご用意ください。


〇注意事項

※貸し出す能力スキルやその数はこちらで決めさせていただきます。

能力スキルレンタルにより発生した事故、被害等につきましては一切責任を負いかねますので予めご了承ください。

能力スキルレンタルの仕組みは秘密です。レンタルに関するご質問はご遠慮ください。

※約束した期間を過ぎた場合は取り立てに参ります。

※レンタル量には限りがございますので、ご要望にお答えできない場合がございます。

――――


「よし、貼り紙の修正はこんなもんかな。後は明日の初顧客を待つだけだ」




 次の日の朝、約束通り利用料を持ってきた冒険者がルナの正面の席に座り話しかける。


「これでいいか?一週間分だ」


『スギル、どうデス?』


 先日同様、【伝心】と【読心術】で会話するスギルとルナ。


(日本酒に近い醸造酒と魚の燻製かな?香ばしい小魚や脂ののった切り身の燻製を味わいながら風味豊かな酒の香りを楽しむ。燻製と酒の風味を交互に楽しめるどころか相乗効果で更なる味わいに昇華する。まさに味と香りのインフレーション)


『完璧です!美味しそうー』


「大丈夫デス!じゃあ相談内容を聞かせてくだサイ、キリ兄さん」

「あぁ。知ってると思うが俺の名前はキリ兄じゃなくてキリニティだ。俺は富の迷宮(ウェルスラビリンス)のB5Fに挑戦しようと思ってる」

「B5Fと言えば、B6Fへの階段がすぐ近くにあるから、あまり探索されていない階層だったようナ…」

「あぁ、複雑な迷路のような構造になっていて魔物と近距離で遭遇しやすく、危険で時間がかかるわりに見返りが少ない。宝箱等は主に部屋に置いてあるからな。多くの冒険者が敬遠している階層だ」

「なぜそんな危険なところに挑戦するんデス?」

「聞いたんだ。B5Fにはゴーレムが守っている扉があると。そこには貴重な財宝が眠っているだろうし、未探索の階層の全容を解明すれば冒険者…いや男としての箔も付く。それが出来たら…あいつに結婚を申し込もうと思ってる」

「結婚!?いいですね!ワタシの知ってる人ですか?」

「それは言えねぇ。他人から伝わるのは男らしくねぇからな」

「人から能力スキルを借りるのは男らしいんデス?」


「…」

「…」


『余計なことを言わないでください!早くフォローして!』

『ごめんなサイ!』


「なーんて、冗談ですヨ。愛する人のために人生をかけての大勝負、かっこいいデス!」

「………男…らしいか?」

「とっても男らしいデス!男の中の男デス!理想のナイスガーイ!」

「そ、そうか?だよな。俺の武器は男らしさだからな」

「さすが!痺れマス!」


「だが、さっき言った扉を守るゴーレムが厄介らしくてな。全ての属性魔法が効かず、硬い鉱石の巨体に武器も弾かれちまうらしい。ゴーレムに遭遇したパーティが突破できないのはそのせいだろう」

「ゴーレムって文字の弱点がありませんでしたっけ?」

「そういうゴーレムもいるが、今回のやつはそれも見つからないようだ」

「そんなの倒せるんデス?」

「わからん。だから能力スキルを借りにきたんだ」


『スギル、どうデス?レンタルする能力スキルは決まりましタ?』

『はい、彼には【水魔法】LV3をレンタルします。目をつぶって動かない様お願いしてください』

『効かないのに魔法?何か考えがあるんですよネ』

『もちろん』


・水魔法

【LV0】魔素を水に変換できない、または少量の水しか出せない

【LV1】実戦で役立つ程度の水を出すことができる(放水等)

【LV2】水を形作り、自由に動かしたり、自身から離れた場所に水を出すことができる(水の塊を飛ばす、霧を発生させる等)

【LV3】複数の水を操ることができる


「わかりました。目をつぶってじっと待っててくだサイ」

「目を?あんまり男らしくねぇが仕方ねぇ」


 スギルは目をつぶったキリニティの肩に手を当て能力スキルを渡す。


「オォー、体が男らしく光ってますヨ」

「そ、そうか?」


『目を開けてもらって大丈夫です』


「開けてもいいですヨ」

「肩を触られたようだが、これで能力スキルが増えたのか?」

「ハイ!そうみたいデス!」

「にわかには信じがたいが…」

「願星竜から覚醒能力(スキル)を授与される時も祈りを捧げてる間にいつの間にか覚えてますよネ?」

「確かに…スキルを渡す力とはそういうものなのかもしれんな。ところでレンタル屋は?」

「レンタルの仕組みは秘密デス。貼り紙に書いてますヨ」

「あぁ、そういえば書いていたな。すまない。どんな能力スキルを借りれたんだ?」

「【水魔法】だそうデス!」

「【水魔法】だと…?」


 怪訝そうな表情を浮かべるキリニティ。

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