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アガリ

はい!一丁アガリ!

こんな訳も分からないタイトルの作品を、

ここまで読み進めて下さった通な方々……。

感謝感謝でございます。

ではでは、ちょっとした『後日談』を……どうぞ‼


「――いらっしゃいませ‼握りたてのサーモン、いかがですかぁ?」


 爽やかな声が、店内に響き渡る。

 時刻はお昼時、なんてことないいつも通りの営業の風景である。

 ただ、一点だけ以前と明らかに違う所があった。それは……



「おぅ、やってるやってる」


「いらっしゃいま……って‼(じん)さん」


「よぉ」


 片手を上げてこちらに挨拶してきたのは、以前この店でアルバイトをしていた先輩の鏑木(かぶらぎ)仁さんだった。

 派手だった金髪は、社会人らしく清潔感漂う黒髪へと変わっていた。


「――2人……だけど、まさかほんとにこの店の昼営業で待ちが出るとはな」


 辺りを見渡しながらそう話す鏑木。隣に華奢で大人しそうな女の人を連れての来店だ。



「すみません。ここの所ずっとこの感じで……。ありがたいことなのですが」


 店内の席は、テーブル、カウンター共に満席となっており、待ち席に座る客も多くいるほどの盛況を見せていた。

 

そんな自身が働いていた当時では考えられなかった光景を目にして、鏑木は依然として驚いた表情を見せている。


「ちょっと待たしてしまうことになりますが……」


「いいよいいよ!気にすんなって。それこそこの大盛況の立役者がそんなしおれた顔してちゃ、『()()()()()()』が泣くぜぇ?」


「――っ‼か、からかわないでください‼」


「はは、わりぃわりぃ。ついな?」


 舌を出して笑いながら謝る仁さんは、微塵も悪いと思っていない様子だ。


「もう」とそう嘆息した藤井(ふじい)は自身の持ち場である『握り場』へと戻って行く。



 さて、先の仁さんの発言であるが、この大盛況には、例の『強盗事件』が大きく関与していた。というより、100%それに起因している。

 

 あの事件は発生後すぐにニュースとしてテレビで取り上げられたのだが、


『強盗に入られたチェーン寿司店。その強盗から店と店長を救ったのは、アルバイトの男子大学生と店のサーモンであった』


 というなんとも情報量が多く、目と耳を引くニュースは様々なメディアに取り上げられて瞬く間に世間に広まった。


 そんな事件は、『恋する大学生が店長を命懸けで救った。しかも寿司屋の看板を守るべく使った武器は冷凍サーモン』と、これまた出所は分からないが、ピンポイントで核心をついている風聞が拡散され一気に注目を得た。


 その噂は拡張に拡張を重ね、遂にはSNSを中心に食べると恋が成就する『()()()()()()』などというちょっとしたブームが巻き起こり、そのおかげで連日この賑わいを見せるに至ったのである。



「藤井くん――‼サーモン追加で2キロ、後で出庫しておいてぇ~」


「え⁉朝仕込んだ2キロもうなくなるんですか?」


 とめどなく殺到するオーダーを必死の様相で何とかこなしていた『2番握り』の藤井に、隣で『1番握り』をこなす店長が懇願してきた。

 いや……、店長はこなせていない。オーダー量に撃滅され、あたふたとした表情だ。


「仕方ないじゃん――‼だって当たり前の様に7皿とか注文来るのよ……‼も~。他のも頼んでくれないと余っちゃうじゃないの~」


「……分かりました。追加で仕込みます。ただ、仕込んでる間は『2番握り』任せますよ?」


「――鬼畜っ⁉私こんなにやられてるのに⁉ぼこぼこにされてるのにっ⁉」


「冗談ですよ。握りは他のヤツにやらせますよ」

 

 一層とあたふたとする可愛い店長をからかいながらクスクスと笑う藤井。忙しさは頂点に至っているはずなのにその様子はどこか楽し気だ。



「全く……どこの誰よぉ~。『愛のサーモン』だなんて噂したのは」


「あれ?お客さん来てくれって嘆いてたクセに来るようになったらそれですか?」


「もう‼そんなんじゃないって~」


「ははは。すみません。店長があまりにも可愛く慌てたりするからついからかいたくなって……」


「あ‼駄目よ、藤井くん。勤務中はあくまでも私は店長なんだから。そこはちゃ~んと守ってもらわないと」


「分かってますって。その代わり今日の勤務が終わったら絶対デートの話させてもらいますからね」


「はいはい。まずはこの激務を乗り越えてからねぇ~」


 ちょんちょんと自身の下に送られてくる大量のオーダー用紙を指さしながら苦笑する店長。最早、そのオーダーの溜まり具合は手遅れになる寸前だった。


『頼んでから商品が来るまでが遅すぎる』なんてクレームをもらってしまえば、折角の客足が遠のいてしまう。

 

 だから藤井は、店長が握り終わった寿司が乗ったお皿をそっと持って言った。



「このまま傍観してたら取り返しのつかないことになりそうなんで、俺が運びます」


「……もう。それってあれよね?」


「ええ」


 藤井の発言に呆れた素振りを見せようとする店長だが、その顔に宿る微笑みを隠しきれていない。




「「気付いたときには『時既に()寿()()』――‼」」




 太陽のような眩しい笑顔が藤井の目の前にあった。

 愛しい笑顔へ。

 サーモンを手向けよう。




 ――サーモンより愛をこめて



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