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六話 モンスターが生まれた日

今日の出来事が綴られた滝沢君のスレを見ていると、突然スマホから着信音が鳴り始めた。僕のスマホに誰かから着信、あまりに稀有な出来事すぎて音に体が震えた。その直後、画面に映し出された発信者を見て、思わず椅子から転げ落ちそうになる。



“柳遥”



柳さんだった。まさかとは思ったが、僕と同じくこのスレを見ているであろう彼女からの着信。おそらく今日の出来事の顛末を知っているであろう彼女からの電話に出れば、滝沢君がスレで言っていたことの真偽がわかるのだろう。

柄にもなく一人、部屋でワタワタとしていたが一度深呼吸をした後、意を決して電話に出る。


「もしもし、小林です。」


「あ、もしもしー。出るのおせえよ。」


「すいません。」


「それよりさ!今スレ見てる!?」


やはりその話だった。それにしてもえらくテンションが上がっている。知っている人間がリアルタイムでネットで暴れてるのを見るのが楽しいと言っていたが、やはり本当みたいだ。


「はい、見てます。」


「やっぱマジでやばいわ!笑」


「やっぱり、何かあったんですか…?」


「え、聞きたい??」


「まあ、そう言われると…はい。」


「今日さ、放課後滝沢が新田とアイのこと呼び出したって言ったじゃん?」


「はい。スレの内容も多分その話ですよね。」


「そそ。ま、とりあえずアイが滝沢をフったの。」


「ですよね。」


「したら、まさかフラれると思ってなかったらしくて、急に暴れてイスとか投げ始めたんだって。」


「エッ!?」


「ヤバくない?」


「ヤバイですね。」


予想を遥かに上回る暴挙に、思わず変な声を出してしまった。しかし何がヤバイって、滝沢君はそんなことしたにも関わらず、何事もなかったかのようにただフラれたという内容の書き込みをしていることだ。


「もう手付けらんないくらいになって、先生とかも来たらしいよ!」


「えーっ…。」


「だから、とりあえずアイが適当な理由つけて新田のこともフッたら、滝沢もちょっと落ち着いて、終わり!らしい。」


「はぁ…。」


どうやら、ネット民たちが言っていた、A子と陽キャは既に付き合っているのを誤魔化すためにフったふりをした。というのも近からず遠からずだったようだ。


「想像以上にやばいことになっててビックリしちゃった。」


「つまり、大暴れした滝沢くんを鎮めるために、天城さんが新田くんを振ったのを、彼はこう解釈していると…。」


電話越しの柳さんにそう言いながら、パソコンの画面に目をやる。



70:ナナシ

みんな既にA子ちゃんと陽キャは付き合ってるとか、僕を騙してるとかいうけど、やっぱ違うと思う。

だって、今は部活に集中したいから誰とも付き合う気はないって言ってたもん!


73:ナナシ

>>70

ファーーーーーーーーwww


78:ナナシ

やっぱ、A子ちゃんのそういう真面目なところが好きなんだなって思った!



こいつはマジモンだ。もはや見てて面白いを通り越して少し怖くなってくる。そんなことを思っていると、


「ファーーーーーーwwww」


電話越しの柳さんが、僕の画面に映るレスの文章まんまの笑い方で笑っていた。おそらく彼女もちょうど同じものを見たのだろう。


「でも、実際アイと新田は付き合ってはないんだよね。」


少し声色が変わった様子で彼女が言う。


「そうなんですか。」


「あの二人幼馴染だから。」


「はぁ。」


「アイ、中学の時もこんなことあったんだよね。ストーカー紛いの。」


「あ、そうなんですか。」


「そん時は新田がどうにかして、今回のことも相談してたんだって。」


「なるほど。」


「で、今朝の新田の告白も、滝沢をアイから遠ざけるためにやったんだって。アイには言ってなかったみたいだけど。」


「はぁ。」


「もしかして、この話あんま興味ない?笑」


「あ、まあ…。」


話を聞いていて、思わずそう答えてしまう。当然驚きはしたが、正直僕が興味あるのは滝沢くんがネットと現実で暴れ回ってる様子であって、クラスのカースト上位たちのプライベートではない。


「ま、確かに!今朝はもらい事故してたけどこっちの話は小林君には関係ないもんね笑」


めちゃくちゃ小馬鹿にしたようにそう言うが、実際その通りだ。


「じゃ、話も済んだし切るねー!」


「あ、はい。」


ブチッ。


わざわざ電話までしてきたと言うことはもしかして…?などと言うぼっちの妄想を覚ますように、急に電話が切れる。

やはり柳さんは何を考えているのかいまいちわからない。そもそも彼女はどう言う感情でこのスレを見てるのだろう。そして、僕の純情は何度彼女に弄ばれるのだろう。

そう思いながら、静かになった部屋で再び画面に目を向ける。



104:ナナシ

やっぱりA子ちゃんのことが好きだ、諦められないどうしよう。


106:ナナシ

>>104

次何するか安価取れよ



これはまずいんじゃないか。今のスレの流れを見るに、おそらく電話とか、最悪家凸とかロクなことにならないのは明白。



110:ナナシ

いいね、みんな力を貸してくれ!

次はどんな行動を起こすか>>120



さっきは興味がないと言ったものの、あんな話を聞いた以上、流石に天城さんが可哀想すぎる。そう思い、ネット上の自分にはあるまじきヒヨったレスをした。

新田君みたいにはなれないが、今の僕にできることはこれくらいしかない。



119:ナナシ

とりあえず学校で謝罪。二人きりはNG。


120:ナナシ

明日、A子の家凸



一瞬、戦慄した。

僕の決死のレスも虚しくスナイプは失敗。その上、予想しうる中で最悪の安価が直撃してしまっていた。

どうしたものかと思い悩むが、どうしようもない。

よくよく考えれば僕はたまたまこのスレを見てるだけで、現実には関係のないことだと言い聞かせ、眠りについた。



続く

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