二話 陰VS陰
「ふぇっ!?!?」
昨日見ていたスレの主が滝沢君だとほぼ確定した驚きで、自分でも信じられない声を上げてしまった。
「びっくりした、急に何あいつ?」
「さあ?てか、滝沢ヤバくね?」
「天城誘うとか身の程弁えろよな笑」
教室に残っていた陽キャたちが、天城さんを誘った身の程知らずの滝沢君と、急にキモい声を出した僕を嘲笑う。
とにかく目立たないようにぼっち生活を送ってきた僕にとってこれは死活問題だ。もしかしたら明日からいじめられるかもしれない。
「ごめんね、今日部活で…。また機会があったら…。」
滝沢君にそう言って申し訳なさそうに教室を出る天城さん。この瞬間、嘲笑の矛先が完全に滝沢君一人に向いたのをいいことに、僕はそそくさと教室を後にした。
「さて。」
いつも通りアニメを見ながらインターネットサーフィンをする至福の時間。先ほどあんな出来事があったせいか、つい昨日のスレの続きがないか探していると。
【悲報】クラスメイトをデートに誘った結果…
もしやと思いながらもスレを開いてみると、やはりビンゴ。
3:ナナシ
>>1
おまえ昨日の奴か
8:ナナシ
>>3
そうだお。昨日のアドバイスの通りA子をマックに誘ったんだけどだめだったお(TT)
やはりこのスレ主は滝沢君で間違いないみたいだ。本当にこんなことがあるとは。ネット上の出来事をリアルでも体験すると言うのはあまりにも新鮮だ。
20:ナナシ
>>1
やはり…いや、まさかダメだったとは。具体的にどんな感じだったんだ?
24:ナナシ
>>20
反応自体は好感触だったお、また機会があれば!って言ってくれたし(≧∀≦)
でもクラスのぼっちが急に騒ぎ出して邪魔された!
30:ナナシ
>>24
まwたw機w会wがwあwれwばw
ん?何を言ってるんだこいつは。あれは誰の目に見ても僕関係なくしっかり断られてただろ。そもそもあの時天城さんは僕のことなど一瞥もしていなかった。
この>>1は滝沢君ではないのかとも思ったが、状況が完璧に一致している以上、別人というのは考えにくい。
考えられるのはこの>>1、つまり滝沢君が相当な勘違い男ということだ。
40:ナナシ
あのぼっちほんと許せない。
多分、前までいじめられてたぼくがA子ちゃんと親しくしてるのが羨ましいんだと思う!
45:ナナシ
>>40
ファーーーーーーーーwwwww
こいつマジだ。普通に断られてることに気づいてないどころか、自分がかなりいいポジションにいると思っているらしい。想像以上の勘違い具合だ。
48:ナナシ
いや、これは>>1の言うことあながち間違ってないと思うぞ
よし、明日A子とぼっちを呼び出して、ぼっちと決着をつけるところをA子に見てもらおう!
52:ナナシ
>>48
A子ポカンで草
おい男見せろよ>>1!
60:ナナシ
>>48
面白すぎる、やったれ>>1
まずい、なんか滝沢君を僕と戦わせる流れになってる。確かに側から見たら面白いが、いざ自分の身になると勘弁してくれとしか思えない。しかし、止めるように書き込んだところで、何の意味もなくただ流れて行くだけだった。
そして翌日。昨日のスレのアホな提案が少し気がかりだが、流石に滝沢君もそこまで馬鹿じゃないだろう。
そう思いつつ教室に入った瞬間、滝沢君が僕の前に立ち塞がる。
「おい、話がある!」
そこまでの馬鹿だった。
くすくすと笑うクラスメイトたちの視線が一気にこちらに向く。最も味わいたくなかった光景が僕の目の前に広がっている。
「え、何…。」
「何じゃないよ。おいぼっち、決着をつけよう!見ててね天城さん!」
「え!?私!?な、なんで?」
突然指名を受けて当然面食らった様子の天城さん。ニヤつきながらやいやい言うクラスメイトたちをなだめながら、とてもバツが悪そうにしている。
「え、なになに?」
「なんか、滝沢とぼっちが天城を巡って戦うらしいよ笑」
「何それやばすぎ笑」
後から教室に入ってきた生徒たちも野次馬のように話し始める。いや違うんだ、僕は関係ないんだ。あとせめて僕も名前で呼んでくれ。
どうにか弁明しようにも何せ誰とも喋ってないせいでなかなか言葉が出てこない。
「うっすー。あれ何してんの?」
そう言いながら教室に入ってきた男はクラスきっての陽キャ、新田くんだった。
続く