9話 僕ら、遭遇する
拝啓
父さん、母さん
お元気ですか
僕が神託によって故郷から連れ出された後、どうお過ごしですか
僕は、パーティをクビになった挙句──
──全裸の男と平原を歩いています。
「リオスター……服を着ようとは思わないの……」
「ははっ、この時期は裸でも支障はないからな!!」
「支障はあるよね……」
上着を貸そうとしても拒絶され、せめて腰に何か巻いてくれと言っても拒否された。
これでは僕がまるで奴隷を連れ歩いているみたいだ。
いや、奴隷でも服は着ているのだから、非人道的な扱いをしている極悪人みたいじゃないか。
「んんー、パーティから離れ、勇者の称号からも離れたこの解放感! 清々しいなぁ!」
その解放感は違うところからきているのではないでしょうか。
リオスターのリオスターがぶらぶらしているのも、もうだんだん見慣れてきた。
慣れって怖い。
「しかし厄介だな。このままでは街に入れないぞ」
「自覚あるんだ……」
「うむ。何せ俺の身体は立派すぎるからな。淑女の目には毒だろう。これはいけないッ!」
「そうだね……」
もう何を言ってるのかわからないし、ツッコミも面倒くさい。
なんでもいいから服を着てほしい。
足裏とか痛くないんですか。
かつてのパーティメンバーから逃れて、昨日は野宿をした。
それでも、リオスターは元気そのものだ。スタミナのバケモノかな。
「きゃあぁあーっ!!」
だらだらと平原を歩いていると、急に悲鳴が聞こえた。
まさか目撃されたのかと思って振り返ったけど、そこには誰もいない。
「むっ!? うら若き乙女の悲鳴が……今行くぞ!!」
「いや行かないでッ!?」
猛ダッシュを開始したリオスターを慌てて追いかける。
お前、そんなもんブラブラさせてうら若き乙女の前に出るつもりか!
父親がいっしょだったら八つ裂きだぞ?!
「エルド! 悲鳴が聞こえたのだ、助けに行かずどうする!?」
「それは正しいんだけど、間違ってるんだって!」
服を着ろ!
「そうだ! これは正しい行いだ、さあ行くぞ!」
服を着ろってば!!
平原と並行して続いている森の方に近付くと、また悲鳴が聞こえた。
複数の女性に何かが起きたようだ。
確かに緊急事態だ。だけど。
パーティをクビになった僕と全裸の元勇者で何ができるのか。
さすがに足の速さも体力も、リオスターの方が上だ。
どんどん引き離されてしまった。
よく全裸で森に飛び込む気になるなと、いっそ感心してしまう。
十数歩遅れでようやく追いつく。
すると、リオスターは大きな木の幹を背にして、向こう側を窺っていた。
僕もそれにならって、隣の茂みに身を屈めて隠れながら意識を向けた。
聞こえてきたのは、複数人の男の声だ。
「へへ、若い女がこんな森にわんさかいるとはなぁ」
「ひいふうみい……六人かぁ、いいな。一人ずつ遊んでも売れる分が残るぜ」
「上玉は残しておけよ。高値で売れるんだからよ」
「おおっと、動くな。カワイイ顔に傷がつくぜ?」
見ると、武器を手にして女性たちを取り囲んでいる四人の男が見えた。
女性たちは震えながら、互いに手を取り合ったり、その場にへたりこんだりしている。
散乱している荷物からするに、木の実やキノコなどを取りに来ていたらしい。
男たちは、たぶん山賊か何かだろう。真っ当な人間ではなさそうだ。
「リ、リオスター……」
無理だよ。あんな人数。
四人だぞ、四人。僕らは二人だ。
そして、助けなければならない女性は六人。
全く手が足りない。
「ああ、俺もそう思う!」
リオスターが力強く頷いた。
え。何が。僕何も言ってない。
困惑している僕の隙をついて、リオスターが山賊の前に飛び出した!
「って何してんだよ!?」
慌てて立ち上がると、女性たちの悲鳴があちらこちらで湧き上がった。
「うぉおおっ!?」
「なんだお前ッ!」
「なっ、なんで裸なんだよ!?」
「うわっ、何だてめえっ、何者だッ!!」
山賊も怒号を上げた。
そりゃそうだよ。
でも、リオスターはまさかの仁王立ちだ。どうして。
「お前たちこそ何者だ! 女性に乱暴するとは男の風上にも置けないな!」
「全裸に言われたくねえよ!」
「獣が衣を纏った程度の輩に俺の身体を責める資格などない!!」
リオスターは正々堂々、正面から男たちに近付いていく。
謎の変質者乱入で女性たちはすっかり怯え切っていた。
もう何が正しくて何が間違いなのか分からない。
「白昼から女性たちを襲い、のみならず売り飛ばす算段をつけるなど言語道断!!」
ビシッとリオスターが山賊に指をつきつけた。
「このけだもの共め! 即刻ここから立ち去れ! 身ぐるみ脱いで置いていけ!!!」
「無茶苦茶言うなッ!」
思わず飛び出してしまった。
すると、山賊の一人が僕を見て「てめえも仲間か!」と怒鳴りつけてきた。
うう、違いますと言いたい。
しかしそれは、馬鹿の全裸男が許してくれなかった。
「そうだとも!!」
全力で肯定した彼は、ダンッと地面を踏んだ。
リオスターのリオスターが大変なことになっている。
「俺たちは悪行を見逃すことなどしないぞ!!」
ダンッ、ダンッ!
激しい音を立てながら、リオスターが山賊に近付いた。
その度に女性たちが悲鳴を上げる。
ここが地獄ですかね。
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