8話 僕、失敗する
「ダリルを助けるために身を呈して……すごいぞエルド! なかなかできることじゃあ、ない!」
君こそ勇者だ!とか何とか、向こうの方からリオスターの声が響いている。
全然! それどころじゃない!
脚はもう疲れてきたし、足裏は痛いし、膝はガクガクしてきた。
さっきから完全に息切れしてるし、体力も何もない僕には地獄そのものだ。
怪鳥もさっさとひと思いに襲ってくれたらいいのに、そんな気配もない。
バカかお前は!! 空気読めよ!
「なんてすばらしい自己犠牲の精神だ!」
そんなのないよ!
「ダリル! あんな姿を見ても何とも思わないのか!」
いいから助けて!!
もうだめだ。脚がもつれてきた。走りすぎて横腹が痛い。
僕には無理だったんだ。パーティから離れるとか、一人で逃げ出すだとか。
どうしてあっちにはいかないで、こっちに来るんだよ怪鳥は!
もうやだ!
「んぎゃっ!!」
ガツンッと何かに引っ掛かって盛大に転んでしまった。
顔面からいったから、痛いどころの騒ぎではない。受け身も何も取れなかった。
ドドドッと激しい足音が背後から一気に迫ってくる。
本当にこのまま終わってしまうんだと思って、両手で頭を押さえ込んだ。
すると怪鳥は、そのまま僕を通り過ぎて平原を駆け抜けていってしまった。
駆け抜けていってしまったのだ。
どういうこと?
「……なっ!? どうなっているんだ!」
リオスターが声を上げたけれど、僕が聞きたい。
これでは僕は怪鳥の進行方向を塞いで転んだだけの大まぬけじゃないか。
「見たか、ダリル! エルドが怪鳥を誘導してくれたぞ! なんてすごい男なんだ!」
「そんな……私たちから引き離して……?」
「そうだとも、見ただろう? 彼の勇敢なあの姿を! 信じるべきは神託ではなく仲間だ!」
何か熱いことを言っているリオスターが猛ダッシュでこっちにきた。
いや。
いやいや。
いやいやいやいや。
僕の生きるハードルをぐんぐん上げていくのはやめてほしい。
リオスターは僕を引っ張り起こすなり、ガシッと両肩を掴んできた。
「すごいぞ、エルド! 見直した! いや、さすがは俺の仲間だ。俺の見込んだ男だ!」
「え、いや……」
「なに、謙遜することはない! 君の勇気、行動力! そして冷静な判断! 完璧だった!」
完璧な冷静さと判断力があったら、今こうして全裸な元勇者といっしょにいないんですけど。
とは、言えなかった。
眉を寄せた女剣士ダリルが近づいてくる。
「エルド。アンタ……」
「いや、いやいやいや、その、さっきのは!」
慌てて否定しようとした瞬間、リオスターがガシッと肩を組んできた。
純粋に痛い。
「そうだとも、そうだとも! 見ただろう、ダリル! エルドは我々に必要な仲間だ!」
「だけど、アーリィは違うって……」
「まだそんなことを! 君の目は節穴か!? あんな勇ましい姿を見ておいて、何とも感じないのか!?」
節穴はお前の目だ。
必死に逃げていた僕のどこが勇ましかったのか。
ああ、ほら、ダリルがこれでもかと困惑しているじゃないか。
頼むから。もうホントに離してくれ。もうクビでいいよ。いいから誰かコイツを引き取って。
「わかるだろう!? 神託がすべてではない! 神とて違えることがあるのだ。アーリィもな!」
「ぐ……」
いや、ぐ、じゃなくて。
反撃してくれダリル。お願い。
「……わかったよ。アーリィに掛け合ってみる」
「本当か!?」
「でも!」
ズイッとダリルがリオスターと僕に近付いた。
「それでも覆らなかったら、その時は仕方がないから」
「だったらダメだ! 俺は戻らない! なぜなら俺は──」
リオスターが僕を見た。
いやな予感がして、背筋がぞくりと震える。
リオスターは全裸のまま、キラキラとした瞳で高らかに言い放った。
「──エルドと共に勇者として旅に出ると誓い合ったのだからな!!」
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