6話 僕ら、脱走する
一晩! たった一晩!!
ここにいれば、僕は晴れて! 合法的に! 自由の身になれたはずだったのに!
親切な兵士を壁の下敷きにしてまで、脱走したいはずがないのに!
僕は慌てて兵士を壁から引っ張り出した。
気絶している頭に手を当てて、治癒魔法をひっかけている間に怒号が廊下に響く。
兵士たちは口々に「この全裸男!」「なんてひどいことを!」と叫んだ。
僕のことは見えていないらしい。
これ幸い。僕は身を低くしてやり過ごそうとした。
過ごしたかった。
「さあ行くぞ、エルド!!」
僕の傍に降り立った全裸男ことリオスターは、元気いっぱいだ。
腕を引っ張られて立ち上がると、すぐさま倒れた壁を蹴って外へと連れ出された。
ああ、グッバイ僕の平穏。僕は罪のない兵士の手当てができただけで満足だよ。
「行くってどこに!」
しかも全裸で!
「とにかく行くんだ! ここにはいられないからな!」
そりゃそうだよ!!
一晩我慢すれば平穏でいられたのに、どうしてくれるんだこの全裸!
僕は叫びたい気持ちをぐっと堪えた。
狭い路地を駆け抜けた僕らは、人目につかないよう大通りを避けて街から抜けようと試みている。
こんなところで誰かに見つかったら、もういろんな意味で終わってしまう。
「──オイ! そこで何してる!」
終わったー!!!!
リオスターを追いかけていた僕は、転びそうになりながら声を堪えた。
低い男の声が路地に響き渡る。
後ろからだ。もういい。無視してさっさと進めば、逃げ切れるはずだ。
「兵士から逃げているんだ!」
全裸男もとい元勇者リオスターは、正々堂々とした男だ。
フルチンのくせに勇ましく答えた彼は、急ブレーキをして立ち止まる。
僕はそのまま隣を通り過ぎて、つまづいて転んで、地面を転がった。
全裸じゃなくてよかった。
「兵士だと!?」
男の声が怪訝そうになる。
当たり前だよ。
「そうだとも! だから邪魔をしないでくれないか!」
しかし、リオスターは馬鹿だ。
そんなこと言わずにさっさと逃げればいいのに。
「オイッ、こっちにいたぞー!」
男は大通りの方に顔を向けて、大声を上げた。
どうやら、追手だったらしい。もうやだ。
「なんだと! 卑怯だぞ、だましたな!?」
いったい何に騙されたというのか。
リオスターは激怒して、裸足のままで地面を蹴ると「行くぞ!」と駆け出した。
もうどうにもならない。
僕がここで自首したところで、全裸男の仲間だと思われている以上は解決にならない。
最悪だ。僕は走り出すしかなかった。
細い路地を駆け抜け、入り組んだ区域を走り、建物が疎らになって月明りが差し込んでくる。
走って走って走って走って、やっと街を抜けて林に飛び込んだ。
林はそれほど広くない。暗くて怖いけど、仕方がなかった。
林を抜けて平原に出た、そのときだ。
「見つけた!」
声が聞こえて振り返ると、そこには元仲間の女剣士が立っていた。
「って、ぎゃぁああああ、まだお前全裸なのか!!!」
月明りに照らされたリオスターの身体。
僕はそっと視線を逸らした。
どうしてお前は仁王立ちなの。
「うむ! 服はすべて脱いでしまったからな!」
そして、どうして誇らしげなのか。
「エルド! お前だけ服を着て、この野郎! 最低だな!」
女剣士はリオスターを見ないようにしながら、僕を怒鳴りつけた。
ええ、そんなぁ。不可抗力だ。
戸惑う僕をよそに、リオスターは胸を張った。
「裸も存外悪くないぞ!!」
最悪だった。
面白い、続きが気になる、そう思ってくださった方は、
下の「☆」から評価していただけると嬉しいです。
ブクマ・感想もお待ちしております!