4話 勇者、帰らない
「リオスター、考え直してくれ」
眉を寄せている戦士。
「この装備はアンタじゃないと扱えないんだってば!」
鉄格子を掴んで揺らしている女騎士。
「リオスターさん、目を覚ましてください」
両手を握り締めて目に涙まで浮かべている聖女。
三人はそれぞれ、勇者であるリオスターを求めて絶賛説得中だ。
牢屋の奥にいる僕のことなんて、視界にも意識にも入っていない。
まったくひどいものだ。
リオスターが脱ぎ捨てた勇者としての装備品は、彼以外には装備できない。
甲冑も小手も剣も盾も、誰にも扱えない。
歴代勇者が身に着けたというそれらを扱えること。
それ自体が、リオスターが勇者だという証拠でもある。
勇者がいないパーティでは、魔王討伐なんてできやしない。
彼らには勇者が、つまりはリオスターの存在が必須だ。
しかし、当のリオスターは
「俺はもう戻らないと決めたんだ!」
この一点張りである。
顔を見合わせた一行は、やれやれと肩を竦めた。
「ここから出たくはないのか?」
「出たいに決まっているだろう!」
「うまいメシが食べたいんだろ?」
「もちろんだ! 酒だって飲みたい!」
「でしたら、やはり勇者として戻るよりほかありません」
戦士、女騎士、そして聖女と続けて説得にかかる。
どうしたんだ。練習でもしてきたのか。畳みかける説得だ。
ぎゅっと手を握り締めた聖女は、大きな瞳をぱちくりさせてリオスターを見た。
かわいい。
ぎゅっと寄せられた胸元もすごいことになっている。
ああいうのは、ロリ顔巨乳というらしい。
「ぐ……」
そしてリオスターは、ロリ顔巨乳が大好きだ。
ああ堕ちるな。そう思ったときだ。
「君はいつでもそうだな! エルドにかかわる神託が変わったら出直してくれ!」
ガシャン!
リオスターは鉄格子を叩いて腕を組むと、ふんっと顔を背けた。
嫌な拗ね方だ。
急に名前が出された僕も驚いたけど、三人の方も驚いた様子でいる。
「いいか! 俺はエルドを見捨てない! エルドと共に突き進むんだ。俺は仲間を見捨てたりしない!」
パーティをあっさりクビにされた僕にとって、リオスターの言葉は救いだった。
三人は困惑している。
僕はいらないが、勇者は欲しい。
だが、僕がいないと勇者は戻らない。
しかし、神託は絶対だ。聖女がそれを覆さないのであれば、僕はパーティに戻れない。
戦士と女騎士の困惑は更に深まった。
聖女は眉を下げたまま、じっとリオスターを見つめている。
「……いいえ。いずれ、おわかりになるはずです」
まさか。あんなことになるなんて、その時の僕には想像もつかなかった。