2話 勇者、激怒する
「……リオスター、冷静になるんだ」
最年長の戦士が眉をひそめた。
僕らは二人して、宿の廊下に引っ張り出された。これじゃあんまりにも変質者だ。
まだ人が来ていないからいいけど、このままでは最悪なことになってしまう。
「俺はいたって冷静そのものだ! そうだろ、エルド!?」
「いやまぁ、ええっと……」
勇者リオスターは元気そのものだ。
いや、もう勇者ではないらしいから元勇者か。もうどっちでもいい。
「アーリィが魔法を使えるからといって、魔法使いをクビにするなんておかしいだろ!?」
リオスターは相当怒っているようだ。
ダンダンッと床を踏んづけている。
ああ、やめて。リオスターのリオスターがブラブラしてるからやめて。
「だったら最初から入れるんじゃない!!」
飼えないなら拾うんじゃないみたいな言い方された。
「……はぁ……神託なら仕方がないだろう。ワガママを言うな」
戦士は面倒くさそうにリオスターをなだめるが、ワガママ元勇者は聞かない。
僕まですっぽんぽんにされているのに、ひどいものだ。
今が冬でなくて良かった。本当に良かった。
「この冷血漢! 筋肉ばかり鍛えて心がないのか! 神託が間違っている可能性だってあるぞ!」
「例えばどういう時だ」
「今まさにそうだろう! 俺が勇者をやめてしまったら、俺が勇者で魔王を討伐するって神託は嘘だ!」
急に正論を言い出した。
戦士はまた溜め息をついて、今度は僕を見た。
見られても困る。
僕にはアーリィの言葉を覆すことも、ましてやリオスターの勢いを弱めることもできない。
知っているはずだ。僕はパーティ最弱──そう、パーティ内権力最弱なんだぞ。
「ふんっ、そんな奴だとは思わなかった! 失望したね!」
「俺も今まさにお前と同じ気持ちだ」
戦士は遠い目をした。
とうの勇者がこれでは、確かにどうにもならない。
すると、またガシッと手首を掴まれた。
「よーし、こうなったら新天地だ! 俺たちでパーティを組み直すぞ!」
「え。え?」
「神託なんてクソ食らえだ! 俺らこそが勇者パーティだと知らしめるぞ!」
「いやいやいやいや待って待って待って、だめだってこのままじゃっ」
「そうだな、このままではだめだ! 神託なんかに負けないからな!!」
高らかに宣言した自称元勇者は再び勇者になる気満々で歩き出した。
僕も引っ張られるがままに──
「きゃあああぁぁ!?」
「いやぁぁああっ、裸ぁああ!」
「男の人が裸でいますぅうう!」
──外に出た瞬間、僕らは悲鳴の渦に飲み込まれた。