１９話 僕、運だけで勝つ
「──お前！ そんな装備で何してやがる！」
聞こえてきた声は、リオスターの──ものではなかった。
ハッとして天井の穴を見上げると、戦士ケビンが僕を見下ろしていた。
こんなところまで追いかけてきたのか！？
という気持ちと、
何でもいいから助けてほしい！
という気持ちが頭の中でごちゃ混ぜになる。
「あ、あ、ぁああ……っ」
パニックだった。
もう何も言葉が浮かばない。
あわあわしながら、迫り来るドラゴンを示すことしかできない。
だって、ケビンには僕を助ける理由なんてない。そうだろ。
だって、だって、ケビンはきっとリオスターを迎えに来たんだ。
諦めるしかない。
そう思ったのに、ケビンはヘルプひとつ叫べずにいる僕の前に颯爽と降り立った。
え？ え！？
「な、なんで……」
僕の間抜けな問いに、ケビンは振り返らない。
「パーティを追い出したからといって、見殺しにはできん！」
なるほど。すごい。ケビンは勇ましい。男の中の男だ！
でも僕は慌てて壁伝いに動いて、逃げられる場所を探した。
いや、だって、僕がいたってどうしようもできない。どうにもならない。
だったら、少しでも生存率を上げたい。僕は死にたくないから！！！
シンプルな洞窟内に隠し扉なんてものはなくて、せいぜい自然にできた窪みがあるくらいだ。
やっぱり上に行かないと、出られそうにない。
あっという間に通路を塞いだ巨体が迫ってきた。
やばい。やばいやばいやばい！
「うぉおおおおっ！！」
戦士ケビンが盾を構えて突っ込んでいく。
いや、そんなので勝てるはずないよ！！
そう叫びたいのを我慢して、登れる場所がないかを探して壁沿いに動きながら岩を叩いた。
と、何かにつまづいて転んでしまった。
痛い。
「いてて……な、なに……ひっ！？」
そこにあったのは、おびただしい量の骸骨だった。
持ち主がいなくなった装備品も転がっている。いや。いやいや、いやいやいやいや！！
あわあわしていると、「エルド！！！」と名前を呼ばれた。
振り返った僕の視界に戦士の姿はない。
代わりに距離を詰めたドラゴンがいた。
え。
えっ。
え！？
ガシャンッと鎧やら何やらもろとも、尻もちをついてしまった。
「──ひっ」
こんな装備で来るんじゃなかった！
そもそもドラゴン討伐なんて無理だったんだ！
そりゃそうだよ！ 無茶だよ！！
頭の中でリオスターを呪いながら、せめてもの反撃でその辺に落ちていた石を引っ掴んだ。
「あぁああああああぁあっ！！！！」
死にたくない死にたくない！
その一心で石をぶん投げた。
すると、天井に空いた穴から差し込む光に当たって、石がぱぁあっと明るく光った。
一瞬何も見えなくなって、僕は頭を抱えてその場に縮こまった。
「……？」
静かすぎる。
そーっと腕を離して顔を上げると、ドラゴンの姿はなくて、反対側の壁に戦士の姿が見えた。
盾でがっつりガードしてた。あの野郎！ いや、いいんだけどさ！
光の残像が残る目を瞬かせていると、上からまた声が降ってきた。
「エルド！！ 君はやっぱりすごいなぁ！！」
「え？」
リオスターだ。
なんでお前が外にいるんだよ。
「ドラゴンを弱体化させたぞ！ よくぞ的確にその魔石を見つけたものだ！！」
「え？？」
魔石。
魔法の石。いや、魔力の石。
おずおずとドラゴンがいたところに視線を向けると、薄らと光を帯びた石があった。
「はっはっはっ！」
笑い声と共にリオスターが飛び降りてきた。
ケビンもそうだったけど、どうしてそんな軽々着地できるんだ。
「さすがだ！ うむ、これはいいな！ 成体がいなくなれば討伐完了だろう、そうだろう！？」
「え、いや、でも、証拠が……」
「証拠はこれだとも！！」
リオスターは光を帯びた魔石を拾って掲げた。
ああ、そうか。あの中に閉じ込めたということなのか。
僕が適当に掴んだ石は、討伐隊が使い損ねた魔石だったということか。
僕は運気EXなのかもしれない。
「さあ、ケビンも立つんだ！ これで大金が手に入るぞ！！！」
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