18話 僕、遭遇する
雑草が生い茂る急斜面を上がると、洞窟の入り口が随分と下の方に見えた。
なかなかの高さがあるらしい。
洞窟内はどうなっているのかな。
リオスターが単独で入ってしまうなら、一緒に行った方が良かったかな。
一瞬悩んだ僕は、ぶんぶんと首を振った。
「別にドラゴン本体に会わなくてもいいんだ」
そう、討伐依頼ではあるけれど、ドラゴンの個体数は分かっていない。
爪、鱗、尻尾の一部──とにかく何でもいいから、討伐しました、というのが分かるモノがあればいい。
契約書にはそう書いてあった。
今思えば、それすらできない相手だということだろうけど。
うう。つらくなってきた。
相変わらず周囲は静まり返っている。
不自然なほど、動物──特に鳥の鳴き声ひとつしない。
ここには生き物がいないのかと思うくらいだ。虫はいるけど。
足元で順調に蝶々を運ぶアリを見て、僕は深々と溜め息をついた。
こんな風に、抜け落ちた鱗でも剥がれた爪でも脱皮した抜け殻でも何でもいい。
僕にも運んでくれないかな、なんて思う。
「……あれ?」
ちょうど洞窟の奥に向かう形で、上を歩いているとぽっかり開いた穴が見えた。
覗き込むと、草まみれのこちらと違って、下には岩の壁が淡々と続いている。
ここからも洞窟に入れるのか。入らないけど。
きょろきょろと周囲を見回してみる。
誰もいない。
リオスターもいない。
僕はひとまず、その場に腰を下ろした。
洞窟が一本道かは分からないけど、上から見る限りはリオスターがここを通る可能性は高そうだ。
人ひとりどころか、ドラゴンごとすぽっと入れそうな巨大な穴は少し怖いけど。
入口を見下ろした時ほどの高さは感じない。
「はー、二人でドラゴン討伐なんてムリだよ……無謀だよ、そんなの」
それもこんな装備で。
強い装備は討伐隊に渡し尽くしたのだろうけど、それにしたってこんな。
持っていた杖を腰のベルトに引っ掛けたそのとき、急に空が暗くなった。
何だ雨でも降るのか。
そう思って空を見上げたとき、血の気が引いた。
音もなく背後に立って──いや、僕ごと穴を覗き込んでいる巨大なトカゲ、いやいや、え。
「ど、ど、どっ……ドラゴンだぁああッ!!」
慌てて立ち上がったのも遅い。最悪だった。
足を滑らせた僕は、そのまま洞窟に真っ逆さま。
洞窟の外側を覆う植物の一部に引っ掛かって、勢いが緩む。
でも、落ちる動きは止まらない。
ドンッと何かにぶつかった。痛い。
でも、そんなことを言っている場合じゃない。
一番遭遇したくなかった生身と遭遇するなんて最悪だ!
間一髪で風の魔法を唱えた僕は、よろめきながら着地して、一目散に駆け出した。
「ひっ、ひぃい! リオスターッ!! リオスターどこー!?」
必死に叫ぶけれど、どこにも姿はない。
マテマテマテ。僕にはランタンがない。
どんどん暗くなっていく洞窟内にビビったけど、進めば光が見えた。
洞窟の天井にはいくつかの穴があるらしい。
あそこからドラゴンが出入りしているのかな、採光窓みたいだな、じゃなくって!!!!
「リオスターっ!!!」
必死に叫びながら駆け抜けた。
何か骨みたいなものとかあるけど、たぶん動物のものだ。うん、そうだ。
動物にも肉があるし、食べているのかもしれない。食物連鎖だ!
真後ろから何かがついてくる気配がするけど、振り返れない。
必死になって全力疾走したのに、とうとう行き止まりになってしまった。
「リオスターってばぁあああ!!!!」
どこにいるんだ死んだのか!!
僕を置いて死ぬなよ!!!
壁を叩いたけど、ただの岩だ。仕掛けなんてない。
真上には穴が開いている。でも、だめだ。登れる高さじゃない。
僕は飛行魔法なんて持ってない。
壁に背を押し付けると、向こうの方からノシノシと歩いてくる何かが見えた。
「──ひっ……」
行き止まり。四面楚歌。万事休す。
そう思ったとき、上から差し込む光が少し途切れた。
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