15話 勇者、始末される
僕を狙っていたはずの蔦たちが、一斉にリオスターを攻撃した。
といっても、あの蔦は本来拘束用のものであって、攻撃力はそれほど高いわけじゃない。
だから、転んだ状態だとしても、リオスターが負けるはずがない。
即座に立ち上がって地面を蹴り、蔦を素手で払いのけるリオスターは確かにカッコいい。
全裸だけど。
「はっはっ、聖女というからには純白かと思ったがな!」
デリカシーもないけど。
「ひ、ひっ、ひどくありませんか! こ、こんなっ、こんな屈辱!」
聖女アーリィはスカートを押さえ込みながら涙目になっている。
確かに僕も黒は予想外だなとは思うけど、見たとしても口には出さない。
止めようとしていたダリルは、行き場のない手をゆらゆらさせながら困惑している。
戦士はもっと困惑している。もう何を言ってもセクハラになるから、むしろだんまりだ。
「すごいっ、エルドさん。あの一瞬であんな魔法を……」
「リオスターさんを助けたのか?」
「なんだなんだ、何が起きたんだ?」
「くろ? くろって?」
村人たちが遠巻きに僕らを見ながら、いろいろ言っている。
もう訂正している暇も元気も気力もない。あとタイミングもない。
「アーリィ! 早朝の村を、このようなことで騒がせるものではないぞ!」
言っていることだけは正しいんだよなぁ。
リオスターは、両手を腰に当てて仁王立ちのままで言った。
アーリィは今にも泣き出しそうな顔をしたまま、リオスターの顔を睨みつけている。
絶対に下は見ない。
絶対に見ないようにしている。
僕は地面に擦れたリオスターのリオスターが無事なのかどうかが気になっていた。
「アーリィ、いったん引いた方がいいよ……」
顔を引きつらせているダリルは、どっちに対してその表情をしているのか分からない。
たぶん。リオスターとアーリィ双方に、だろうけど。
リオスターの割合が高いそうな気がする。
「村人たちを巻き込むことになってしまうぞ」
戦士ケビンもおずおずと声をかけた。
わなわなと震えていたアーリィが、キッと僕を睨みつける。
冤罪だ。
「覚えておいてください! 神託は絶対ですからっ、勇者は返していただきますから!」
冤罪だ!
「僕だって返したいよ!!?」
リオスターが自分の意思でついて来るんだから、どうしようもないじゃないか。
あんまりだ!
泣きそうなアーリィを連れたダリルとケビンが、急いで立ち去る背中がいっそ物悲しい。
農具を下ろした村人たちは、なんだったんだと困惑顔だ。僕も困惑している。
男性たちの間から出て来た女性──あ、村長の孫娘だ。
慌てた様子で、リオスターに服を差し出している。
「あ、あの、どうか……」
「む? おお、ありがとう! 助かるよ!」
孫娘の赤面が、どういう意味なのかちょっとよく分からない。




