13話 勇者、再び激怒する
いや、あった。
全裸男再来以上に面倒なことが、確かにあった。
リオスターに引っ張られて離れを出た僕らは、早々に取り囲まれた。
誰に。そう、元パーティメンバーに、だ。
「やっぱりここにいたな!」
向かって右側で女剣士ダリルが腕を組んで僕らを──リオスターを見た。
「アーリィの言った通りだ。やはり神託は正しい」
向かって左側で戦士ケビンが神妙な面持ちで頷いている。
「当然です。神託に誤りなどありません」
そして、正面。中央。ボスの如く立っている聖女アーリィ。
「なぜここが分かった!?」
リオスターが叫んだ。
早朝から元気だな。ていうか、ご近所迷惑になりそうで怖い。
ふっと笑った聖女アーリィがまっすぐにリオスターを見る。
僕のことは、完全にアウトオブ眼中だった。知ってた。
「簡単なことです。見つからないのであれば、罠を張ればいいのです」
「罠だと!?」
「困っている方がいれば、あなたは必ず助けてしまうではありませんか」
「もちろんそうだとも!」
「それを、利用させていただきました」
利用って言ったぞ。神託関係ないだろ、それはもう。
「なっ、なんだと……ッ!?」
リオスターは衝撃を受けている。どのあたりに衝撃ポイントがあったのかな。
聞きたくはないけど。
「……?」
アーリィの言い分に少し引っ掛かった。
利用した? 確かにそう言った。
リオスターが人を見捨てない性格だから。それを利用した。利用。
「……まさか。山賊を……」
けしかけたのか、という言葉は飲み込んだ。
僕を見たアーリィの目が怖すぎたから。
「だったらどうだというのですか。私を糾弾しますか。
元はといえば、神託を無視するあなたが悪いのではありませんか」
アーリィは不愉快そうに眉を寄せた。
え。僕は神託通りにクビになったんですけど。
「勇者をパーティから連れ出した挙句、全裸にした上、連れ回すだなんて……」
え。してないですけど。
勝手についてきたし、勝手に全裸になったし、僕が連れ回されているんですけど。
僕の困惑なんて知りもせず、アーリィは続ける。
「最低です。よくもそんなことができますね。見損ないました」
「そうだぞ、エルド。誘拐は重罪だ」
「なんで!?」
聖女の言葉に戦士が頷くから、僕は思わず叫んだ。
「リオスターは勝手についてきたんだよ!」
「そんなっ、エルド! どこまでも共にいくと、そう誓ったじゃないか!」
「黙ってろ! 話をややこしくすんなッ!」
あと話を捏造すんな。
リオスターが僕の手を離してくれない。
うう、孫娘さんの手が恋しい。
「どのような言葉でリオスターさんをたぶらかしたかは知りませんが、恥を知ってください」
「僕が!?」
誤解にもほどがある。
「リオスターさん。その方は勇者にふさわしくない人格の方です。
今までパーティにいたことが誤りでした。おわかりいただけましたか?」
無視された。
僕をシカトしたアーリィは、まっすぐにリオスターを見ている。
絶対に下は見ないようにしている。
リオスターのリオスターがおはようしているからだ。
「リオスターさんには使命があります。勇者として、国を、世界を救わなければなりません」
「分かっているとも!」
「困っている方々のために、勇者としての素質を持つあなたの力が必要です」
「もちろん、それも知っているとも!」
リオスターは力強く頷いた。
戦士と女剣士が顔を見合わせる。
聖女は満足げに頷き返した。
「では、パーティに戻ってきてください。装備もきちんとお持ちしておりますので」
「それは断るッ!!」
ズイッと前に進み出るリオスター。
いろんな意味で後ずさるアーリィ。
「言っただろう! 今まで苦楽を共にした仲間を途中で切り捨てるような信託は信じない」
リオスターは、全裸のままで両手を腰に当てた。
女剣士ダリルもちょっと後ずさっている。
「ケビン! 君ならわかるはずだ!」
急に名前を呼ばれた戦士が眉を寄せた。
「病める時、健やかなる時、どのような時であって仲間を見捨てることはできない!」
リオスターは声を高らかに響かせた。
うん、早朝だってば。控えろよ。
「それはいわば、自分の分身をある朝唐突に切り捨てるようなものだ! 君にはそれができるか、ケビン!!」
ダンッ!
リオスターが地面を踏み鳴らした。
その股間でナニがどうなっているのか、後ろにいる僕には見えない。
ただ、戦士の視線がそこに向いたのは分かった。
ついでにダリルとアーリィが視線を逸らしたのも見えた。
「あらゆる苦楽を共にした相棒を! 切り捨て! 踏みにじり! そのようなことがあっていいのか!?」
ちょっと待て何の話?
下ネタ???
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