12話 勇者、お姉さんと消える
女性たちから事情を聞いた村の男性たちも、僕らを大歓迎してくれた。
そして、お祝いかと思うほど豪華な肉料理や果物が山盛り出され、酒まで振る舞われた。
逃げようとしただけの僕は心が痛い。
「勇猛果敢に立ち向かわれたとか! いやあ、さすがですなぁ!」
「はっはっは、なに、当然のことをしたまでだ。なぁっ、エルド!!」
村長さんと話をしながら酒を酌み交わしているリオスター。
奴から急に話を振られる度、僕はビクンッと肩を跳ね上げてしまう。
そりゃそうだよ。一晩中全裸だった奴と逃げようとした奴なんだぞ、僕らは。
勇猛果敢だなんてとんでもなかった。
「リオスターさんって……もしかして、勇者さまかしら?」
胸元がざっくり開いた服のお姉さんが、リオスターの隣に腰掛けた。
つまり、僕の斜め正面だ。目のやり場に困る。すげーぼいんぼいんだ。
「そう呼ばれていた頃もあったが、今はただのリオスターだ!」
「まぁ、やっぱり……どうりで、逞しいお身体だと思いましたの」
お姉さんの手が、リオスターの肩から腕をするりと撫でた。
指先の動きから掌の沿わせ方までいやらしい。
見ているだけの僕の方が、ドキドキしてしまう。
服一式をもらってきちんと着衣しているリオスターは、確かにハンサムな色男だ。
体つきはお姉さんの言うとおりに逞しい。声だってイイ。
ただおつむが足りなくて、中身が残念という事実がある。
僕を見てくすっと笑ったお姉さんが、リオスターに何かを耳打ちした。
何だろう。そう思っていると、僕の隣に別の女性がやってきた。
おっとりとしたタレ目の美人さんだ。癒しオーラがすごい。
「エルドさんエルドさん、あなたがモンスターを山賊にけしかけたって聞いたわ」
「え、あ、まあ、はい、なんというか、はい……」
「モンスターの生態に詳しいのねぇ、機転の利いた判断力があるなんて……素敵ね」
「うん、まあ、えっと、まぁ、その、ああ、うん……」
褒められ慣れていない僕はしどろもどろだ。
食事の間、入れ代わり立ち代わり色んな女性と話をした。
どの女性も僕らを褒めてくれるけれど、褒められる度に増していくのは罪悪感だった。
いよいよ食事が──いやもう宴か──お開きになったとき、
ふとリオスターがいないことに気が付いた。
あれ?
村長宅の離れに部屋を用意された僕らは、食事が終わったらそこに向かうはずなのに。
ぐるりと周囲を見回すと、さっきのお姉さんと一緒に出ていくリオスターの姿が見えた。
え。
えっ。
え!?
お持ち帰り……いや、お姉さんの家に行くだろうから、お持ち帰りされた方……?
僕があまりの出来事に衝撃を受けていると、別の女性が「あちらですよ」と手を取ってきた。
村長の孫娘だというその女性は、森の中にいた女性たちの一人だ。
リオスターが気になるけれど、村の闇に消える男女の間に割って入る勇気なんてない。
「離れまでご案内しますね」
「ああ、どうも、すみません……」
孫娘さんは、美人という感じではないけれど、柔らかくて優しい雰囲気の人だ。
きれいというより可愛いといったタイプ。
手を握って歩かれたから、ひどくどぎまぎしてしまった。
孫娘さんは僕を村長宅の離れまで、暗がりの道を案内してくれた。
そして、室内の明かりを灯して、簡単に手洗い場などの説明までしてくれた。
そして。
そして。
そして──。
「──……」
僕は何事もなく朝を迎えた。
いや、うん。別に期待とかしてないからいいんだけどね!
のそりと起き上がると、外はまだ薄暗い。早朝らしい。
リオスターは帰ってきていない。ですよね。そりゃそうだ。
説明をしたあとにおやすみなさいと立ち去った孫娘さんの顔を思い浮かべつつ顔を洗う。
布で顔を拭くと、さっぱりした。
リオスターを待つかどうしようか、少しだけ考える。
リオスターがもしお姉さんと仲良しこよしのくんずほぐれつしていたら、僕だけで村を出てもいい。
別にみじめじゃない。僕はそんな心の狭い男じゃない。みじめじゃない。
もうひと眠りしても良かったけど、あまり長居をするのも迷惑な気がした。
どうしようか。そう考えていると、
「エルドぉおおおっ! 起きているか、エルドー!!!」
リオスターが飛び込んできた。
「はっ!?」
そしてどうして、また全裸なのか。
ぎょっとしていると、リオスターは僕の手をぎゅうと握り締めた。
なんでびしょ濡れなんだ……風呂上りかな……。
「エルド無事だったか! 奴らが来たぞ!」
「いや待っていいから服を」
「こうしてはおれん! また面倒なことになる前に行くぞ!」
「待って待って待って服を着て!!」
全裸男再来以上に面倒なことなんて、僕にはないよ!




