10話 僕ら、山賊に勝つ
無茶だぞ、こんなの。
四人の山賊に僕ら二人で敵うはずがない。
だというのに、リオスターは全力で喧嘩を売っている。
「……どうしよう……」
僕は詠唱の時間を稼いでもらわないといけない。
でも、リオスターは全裸。フルチン。ノー装備。丸腰だ。
四人を相手にして、時間稼ぎができるとは思えない。
ジリジリと、僕は後ずさった。
無理だこんなの無茶だこんなの。
女性たちには悪いけど、多勢に無勢じゃ勝ち目がない。
よし。逃げよう!
僕はくるりと後ろを向いて、一目散に駆け出した。
「エルドッ!?」
リオスターが大声を上げたけど関係ない。
こんな怖い場所にいられないんだ、ごめん!
「ごめん! リオスターッ、僕やっぱり──んぎゃっ!?」
大きな木を通り過ぎようとした時、思い切り蔓に右足が引っ掛かった。
バランスを取ろうとした左足が木の根にぶつかって、そのまま幹に衝突。
何かに掴まろうと伸ばした手は、幹に沿って垂れた蔓を掴んだ。
鞭かと思うほど太い蔓を握り締めて引っ張ると、そのままズルリと伸びてきて結局転んだ。
ドンッと膝をぶつけて、ガンッと腰をぶつけて、地面に投げ出される僕。
「最悪だ……」
うう。自業自得とはいえ痛い。
握り締めていた蔓を持ったまま顔を上げると、ドサリと何かが落ちてきた。
毛むくじゃらの身体。ぎょろりとした瞳。鋭い牙、長い手足に大きな掌──
「──ぎゃああぁあああっ!?」
落ちてきたのは猿型のモンスターだった。名前なんて知るか!
蔓をぶん投げてその場にうずくまった。
コイツら、旅人を集団で襲うとか聞いたことがある。
一度遭遇したら、奴らのテリトリーの森から離れてもしばらくは追ってくるとか。
「ぎゃーっ!!」
「うぉおおっ、やめろっ!」
「ひぃいっ、なんでコイツらがっ!」
あれ。
あっちから悲鳴が聞こえる。
そういえば、さっきも聞こえた。僕、悲鳴なんて上げてないのに。
恐る恐る顔を上げると、「大丈夫か!」と走ってきたリオスターのリオスターが見えた。
うう、最悪の光景。
「キーキーモンキーを呼ぶなんて、エルドはすごいな!?」
「き、きー?」
「奴らは集団の中で強いものを駆る習性がある……なるほど、女性たちを守るために奴らを!」
「は、はい?」
僕を引っ張り起こしたリオスターは、勝手にどんどん納得している。
「奴らにとって雌は攻撃の対象外! なんて冷静な判断力なんだエルド! 君はすごいな!」
「い、いや……」
「キーキーモンキーの居場所を素早く特定した上、あんなにも効率的にけしかけるなんて!」
「ち、ちが……」
「ああ、エルド!! 君はやっぱり最高の仲間だッ!!」
「聞いて!?」
けたたましい鳴き声を上げているキーキーモンキーの数は、どんどん増えている。
だが、リオスターの言うとおり、女性たちには全く襲い掛かろうとしない。
って待てよ。それだと僕らはどうして。
「キーキーモンキーの習性を熟知しているなんて、さすがとしか言えないな」
「なんで僕らは無事なんですか……」
したり顔で頷いているリオスターに、僕は肩を落としながら問いかけた。
もうぐったりだよ。
「ははっ! 俺だってそれくらい分かるぞ、エルド! 俺は裸だからな、異物とみなされていない!」
「いぶつ……」
「君は背が低いからな! 成体だと認識されなかった! どうだ、正解だろう!?」
リオスターのキンキラキラキラなおめめがツライ。
ていうか、僕は別に問題を出したわけではないんだけど。
でも、確かにモンスターは僕らのことなんて眼中になさそうだ。
全裸すっぽんぽん丸出し男もといリオスターは、人間だと思われていないのか。それもすごいな。
僕を幼体扱いしているのは、もういいよ。異論しかないけど、もういいよ。どうせ僕はチビだよ。
ものの数分で山賊たちは森から追い出され、更に平原を駆けずり回っていく悲鳴が響き渡った。




