1話 僕、クビにされました
「エルド、アンタはクビだから」
へそ出しルックの女剣士の言葉に、僕は耳を疑った。
え、待って。待ってくれ。なんだって?
「だから、アンタはもうクビなの。パーティには必要ないってことよ!」
「え、えっ、そ、そんな急に……」
「これはもう決定したんだから。ねぇ、アーリィ!」
女剣士が椅子に腰掛けている聖女アーリィを振り返った。
アーリィは僕らにとって、指針そのものだ。
彼女が行けと言えば僕らは進み、止まれと言われたら止まる。
聖女である彼女には神の声が聞こえるらしいから、それは当然のことだ。
でもまさか、僕が追い出されるなんて。
「う、うそだよ、そんな……アーリィ、僕らここまでずっと旅を……」
「残念ですけれど」
アーリィは手にしていた本を閉じて、座ったまま僕を見た。
「ここから先、あなたの力を借りる場面は全くありません」
「だから、クビってこと……?」
「はい」
あんなにも可憐で優しかったアーリィの笑顔が、ひどく冷たく見えた。
よろめいた僕がぶつかると、戦士のケビンは面倒そうに眉を寄せた。
待って。そんな。どうして。
困惑していると、女剣士ダリルが首を振った。
「アーリィがこう言ってんだから仕方ないだろ。今までご苦労さんでした」
「待ってくれッ!!」
室内に大きな声が響いた。
でも、その制止は僕じゃない。
声を出したのはパーティリーダー、僕のトップ──勇者リオスターだ。
「ここまで一緒に旅をした仲間じゃないか! それをそんな理由で!」
「けどな、アーリィがああ言うんだ。分かれよ」
「そうだぞ、リオスター。お前らしくない」
女剣士に続いて戦士まで勇者をいさめた。
そりゃそうだ。なんてたって、そもそもリオスターが勇者という地位を得たのもアーリィのおかげだ。
彼女が神託だといって、彼を勇者として僕らを集めた。
僕らにとって、聖女アーリィの言葉は絶対だ。
「何を言っているんだ! 目を覚ませ、こんなのおかしいだろう!?」
リオスターはいいやつだ。
ちょっと頭が弱いけど、そこだって愛嬌の範囲だ。
両腕を広げてメンバーを見回した勇者は高らかに言い放った。
「役立たずがなんだ! ごく潰しがなんだっ! 構わないじゃないか! 仲間だろ!」
あれ。
「エルドが一番弱いのは分かってたじゃないか! 戦闘の役には立たないとも! 全くな!」
あれれ。
「最弱だからってパーティを追い出すなんて、俺は認めないぞ!」
素直にありがとうと言えない雰囲気になった。
シンと静まり返る室内。僕もいたたまれない。
はあ、とアーリィがため息をついた。僕もつきたい。
「ですが、必要ありませんから」
「お荷物だってことか!?」
「ここから先、彼にしてもらうことはありませんので」
「だからってお払い箱か!?」
「私たちだけで十分ですので」
「貧弱だからって、そんな扱いないだろう!」
僕はいったい、リオスターに何をしたんだろう。
アーリィよりもひどいことを言われている気がしてきた。
ぼうっとしていると、リオスターに手首を握られた。ひえっ。
「こうなったら、俺もパーティを抜けるぞ! こんな非人道的な扱いがあるか!」
なんですかと言おうとしたら、すごいことを宣言された。
高らかな宣言に、全員が呆気にとられた。
アーリィでさえ、驚いて固まっている。
「今までずっと仲間だと思っていたのにクビだなんて! そんなバカな話があるか!」
「い、いや、リオスター、お前がいないと旅が……」
「エルドはそれでいいのか!? 俺はやだねっ、こんなことを認めるパーティにはいられない!」
そう言うなり、勇者リオスターは急に服を脱ぎ出した。
「こんなもの! 必要ない! お前らが使えばいいだろ!」
「いや待て待て! なんで脱いでる!?」
「俺は勇者をやめてやるんだ! こんなパーティにいられるか! 勇者の装備は全部置いていくぞ、好きにしろ!」
「いや待って! なんで服まで脱いでんだよ!」
「こんなひどい奴らとの旅の証なんて、こうだ!」
バサッ!
勇者リオスターはとうとう裸になった。
すっぽんぽんだ。すっぽんぽん。フルチン状態。
うわあ、女剣士も聖女も、もうこっちを見てくれない。
「さあ!」
「はい?」
「さあ! エルド、君もだ! 心機一転だ!」
そう言われた僕は、勇者に身ぐるみはがされた。