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内藤君の呑気で素敵な数奇な軌跡  作者: ダル
第一章 初めての異世界編
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第一話 今月の議題

 


「それでは、今月の議題は異世界に決定します!」


 きっかけは部長のこの一声だった。


 私立朝霞学園の旧校舎にある一室にあるミステリー研究会の部室で毎月発表されるテーマ。


 どうやら今月は異世界らしい。意味がわからん。


 三年生が受験の為引退して、新部長となったのは二年生の朝霧風香あさぎり ふうか


 この学園の理事長の娘であり、僕の幼馴染でもある。


 ミステリーに特に興味もない僕がミス研に所属している主な理由で、幼馴染の風香に強引に誘われて入部する事になってしまったのだ。


「春人、ミステリー研究会に入るよっ!」


 この一言で僕こと内藤春人ないとう はるとの行き先が決定した。


 拒否権は無かった。まぁ、断るつもりもなかったけど。


「変なものに目をつけたのねぇ」


「いつもの事よ、ラノベでも読んだんじゃない?」


 双子の山岡姉妹が呆れた顔で風香にツッコミを入れている。姉のおっとりした紗羅さらとしっかり者の蒼羅そらのいいコンビ。


 紗羅はそのほんわかとした雰囲気と優しさのせいか、我が校の男子生徒中でNo.1の人気を誇っている。


 その反対に蒼羅は少々キツイ性格でやや敬遠されている。


 双子なのにここまで正反対の性格も珍しい。


「それで、具体的に何をするんだよ? ラノベを読んで感想文の提出って訳じゃ無いだろ?」


 僕と同じクラスの東康太あずま こうたが面倒くさそうに質問している。コイツは全ての物事を筋肉で考えているような奴で、今も腕立てをしながらハアハア言っている。


 康太曰く筋肉は裏切らないそうだ。


 一体何に裏切られたんだか。


「当然でしょ? 目的は異世界に行くことよ!」


「姉様、それはさすがに無理があると思いますが?」


 部室の隅の方で興味なさげに文庫本を読んでいた一年生の朝霧萃香あさぎり すいか、風香の妹が冷静なツッコミをする。


 この萃香は僕達の一つ年下であり、姉の為ならどんな事でもする超絶シスコンである。


「萃香、試しても無いのに最初からそれじゃあ出来る事もできないわ」


 良い事を言っている風に聞こえるが、どう考えても無理だろうねぇ。


「姉様、ではどうしますか?」


 全員の注目が集まった所でつかつかとホワイトボードの前まで歩いて行った風香。


「まず、私は膨大な数の資料を読みました」


 ドン! と机の上に積まれた資料。


「ラノベね」


「うん、ラノベだね」


「異世界には大きく分けて三つの方法で行く事ができます。」


 行けないって!


「一つ目は転生。これは一度死んでしまった人が、なんやかんやで異世界で新たな生を受けます」


 なんやかんやを説明しないんだ?


「二つ目は召喚。これは異世界に住む人がなんらかの方法で私達の世界の不特定多数の誰かを召喚する物です」


 なんらかとは? そこ大事な所だよ?


「この二つは受動的な物で私達にはどうすることも出来ずただ待っているだけですね」


 ふむふむ受動的ね。能動的な方法なんかあるんかいな?


「そして、三つ目。この方法を今回試してみたいと思っています。なので今から私の家に来て貰います」


「風香よ、質問がある」


「なーに春人?」


「今から試す方法とはなんだ?」


「すぐに判るわよ?」


 風香がやけにご機嫌だ。


 今まで僕の経験からすると、かなりヤバイ香りがする。


「その方法に危険は無いのか?」


「私を誰だと思ってるのよ?」


「危険人物?」


「失礼よ、春人」


 嫌な予感が止まらないが、僕以外のメンバーは楽しそうに出発の準備をしている。


 部室を出て校門まで行くとワンボックスカーが止まっており、運転席には風香専属の執事の秋山さんが座っていた。


「ご無沙汰してます。秋山さん」


「春人様、お久しぶりですな」


 幼馴染である風香が小さな頃からの専属執事なので、当然ながら僕とも面識がある。


 だが学園に入学してからは朝霧家にお邪魔する回数も減り、秋山さんと会うのも約一年ぶりである。


「お願いしまーす」


 全員乗り込んで、車に揺られる事十分程で、朝霧家に到着する。相変わらずの超豪邸に少しだけ怯んだが何事も無くエントランスまでたどり着いた。


「はい、みんな今日は中に入らないで、私に着いて来てね」


 巨大な庭に設置されたなんともお洒落なテーブルセットにケーキと紅茶を用意しているメイドさん達。


 やはりお金持ちは違うな。メイドさんがそこかしこに居るんだからな。


「皆さんようこそ」


 こちらは風香専属のメイドの美月さん。秋山さんのお孫さんでもある。


 女子メンバー四人がいそいそと椅子に腰掛け、早速ケーキを食べはじめる。


「さぁ、春人さん、康太さんもどうぞ召し上がって」


 美月さんに促されたものの、僕は余り甘いものが好きでは無い。


「あー、ケーキはちょっと……紅茶だけ頂きます」


「プロテインは無いっすか?」


 康太よ、ブレないな。


 美月さん。別に無理しなくてもいいから……あるんだ。


 異世界の事なんて皆忘れてただのお茶会が始まる。

 

 まぁこんな事はいつもの事で取り止めもないお喋りに夢中になっていると急激な眠気が襲ってきた。


 周りを見ると既に山岡姉妹と康太はスヤスヤと寝息を立てている。


 萃香はと言うと風香と一緒にニヤニヤして僕達を眺めていた。


 そして僕は唐突に意識を手放した。


―――――――――――――――――――――――――


 どのくらいの時間眠っていたのだろう?


 段々と意識が戻って来たが、何故か身体が上手く動かせない。


 それもそのはずで、両腕は後ろ手に縛られており、更に身体まで縄で縛られている。いわゆる簀巻き状態という奴だ。


 すぐ側で康太と山岡姉妹が僕と同じように縄でグルグル巻きにされている。


 僕たちをこんな目に合わせている犯人が僕たちを見下ろしていた。


「あら、目が覚めたのね春人」


「風香! どう言う事だ! すぐにこの縄を解いてくれ」


「ダメよ。危ないから」


「何のつもりだ?」


「私はね春人、どーしても異世界に行きたいの。それも一人じゃなくて、みんなと一緒に憧れの異世界ライフを楽しみたい訳よ」


 駄目だ。


 こんな風になっている風香をこれまでも何回か見てきた。目が完全にイッている。


 自分のやりたい事をやりたいようにやる。所謂(いわゆる)暴走モード。


 これのせいで今まで何回もとんでもない目にあってきた。命の危機も一回や二回では済まない。


 しかし、説得は絶対に無理だし、宥めてもすかしてもあの風香が僕の言う事を聞くはずが無い。


 今まではどうしたかというと、諦める。


 ただこれだけしか僕にできることは無かった。


「じゃあ始めるからね!」


「姉様お供いたします」


 二人共、いそいそと側にやって来る。


 やがて遠くの方からエンジンの音が近づいてくる。


 それの姿を見た瞬間、僕の血の気が引いていく。


「風香! まさかあれ……」


「うふふ、異世界に行く方法その三、トラックよ!」


「いや、意味がわからんが?」


「春人は何も知らないのね、いーい? 日本人はトラックに轢かれるとかなりの高確率で異世界に行けるのよ!」


 あかん。これ、あかん奴や。


「姉様……流石です!」


 隣では萃香が恍惚とした表情で頬を赤く染めながら潤んだ瞳で風香を見ている。少しは否定しろよな。


「風香よ」


「何よ?」


「トラックに轢かれると普通の人間は死んでしまうと思うのだが、僕の勘違いか?」


「私達は日本人だから大丈夫!」


 誰か助けてくれないかなぁ?


 かなり遠くから猛スピードでトラックが走って来ている。工事現場なんかで良く見かける10tトラックだな。


 その大きな車体がなんの遠慮もなく、真っ直ぐに僕らの方へ疾走して来る。


 運転席には邪悪な笑みで、さも嬉しそうな秋山さんの顔と助手席のなんとも申し訳なさそうな美月さんの顔が見えた。


 いやいやいやいや、止めろよ!


 あんたらの大切なお嬢様の暴走だぞ?


 待て待て待て、来るなよ!


 しかし、トラックは無情にも止まる事無く、無事に僕だけを轢いた。


 身体が宙を舞っている。視界がグルグルと入れ替わり、もう自分がどうなっているのかすら分からない。


 え? 他の五人?


 脳筋康太が頑張ったみたいだよ?


 なんで僕だけなんだか。


 身体から力が抜けて行く。


 風香が泣きながら走って来る。


 何か言ってるなぁ。


 でも、もう、聞こえないんだよ。


 人はこんなにも簡単に死ぬんだ。


 風香よ、そこはまだ痛いんだが?


 やめろよ、僕の腕はそっちには曲がらないから!


 ああ、意識が途切れる。


 風香。じゃあサヨウナラだな。


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