地獄への入り口
FOOOOOOO! ポイントや評価、ブックマークが付いてるぅ!!
やる気が出てきて一気に書いてしまいました。頑張って書き続けるぞー
「感謝祭の季節よ」
ここ数日、当たり前のように店に居座ってるアリスが突然そんなことを言い出した。
「……感謝祭だぁ?」
「そうよ。秋の収穫を終えたこの時期に毎年開かれるわ。領主様も顔を出す伝統的なお祭りなの。まぁ、要するに今年も沢山の実りをありがとうございますって、神様への感謝を捧げるお祭りってこと」
あー、そういえば地球でも収穫祭ってあったな。それと同じようなものか。
と言っても、俺はこの世界に来てまだ3か月程度。収穫の手伝いも勿論していないし、そもそもこの町で採れるものだってほとんど知らない。
ぶっちゃけ、堅苦しそうで面倒くさいからパスしたいところだ。
「そんな面倒くさいって顔しなくても大丈夫よ? 感謝祭なんて名前は付いてるけど、ぶっちゃけ各々好きに出店を出してどんちゃん騒ぎするのが目的みたいなところがあるし」
「……あ、そ」
どうやらしっかりと顔に出ていたらしい。しかし出店、か。――なるほど読めたぞ?
大方、アリスのところのサンフラワ食堂も出店を出すから手伝えっていう魂胆だろう。しかし、そうはいかない。
「というわけで、スグルには「パスだ」――まだ要件言ってないんだけど」
「どうせ店を手伝えとかそういうことだろ? 断る。そういう祭なら、店開いてた方が客も来るかもしれないしな。俺も商売している以上、自分の店優先だ」
先んじてはっきりと拒否の意を示す。きょとんとした顔のアリスに、してやったりとか思っていたのだが……何やら様子がおかしい。打って変わって、ニマニマした顔でこっちを見てくるのだ。なんだこいつ?
「な、なんだよ?」
「いいえー? スグルもやっっっっとやる気になってくれたんだなーって」
「――はぁ?」
ズイ、と目の前に一枚の紙切れが付きつけられる。なにやら書かれているらしいが、生憎と俺にはこの世界の文字は読めない。
「なにこれ?」
「出店許可書よ。――あ・ん・た・の♪」
「……はぁぁぁぁ!?」
紙切れを奪い取る。《鑑定》! 《鑑定》!!
……うっわ、マジかよ!? マジで俺の店の名前書いてあるじゃねぇか! 俺こんなもん出した覚えはねぇぞ!?
……まさか!
「お、おま! お前ェ!?」
「サンフラワ食堂の出店許可申請する時にねぇ。一緒に出しちゃった♪」
こいつ、やりやがった!!
「い、今すぐ取り下げてこい!」
「もう締め切り過ぎちゃってるからだ~め。許可が下りた以上、ちゃんとお店出さないと罰金だからね。いやースグルもやる気みたいで良かった良かった」
「良かねぇわ! おいこれ罰金5000ロインって書いてあるじゃねぇか! そんな金ないぞ!?」
「昔ね、申請するだけして当日すっぽかす輩が大量に出たとかでその対策なんだって。ちゃんとお店出したら問題ないし、領主様の意向で売り上げの税金はほぼ免除だから稼ぎ時よ。――お金、欲しいんでしょ?」
……ぐぅの音も出ない。
「それに――前にも言ったけど、あんたはもっと売り込みとかしていかないと。知名度上げて、お客さん増やしていかないと本当に野垂れ死ぬわよ?」
アリスの言うことはもっともだ。現在俺の店利用客と言えば、アリスとガンダルフの爺さん、クレアとリーネちゃんのたった4名。
アリスとクレアは来店が不定期だし、爺さんは基本月一。リーネちゃんは毎週来るとはいえ、赤字確定。はっきり言ってこのままでは今月乗り切ることも難しいと言わざるを得ない。むしろ2か月よく持った方とすら言える。
このままでは、不良在庫を抱えたまま倒産するのは目に見えて明らかだった。
「それにね、私は気付いたのよ。あんたに任せてたらいつまで経っても行動しないだろうなぁって。そ・こ・で! 動かざるを得ない状況にしたってわけ。お分かり?」
……くそう、否定できない。気に食わないが、全く否定できない。
「はぁ……仕方ないか。まぁ、在庫のポーション捌けると思えば悪くないだろうしなぁ」
「あ、それはダメ」
せっかくやる気を出したというのに、両手で×を掲げたアリスに思いっきり出鼻をくじかれてしまう。
「……なんでだよ」
「出店で出すものは1つ500ロイン以下までって決まってるのよ。高すぎるのは禁止ってこと」
アリスが適当に陳列棚から取り出したポーションは、ウチの店でも安価なLv3の回復ポーションだが、それでも1本3000ロインである。
価格設定は店を開く前に調べたから、特別高いということはない。むしろ定価よりもちょっとお買い得なのだが、気軽にポンポン購入出来るものではないというのは流石に理解している。
「もっと品質の悪いものとか、使用期限が近いものならまだしもこのクラスのポーションを500ロインで販売なんかしてみなさいよ。即、他のギルドに目をつけられて潰されるわよ?」
「そりゃ面倒くさいな」
とは言っても、他に商品になりそうなものなんてない。
クレアからの仕入れで、原材料なら在庫がそこそこあるがそのまま並べるなんて子供のおままごとじゃあるまいし、論外だろう。
「というわけで、新商品を作りましょ!」
「……んな簡単に言うなよ。まぁ、やるけどさ。で、感謝祭ってのはいつよ?」
「来週よ」
「おつかれっしたー」
アリスを店の外に放り出して店の扉に鍵をかける。さて、夜逃げの準備を始めるとしようか。
そんなことを考えていると、ガチャリと扉のカギが開く音がする。
「いきなり何すんのよ」
「当たり前のように鍵を開けて入ってくるな。鍵を返せ、そして出ていけ」
俺も知らない予備の鍵を片手に睨んでくるアリスに詰め寄る。
鍵を奪おうとしたのだが、ヒラリと躱されてしまう。
「返せ!」
「ダメよ。お父さんから預かったものだし、一応監視する目的もあるんだから」
そういえば、店を開店するにあたってアリスの親父さんには保証人として立ち会ってもらっていた。あの鍵はそういうわけか。
多忙な親父さんに代わってアリスが鍵を管理しているということならば、無理やり奪うと後々面倒なことになりかねないな。
「って、監視の立場にいるお前が俺を陥れてどうする!? その所為で俺は夜逃げを本気で考えてるんだが!」
「落ち着きなさいっての。ちゃんと考えてるに決まってるでしょ? 私もそこまで鬼じゃないわ」
「いやお前は鬼だよ」
勝手に申し込みするわ、一週間で新商品を作れとか言ってくるわ、そういえばいきなり包丁で斬りかかってきたこともあったな。
――うん、間違いなく鬼だ。
「今は聞かなかったことにしてあげる。それで、新商品のことなんだけど――あんた、“香油”って作れる?」
「“香油”?」
名前くらいは聞いたことがあるな。確か、風呂とかの後に髪につけるやつだっけ? 香り付けだったり、髪がしっとりとするとかで女性に人気なやつだった気がする。
「んー、多分錬金術で作れると思う?」
「何で疑問形なのよ……。それを作って露店で売りましょう。感謝祭でリピーターを見つけることが出来れば、今後お店の主力商品になる可能性もあるわ」
「――なるほどな」
確かに、量産の目途が付くなら店に並べて客層を広げることにもつながる。購買者層が増えればそれだけ資金にも余裕が出てくるし、悪くないアイデアだな。
失敗したら今度こそ夜逃げ待ったなしだが……こうなってしまってはやるしかないのだろうな。
「分かった。とりあえず、やってみるか」
そうと決まれば、先ずは香油の作り方を調べる必要がある。
資料棚から錬薬関連が載っている参考書を取り出し、いつものように《鑑定》を発動。香油に関係する項目を検索する。――数分ほどページをめくっていくと、見つかった。
アブーラの実からスクワランオイルを抽出。香りづけ用の植物から精油を抽出。それを掛け合わせることで、香油が完成する。――ざっくりと要約するとこんなところだろうか?
植物は色々と在庫があるので問題はないが、アブーラの実ってなんやねん。
「なぁアリス、アブーラの実って何だ?」
「絞ると料理とかに使える油が採れる実ね。結構高級な油だけど、特別な料理の時とかに使うことがあるからウチにも置いてあるわね。使うの?」
ああ、なるほど。地球で言うところのオリーブみたいなもんか。
そういえば、あれも化粧品とかに使われてるとかなんとか、聞いたことがあったな。
「ああ、なんかスクワランオイルってのを抽出するんだと」
スクワランオイルという名前にピンとこないのか、アリスは首を傾げている。正直俺にもさっぱり分からん。
とりあえず、アブーラの実っていうのが要るのは間違いない。
「そのアブーラの実ってのは、簡単に手に入るのか?」
「まぁね。下処理がいるけど食べられる実だし。市場に行けば買えるわね」
「高い?」
「ザル1枚分で100ロインってところかしらね」
高級な油が採れる割にめちゃくちゃ安いなおい。
「普通に油を採ると手間がかかって大変だからね。スグルなら錬金術であっという間でしょうけど」
「なるほどな……とりあえず買ってみるかぁ」
「あ、私も行くわ。ついでにウチの買い出しもしてこないといけないし。すぐ戻ってくるから準備して待ってて」
そう言って、アリスは一度食堂へと帰った。俺も買い出しの準備をしないといけないな。
……この時の俺はまだ知りようもない。まさか、あんな地獄が待っていようとは。
次話は19時に投稿予約いたしました。
アリスちゃんをもっと出していきたいな。
コメント、ブクマ等々がありますと書き続ける意欲がムラムラ湧きます。