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はい、こちらスグル錬金店です  作者: 萱野 雲樹
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ガンダルフ・ローゲン 前編

爺さんキャラってイイですよね、個人的に1人いるとめっちゃ嬉しくなる萱野です。

「おい駄犬(クレア)。今からガンダルフ爺さんとこ行くぞ」

「い、嫌だぞ!? 私が君を頼った理由を察してくれ!」

「おお、察したよ。こんなの爺さんに見せたら敷物になるまでぶん殴られるだろうからな」

「わかっているなら何故!?」


 何故って? そんなの決まってるだろ?


「俺が勝手に直しちまったら、隠蔽の同罪になるじゃねぇか。俺はまだ死にたくない」

「薄情者ぉぉぉぉ!!」


 捨て台詞を吐いて、クレアが逃走を図ろうとする。

 HAHAHA、逃がすわけないだろう?


「スグル錬金店、籠城モード!!」


 机の下に隠してあるスイッチを踏む。

 すると、今まさに扉を開けて外に出ようとするクレアの眼前に鉄格子が降りた。

 同時に店の窓という窓全てにも同じような鉄格子が降りてくる。

 外からの侵入も、中からも脱出も不可能にする緊急防衛機構、それがこの籠城モードだ。


「なんだこれは!? クソ! こんなもの!」

「あー、言ってなかったがその鉄格子な?」

「ギャァァァァァァン!」

「高電圧が流れるようになっていてな。触ると、物凄く痛いぞ。意識が吹っ飛ぶくらいにな」


 俺の警告も空しく、クレアがバタリと扉の前に崩れ落ちる。近づいて確認してみると、白目を向いて完全に意識を失っている。テストはしてないなかったのだが、どうやら防衛装置であるスタン・ドアは正常に作動したようだ。

 とはいえ、あくまで緊急用の機能だから数秒くらいしか持続しないし、再発動までにかなりの時間を要するのが今後の課題。

 錬金術の実験で出来た産物だけど、まさかこんな形で役に立つとは。

 床に投げ捨てた鞘を拾い、折れた剣の破片を1つずつ入れていく。その際に、改めて鑑定結果を表示。

 いくつもの情報、状態を表す結果の中、最後の行を見る。そこにあるのは、見慣れない。というより普通は表示されることがない筈のもの。

 全ての破片を納め終わった。思わず、ため息が出る。


「さて、それじゃ連行するとしますか。一応、酒の一つもあればもうちょい気楽に行けるんだがなぁ……」









「う、う~ん……ハッ!」

「お、気が付いたか。思ったよりも早かったなぁ、鍛えてるだけはあるか」


 ふむ、クレアの強さがイマイチ分からないが、およそ30分弱で気絶から回復っと。

 もうちょっと電圧調整して持続出来るようになればより効果的なのか、検討してみるか。

 そんな思案を巡らせていると、クレアは周囲を見渡し、困惑の表情を浮かべている。クレアからしてみれば、俺の店にいた筈が気付けば見覚えのない場所にいるわけだからな。そりゃ混乱もするわな。


「私、は……え?」

「おはようさん。悪かったな、手荒な真似しちまって。ちょっと我を忘れちまってた」

「……スグル殿? 私は一体――」


 まだちょっと意識がハッキリしていないのか、籠城モードによる感電を思い出せないようだ。

 足に力が入らないのか、立つことも出来なさそうである。


「あー、もうちょいゆっくりしてな? 今アリスがお茶()()用意してっから」

「そ、そうか。ところでスグル殿、ここは一体どこなのだろうか? なんだか見覚えがあるような、ないような……」

「――ワシの工房じゃよ。子犬ぅ」


 ぬぅっとクレアの背後に忍び寄った小柄な人物がそっと耳元で囁いた。


「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 しびれがまだ残っているため、完全には起きあがれず半身を起したままズザザザッとクレアが後ずさる。

 器用だなという感想はさておいて、そうすることでやっと俺にもその人物の全体像が見えるようになった。

 子供かと思うほど小さな背丈、それに似つかわしくない濃いシワが刻まれたしわくちゃな顔と蓄えられた髭。ゴツゴツと節くれだった手に握られた、巨大すぎる槌。

 うん、俺だったら絶対に嫌なやつだ。クレアなんてなんか犬じゃなくて猫になってるし、ありゃしばらく忘れられないだろうな。首筋に髭が当たってたし。


「ガ、ガガガガ、ガ」

「おう、先日振りじゃねぇか。子犬ぅ」

「ガンダルフ殿!」


 そう、この奇妙な風体をした人物こそが名匠、ガンダルフ・ローゲン。113歳、ドワーフ族。

 クレアの持っていた名剣を打った鍛冶屋であり、俺の店――スグル錬金店の数少ない固定客の一人でもある。


「ガンダルフ殿! 申し訳ありません!! 貴方に打っていただいた、剣、なの、ですが」


 おお、クレアってばまだ痺れてるだろうに気合で体を起して頭を下げている。

 んー、良い根性は持ってるね。本人は生きた心地はしないのかドンドン声が尻すぼみになってるけど。


「あー、見た見た。ダメだ、剣として死んじまってる」

「と、と、言いますと」

「ありゃ修理出来ん。今供養してきたところじゃ」


 ……やっぱりダメだったか。錬金術で形だけなら整えられるだろうけど、《鑑定》で死亡表記出てたもんなぁ。

 初めて見たよ、生物以外に死亡表記が出るなんてさ。


「さて、あんな使い方をしたお前さんをあの剣の墓標に供えてやりたいんじゃが」


 お、おう……クレアの体がこれでもかって震えてやがる……。あれ漏らしちゃってるんじゃねぇかな。

 いやぁ、爺さんも人が悪いなぁ。俺には出来ないよ、ここまで追い詰めるなんて。

 でもまぁ、仕方ないか。ガンダルフの爺さんにとって、自分の作った剣は特別だって言ってたからな。


「い、いかようにも、してくだ、さい」

「そうしたいところなんじゃがな。――あいつ一切の未練なく逝っておったよ」

「……は?」

「お前さんに打ってやったあの剣じゃよ。自分の役目は全て全うした、そんな感じにきれいさっぱり、未練が残っておらんかったわい。――斬り伏せたのじゃろ? ゴーレムを」

「は、はい。確かに、斬りました」


 そう、あの剣を見せて直ぐに爺さんは気付いた。

 あの剣はゴーレムの固さに負け、折れたのではなく。しっかりと斬った後に、寿命を迎えて折れたのだ、と。

 確か、俺がクレアを問い詰めた際になんと答えたっけか。


『もう一度聞くぞ? この剣で、何を、ぶっ叩いたんだ?』

『ゴ、ゴーレム……です。岩の、塊の、モンスター、です』


 クレアは一度だって叩いたとは言っていない。そりゃそうだ。叩いたんじゃなくて、斬ったんだから。

 クレアはずっと真実を言っていた。


『――何もしていないのに、壊れたんだ』


 うん、そりゃクレアは何もしてないと思うよな。突然壊れたって思うよな。

 剣が自分で満足して、寿命を迎えたなんて思わないよなぁ。


「ワシにとっては、自分が打った剣は息子、娘のようなもんじゃ。志半ばで逝くのは許すことは出来んが

、天寿を全うして逝ったならそれはワシにとっては誇らしいわい。それが例え、たった一度の出番であったとしてもじゃ」

「ガ、ガンダルフ殿」

「のう子犬よ、あれは良い剣じゃったか?」

「はい! とても、とても素晴らしい剣でした!」


 目の前の光景に、思わず目をそむけてしまう。

 勘違いとはいえ、無実の年下の女性に怒鳴ったり、駄犬呼ばわりしたり、高電圧の罠を仕掛けたりってさ……はははは。

 なんて謝ったら許してもらえるかな。 無理かな? 無理だよねぇ。

 観念した俺の肩が後ろからガシッと掴まれる。後ろを振り返れば、ニッコリと黒い笑みを浮かべた全ての事情を知っている裁判長(アリス)

 ……どうやら、裁判の準備が整ったらしい。さて、逝きますか。

後編は22時に投稿予約いたしました。

この辺りからちょっとカンを取り戻してきて書きやすくなってきました。


コメント、ブクマ等々がありますと書き続ける意欲がムラムラ湧きます。

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