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はい、こちらスグル錬金店です  作者: 萱野 雲樹
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クレア・シルフィード 前編

ケモッ娘登場! ……いや、うん。一応ケモッ娘デスヨ? ケモナーの人に土下座する準備は出来ています。

「うめぇ! うめぇ! 飯ってこんなに美味かったんだなぁ……!」

「あ、うん。良かった、わね?」


 あの後アリスが食事を持ってきたので遅めの朝食を取っている。数日振りのまともな食事、出来立ての暖かいやつだ! それも麦飯に焼き魚、野菜スープという超豪華メニューだ。

 涙が出しながらガツガツとかっこむ俺の様子を見てアリスはドン引きしていたが、今の俺にそんなことを気にする余裕はない。

 カロリーを! 塩分を! 脂肪を! 糖分を! アミノ酸を!! 全力で体が欲しているのだ!!!








「――ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」


 最終的におかわりを3回もしてしまった。麦飯ってこっちに来てから初めて食べたけど、結構好きかもしれない。でもやっぱり白米を食べたいと思っちゃう。日本人だもん。


「よく食べたわねぇ……しばらく食べてないって言ってたから、軽めの物を昼食分と一緒に持ってきたのにまさか完食するとは」

「悪い。今余韻に浸ってるところだから静かにしてくれる?」

「そこまで!?」


 洗い物までしてくれているアリスには申し訳ないが、本当に今はそっとしておいてほしい。

 正直、地球で一回死んでこの世界で目が覚めた時以上に生きてるって実感している。

 やっぱり人間、ちゃんとしっかり食べないとダメだわ。満腹になって初めて気付いた。さっきまでの俺はちょっと正気じゃなかった。なんで枯れかけた草食ってるんだよ、あれは食い物じゃないよ。薬の材料だよ。枯らしちゃったから薬にもならないけど。

 あ、薬といえば、火傷治しポーションの残りは結局サンフラワ食堂に寄付することにした。直接飲んだわけじゃないけど、年頃の女の子にあげた飲み物を独り暮らしの男の家に置いといたらダメでしょってことで。


「はぁ~……落ちついてきたらこれからどうするかとか、考えないといけないことが山積みなことに気づいてしまった」

「そりゃそうでしょうね。このままだとスグルは家賃も払えない、ご飯も食べられないまま野垂れ死によ?」

「そうだよなぁ……短期でも働ける仕事探して兼業してくかぁ」


 現在俺の所持金は0ロイン。2日後にはアリスからの依頼報酬として800ロイン入るが、これでは足りない。全然足りない。どんなに切り詰めても4日分くらいの食費しかない。それも美味い食事というものを忘れていた頃の俺基準で、だ。

 こうして美味い食事を思い出してしまった以上、1日分と見た方が良いだろう。

 今日明日の食費はアリスが用意してくれるから除外するとして、残りの28日分の食費と店の家賃10万ロイン。単純計算で食費と家賃で3万1600ロイン、その他の雑多品や店の仕入れを考えるとざっくり2倍、6万ロイン稼ぐ必要がある。


「休みなしで肉体労働系のバイトをやれば……いけるか」

「……いけるか、じゃないわよ! 休みの日は休みなさいよ! 今度こそ倒れるわよ!?」


 覚悟を決めたところに洗い物を終えたアリスに思いっきり頭を引っ叩かれてしまった。

 別に女の子に叩かれた程度では痛くもなんともないが、流石の俺もちょっと無茶だったかなと思わないでもない。


「とはいえ、次の家賃を納める日まで30日しかない。今日はもう昼になるところだから、実質29日半だ。日当で2000ロイン以上稼ぐにはこれしか方法はないぞ」

「戻ってくれば良いものを……あんた、ここ何の店か言ってみなさい?」


 小声で何かを呟いたかと思えば、呆れ顔のアリスが床を、いや店そのものを指差す。


「錬金屋だが? 看板、読めなかったのか?」


 大衆食堂の看板娘ともあろう者が、看板が見えていなかったとは……自前の看板(ぺったんこ)も見えてないから仕方ないのかもしれないな!


 コンコン。


「シッ!」

「うおぉぉ!? 危ないだろうが! 包丁を振り回すな!! というかどっから出した!?」

「うるさい! 今なんかむしょうにあんたにイラっとしたのよ!!」


 コンコン。


 ……まさか読心術でも使えるのだろうか?

 とりあえずアリスの前では看板(ぺったんこ)のことは考えない方が良いかもしれない。


「……とにかく、曲がりなりとも自分の店を経営しているんだから、その道で食っていけるようにしてよね。あんたを紹介した私にも責任ってもんがあるんだしさぁ」

「つってもなぁ、知ってるか? 俺の店、アリス含めても2カ月経って3人しか固定客いないんだぜ?」


 ……ドンドン。


「知ってる。お向かいさんだし。そもそも、スグルはもっと売り込みとか客引きとかしないと。先ずはご新規さんに声かけして、お店に入ってもらわないと商売にならないでしょ」

「面倒くさい」

「今すぐ商人という商人全員に謝罪してきなさい! 今! すぐ!!」


 ドンドンドンドンドン!


「……なんかうるさくね?」

「お隣さんの家でしょ。旦那さんまた浮気したみたいだし」

「あー、そういや昨日の夜めっちゃ奥さんキレてたな。おかげで全っ然寝れんかった」

「わたしも。そのせいで寝不足で……朝から火傷しちゃうし」

「そっちまで聞こえてたのかよ。こりゃ今度こそあのおっさん死ぬかもしれんな」


 ガチャン!!


 大きな音を立てて店の扉が開け放たれる。

 俺とアリスが扉の方を見ると、そこには1人の女性が仁王立ちしていた。

 170cm以上はありそうな長身。上半身は白いインナーに赤い袖無しのコートを羽織り下は茶色のショートパンツで、一見するとモデルのような印象だった。

 腰まで伸びたロングブロンドヘアー。腰元から伸びているスラリと伸びた尾。頭部には一対の少し垂れた感じの獣耳が生えているものの、スタイルの良いかなりの美人さん。

 この世界に来て教えてもらったことなのだが、こういう動物の特徴を持った人を獣人族と呼ぶらしい。その中でも色々と種類が分かれているらしいが、目の前の女性はイヌ科っぽい特徴を持っている。おそらくそういう系の獣人さんなんだろう。

 色合い的にはゴールデンレトリーバーな感じがするけど、多分違う。醸し出している雰囲気がそんな癒し系じゃない。


「……失礼。話す声が聞こえて、中にいるようだからノックしていたのだがな。中々出てきてもらえなかったので開けさせてもらった」


 こちらが何も言わないからか、女性の方から喋り始めた。

 低い声ながら、ハキハキとした良い声だ。しかし、声色に確実に怒りの感情が乗っており、頬はひきつっている。なんとか理性を働かせて自分を抑えようとしているのが明らかだった。


「私の名はクレア・シルフィードと言う。今日は一つ頼みたいことがあって訪れさせてもらった」


 どうやらこの人はクレアさんというらしい。うん、外見だけじゃなく名前も綺麗だと思う。

 でもそれ以上に身に纏っている隠し切れていないプレッシャーの所為で身惚れるとかいうのは一切感じられない。正直に言ってめっちゃ恐いんやけどこの人。

 思い出した、あれだ。昔テレビで見たことある土佐犬とかそっち系だ。喉元にガブリとくるやつだこれ。

 アリスの方に顔を向けると、ちょうどアリスの方も俺の方に顔を向けたところだった。

 表情を見るに、どうやら同じ結論に至ったらしい。

 俺たちは再びクレアさんの方へと顔を向け、口を開いた。


「「浮気野郎の家はお隣ですよ」」

「違う!!!」


 クレアさんの怒りが限界を超えて、思いっきり吠えられた。ちょっとチビりそうだった。

次話もとい後編は20時に投稿予約いたしました。

前後編に分けないと……流石に文字数がちょっと多いなぁって


コメント、ブクマ等々がありますと書き続ける意欲がムラムラ湧きます。

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