リデルベルグ感謝祭 その1
感謝祭編、始まります。同人イベントに参加してた頃を思い出しながら書いてました。
評価やブクマがジワジワ増えてて嬉しい……嬉しい……。
「いやー、晴れて良かったわよねぇ」
「……」
ゴロゴロと、無言で荷車を曳く。運んでいる商品の量が多いので、レンタルした荷車にアブーラ油と香油を乗せて、縄でギッチリと固定している。
「まぁ、色々あったみたいだけど無事に商品も出来たし」
「……」
その分、重量も中々なものとなっており俺とアリスの二人掛かりで荷車を曳いている。
そこそこな大きさのある荷車なので、持ち手は俺たち2人が入っても十分なスペースを確保出来ているが、必然的に横並びで距離が近くなってしまうのは仕方がないことだ。
荷台部分のスペースをほとんど占めているのは、もちろんアブーラ油だ。割れないように、箱詰めしたものを重ねずに平積みして運搬している。――こういう時、軽トラがあると楽なんだがな。
感謝祭当日の朝だからか、人通りはいつもよりも少ない。時折、自分たちと同じように荷車を曳くおっさんを見かける程度で、ブラブラと歩いているだけという人はほとんど居らず、荷車が進みやすい。
「ほとんどの人にとって、感謝祭は始まってからが本番だからね。参加するだけの人は、この時間は起きてても出歩かないのが暗黙の了解になっているのよ」
「……」
なるほど。出店の準備を邪魔しないための配慮か。よくよく見てみれば、周囲には荷車を3台、4台と曳いている集団なんかもいるし、参加者が祭に向けて各々行動しているというのは……悪くない感じがする。
「だから、そのぉ……が、頑張りましょうねスグル!」
「……」
「あのぉ……そろそろ、なんか喋って、ほしいなぁって」
「……アリス、許すまじ」
「ごめんってばぁ! そんなに大変だったなんて、知らなかったんだから」
うにゃうにゃと言いながら、アリスは借りてきた猫のように小さく縮こまる。それでいてちゃんと荷車を曳いている辺り真面目な性格が出ている。
実のところ、俺も少しは休めたので冷静さを取り戻しており、それほど怒っているわけではない。
香油作りがあれほど地獄めいた作業だったなんて、アリスも俺も知らなかったのだ。正直、もっと簡単に作れるものだろうと甘く見積もっていた。
下調べを怠っていた、俺にも非はあるのだ。今口を閉じているのは、怒っているのだと見せつけなければ、また勝手に申し込みをしないようにするために釘を刺しているだけだったりする。
……だがまぁ、一応反省はしているようだからそろそろ許しても良いだろう。
「しっかり働けば、今回は不問とする」
「ははぁ! 寛大な処置、感謝の極みにございます」
「前々から気になってたんだが、そのノリはどこで覚えたんだ?」
「えっ? 前にスグルとお父さんがこんなやり取りしてたのを覚えてただけなんだけど」
許してやった途端、アリスがいつもの調子に戻る。
――こいつ、本当に反省しているんだよな?
「……あ、見えてきたわ。あそこが出店する場所よ」
しばらく雑談をしながら荷車を曳いていくと突然アリスが声高々に指を指し示す。釣られるように視線を向けると、そこには広場というにふさわしい広々とした区画だった。
遠目にも、広場にはいくつもの屋台らしきものが確認できる。この内の1つが俺の担当する屋台なのだろう。
「意外と時間食ったな。もう直接屋台のセッティングをして良いのか?」
「先に運営本部に行くわ。到着したことと、販売許可証を受け取らないとダメね。販売する商品もそこでチェックされるから、このまま行くわよ」
「うげぇ……面倒くせぇなぁ」
「もうちょっとだから頑張りましょ。屋台のセットは私がしてあげるから、開催までちょっと休んでて良いわよ」
「よし、行くぞアリス!!」
アリスの言葉で一気にやる気が戻る。休める、楽が出来る!
今の俺にとって、最高の誘惑だ。
「ちょっといきなり引っ張らないで! ……もう! 仕方ないわねぇ」
呆れる様子のアリスとは対照的に、意気揚々の様子で荷車を曳く。
向かった先である広場の中央には、周りの屋台と比べて二回りほど広いスペースに建てられた簡易施設があり、様々な人がその周りを行き来している。
俺たちの他にも商品を積んだ荷車や馬車も多数置かれており、皆受付を行っているところであるようだ。
「それじゃあ受付してくるから。スグルはここで荷物見てて」
「あん? 俺も行かなくて良いのか? 店主は俺だぞ」
「あんたこの国の文字書けないでしょうが。サインとか要るのよ?」
そうか、サインが要るのか。そりゃそうだわな。店の帳簿なんかは俺が分かればそれで良いからずっと日本語で書いてたのをすっかり忘れていた。
《鑑定》を使えば文字は読めるが、書くことは出来ない。アリスもそれが分かっているからついて来たのだろうか? ……気遣いの塊かよ。
「我が助手、任せた」
「はいはい。任されまーしーたー!」
受付に向かったアリスを見送り、停車した荷車に腰を降ろして一息つける。連日酷使したから、割と体がキツいが、流石にここでは寝られそうにない。
気分転換にと、周りの競争相手たちを適当に見ていると目に留まる集団がいた。青紫色をしたローブを身に纏った、変な連中だ。その一角だけ怪しさが際立っており、嫌でも目立っている。
――しかし、ちょっと引っかかるものがある。
「んー? どこかで、見たような気がするんだがなぁ。……どこだっけ?」
あの青紫のローブ、どこかで見たことがあるような気がしてならない。
じっとその連中を眺めていると、その内の一名が俺に気付いたのか、視線が合った。
気付いたそいつは周りの連中に何かを言いながらこちらを指差しているようだが、距離がありすぎて内容までは分からない。ただ、向こうも俺を知っているような、そんな感じがする。
やはりどこかで会ったことがあるのだろうか? 何だっけ、どこで見たんだっけ?
「……なにうんうん唸ってるのよ」
なんとか思い出そうとしているところに、アリスが戻ってきた。後ろには、腕に腕章を付けた、見覚えのある青年が立っている。確か、先日世話になったアリエッタおばさんのところの息子のアントニオというやつだ。
「おう、おかえり。それにアントニオじゃん。おっす、何してんの?」
「やぁスグル、おはよう。先日は助かったよ。君のお陰で、アブーラだらけの食卓から解放されたからね! ……いや、本当にありがとう!」
そう笑うアントニオの目はマジだった。
俺も、搾りかすになったアブーラの実をちょっと食べてみたのだが、めちゃくちゃ渋かったからなぁ、あれ。下処理すれば多少マシになるらしいけど、あれが毎日毎日出てくるのは非常にツラい。
同じくらい安い筈のモヤッソ炒めがごちそうに見えたからな。
「っと、いけないいけない。スタッフとして仕事しないとね」
「スタッフ? ああ、その腕のやつはそういうことなの?」
「そうだよ。受付が済んだら、商品のチェックを行うんだ。――以前、1つだけ本物で後は偽物を売ってた悪徳商人がいてね。それ以来、チェックを厳重にしてるんだよ」
あんな風に、とアントニオが指差す先では同じような腕章を付けたスタッフが商品の検閲を行っている。1つ1つ手に取り、念入りに確認しているのかかなり時間が掛かりそうな作業だ。
「おいおい、全部チェックするのか? 日が暮れちまうぞ」
「仕方がないさ。一応、スタッフは増員されてるからなんとかなる。それより、こっちもチェックさせてもらうよ。全部確認出来たら許可証を渡すから、ちょっと待っててくれ」
「ほらスグル。邪魔しちゃ悪いから大人しくしてなさい」
「はいはい分かってますよっと。ったく、お前は俺の母親か」
アリスに荷車から引きずり降ろされ、商品を明け渡す。アントニオは気にしていないと言いながら、箱を開け中身を1つ1つ取り出して検閲を始めた。
その時に気付いたのだが、アントニオの口元がわずかに動いている。その動作にピンと来た。
「《鑑定》を使ってるのか」
「おや、分かるのかい?」
「俺も何度も使ってるからなぁ。便利なスキルだし」
「――何だって!?」
そう言った瞬間、アントニオが驚いた表情で俺の方を見てきた。
「スグル! 君、《鑑定》を使えるのかい!?」
「お、おう。使える、けど?」
《鑑定》を使える事を認めると、アントニオが両手をガシリと掴んでくる。
俺に変な性癖はないので、振り払いたいところだが尋常ではない力で握られて全く振りほどけそうにない。この世界の人全体的にパワー強すぎじゃない? どうなってんの?
「なんてこった。こんな身近にいたなんて……スグル、今からでもスタッフとして働いてくれないか?」
「えっ、嫌だよ面倒くさいし」
「頼むよ! 人手が足りないんだ!! 断るって言うなら販売不可にするぞ!?」
「公私混同してんじゃねぇ! はっ倒すぞこの野郎!?」
軽い気持ちで口を滑らせた結果、面倒くさいことになったがなんとかアントニオを引きはがしてちゃんと仕事をさせることが出来た。
来年は検査要員のスタッフとして参加することを約束させられたが……所詮はその場での口約束。知らぬ存ぜぬで押し通してやることにする。
「本当に頼むよ? 約束したからね?」
「はいはい、良いから許可証を寄越しやがれ」
「……本当に頼んだからね? それじゃあ、これ許可証」
アントニオから許可証をひったくり、懐へと仕舞う。ふふん、これさえ受け取ってしまえば貴様は用無しよ!
「それじゃあ僕は次の仕事があるから、これで。スグル! 来年はよろしく頼むよ」
「ハイハイソウデスネー。アリスー、行くぞ」
「……あ、うん。今行く」
アントニオを適当にあしらい、再び荷車を曳いて運営本部から離れる。
後ろの方からアントニオが再三に渡って何か言ってきているが、都合よく忘れる予定があるのでスッパリと無視する。
そうだな、来年もこの町に住むことになっていたらだが、都合よく旅行に行くことにしようかな?
「あんたって基本的にロクデナシよね。良いじゃないの、手伝ってあげれば。お世話になったんでしょう?」
「そりゃアブーラの実の件では、世話になったが、お互い様でもある。それとこれとは話は別だな」
「ああ言えばこう言うんだから……。ところで、私がいない間に何かあった?」
呆れ顔から一転、真面目な顔に切り替わったアリスがそう切り出した。
「いや、特には。何で?」
「ん、一番街通りの錬薬店の連中がこっち睨んでたら気になってね」
「もしかして、青紫色のローブ着てたやつらか?」
思い当たる連中と言えばそいつらくらいだったのだが、アリスが頷いたところを見るに当たりのようだ。
錬薬店ってこと――あいつら、同業者だったのか。どおりで見覚えがあるような気がしたわけだ。
「で、何やらかしたのよ」
「俺が問題起こした前提なのやめない? ――まぁ、以前難癖付けてきた連中の1つだとは思うけど」
「やらかしてるじゃないの!」
素直に話したというのにしばかれた。
前々から思っていたのだが、アリスは手が出るのが早すぎると思う。暴力は良くないと思う。
「それであいつらに何したのよ」
「ギルドに所属しろとか、勝手にポーションを売るなとか、ギャーギャー五月蠅かったからぶん殴って店から叩き出した」
「やらかしてるじゃないの!?」
素直に話したのに、またしばかれた。心なしか、さっきよりも強くしばかれた。
「どうすんのよ、あれ絶対恨んでたわよ?」
「別に。ほっといて良いだろ。あいつらは俺が嫌いで、俺もあいつらが嫌い。それだけのこった」
もしかしたら何かしらの邪魔はしてくるかもしれないが、正直相手にするだけ無駄だ。仮に何かしてきたら、適当にあしらえば良いだけのこと。
そんなことよりも、今は屋台の準備の方がよっぽど大事な事だった。
「なぁアリス。俺の出店はどこらへんなんだ?」
「どんな神経してるんだか……許可証見せて。あ、ここだわ」
立ち止まったアリスが指差す。話している間に目的地まで到着していたらしい。
周りにも同じような屋台、というよりも仮設された簡易販売所のような建築物が並んでいる。木製だが、意外に頑丈そうな作りをしていてちょっと驚いた。ご丁寧に、内側にはこれまた簡易的な椅子まで用意されている。
荷車を屋台の裏手まで移動させて、ササッと設営の準備を行う。
と言っても、机に布を敷いて、荷車から降ろした商品を並べて、値札を設置するだけなので10分とかからない。
その間アリスはというと、釣銭を入れた布袋を準備していたのか中身を確認して帳簿に書き込んでいる。父親の食堂を手伝っているだけあって、手慣れた様子でちょっと感心する。
後は開催時間までゆっくりとするだけだ……って、あ! 普通に設営やっちまった! アリスに全部やらせてる間に休む筈だったのに!
始まると言いつつまだ始まってない感謝祭。準備回というやつですね。次話から本格的に感謝祭が開催されます。
次話は今日か、明日には投稿出来ると思います。
コメント、ブクマ等々がありますと書き続ける意欲がムラムラ湧きます。




