彼女の眼鏡
クラスの中では目立たない方。でも、決して不細工じゃない。むしろ、その逆でとても可愛い。彼女が目立たないのは、姿かたちの所為じゃなくて、その控えめな性格の所為だと僕は思ってる。
彼女はとても大人しいのだ。しかも、優しくて落ち着いている。なんだか、小春日和のようなイメージ。
(傍にいてくれたら、安心するんだ)
そう。
密かに僕は彼女に憧れている。だから、その時、セーラー服姿で公園のベンチに座って読書をしている彼女を偶然見かけて、思わず、物陰に隠れて観察をしてしまったのだった。ちょっと、ストーカーじみてるけど…。
穏やかな表情。清楚な手つきで、文庫本のページを捲る。僕はそれを見ているだけで温かな気持ちになれた。よく見ると、傍らに眼鏡ケースがある。彼女がいつも持っているものだ。しかし、僕は彼女が眼鏡をかけている姿を見た事がない。何故、彼女が眼鏡ケースを持っているのかその理由も知らない。目が悪いって話は聞かないけど、もしかしたら、コンタクトにしているだけなのかもしれない。
……眼鏡をかけている彼女を想像してみた。きっと、とてもよく似合うだろうと思う。僕は少し、彼女が眼鏡をかけた姿を見てみたいと思ってしまった。
その時だ。
彼女が携帯電話を手に取ったのだ。誰からだろう? 僕は少しだけ不安になる。数度頷くと、彼女は電話を切った。それから、辺りを見回すような動作をする。まるで、周囲に誰もいないのを確認しているかのようだ。そして、その後でなんと彼女は、眼鏡ケースを開けたのだ。僕はびっくりする。まさか、彼女はこれから眼鏡をかけてくれるのだろうか? 彼女の眼鏡をかけた姿が見られる? 僕は、期待に胸を膨らませた。そして、その僕の期待通り、取り出した眼鏡を彼女は顔に持っていったのだった。
が、
その次の瞬間だった。
ピカー! (光)
僕の視界を眩い光が覆う。
え?
何が起こっているのだろう?
僕には訳が分からなかった。
やがて、眩い光がおさまると、公園のベンチから彼女の姿は消えていて、その代わりに全身タイツの妙な人物が立っていた。しかも、その人物は、なんと、信じられないことに、それから空へ飛び去っていってしまったのだ!
僕は自分が夢でも見ているのかと、唖然となって、その場で立ち尽くした。
……言うまでもなく、その日の晩、ニュースで、謎のヒーローが現れ事件を解決した事が報道されていた。
朗読もあります
http://www.nicovideo.jp/watch/sm24716701