プロローグ 「彼#女」
「ひるまー」
暇だ。とてつもなく暇だ。何か隕石でも降ってきて、学校にぶつからないかなぁ…
「おい、ひるまー」
眠い。とてつもなく眠い。何か爆発でもなって、学校壊れないかなぁ…
「ひるま!!!」
「あ!?はい!!!」
びっくりした。なんやこのオッサン、いきなりでけぇ声しか出せんのか?
「授業中だぞ?少しは集中しろや」
「………はい」
クラスメイトの視線がすべて僕を向いている。あぁ、陰の民にはこの視線は辛すぎる。
「…」
目線を下にさげた。右前の女の子と視線があった。彼女はなぜかニヤニヤしている。彼女はクラスの人気者で、学級委員などをしている。クラスメイトからの信頼は高くて学力も高く、運動能力も高い。そしてかわいいときた。その点僕は女子と喋ることはほぼなく、そもそも友達がいない。
そんな僕にも彼女だけは笑ってくれる。
きっとすごいイケメンな彼氏でもいるんだろうなぁ。
「んじゃあ今日はここまでー」
やっとクソ長い教科書を読むだけの授業が終わった。ほんとに眠い。
僕は机に出ていた教科書とノートをカバンにしまった。時刻はちょうど昼ご飯の時間だった。いつもどうり自分の席で、家で作った手作り弁当を食べようとした。
「らーいくん」
!?!?
「お昼ご飯、一緒に食べていい?」
……は?
あの……人気者の谷口さんが、僕と昼ご飯を一緒に食べる???
「あっ……」
言葉が詰まって喋れない。
「いーよねー!ありがと!うわーらいくんのお弁当美味しそうだね!手作りなの?」
完全に会話のペースを持ってかれた。さすがにここまで来ると断れない…が、あとでクラスの男子にいじめられる……。終わった。
「……別に構わないけど、谷口さんあとでみんなに言われるよ」
「んー?なんてー??」
……しらないのか。
「強姦者って…」
…。そう、僕が孤独になっているのは単にコミュニケーション能力がない訳では無い。
インターネットの掲示板に、僕に似た男がこの学校の女子生徒を強姦している映像が出回ったのだ。それが僕という証拠もなかった。
逆に今は解決し、その男は大学生の男だった。僕とは全く面識もなく、その被害者の女子とも喋ったこともなかった。
その男は逮捕され、女の子は精神的に深い傷をおったが、最近は学校にも顔を出すようになってきた。
しかし僕は不確定情報の中、犯人に仕立てあげられ、「強姦者」として避けられている。
そんな僕にクラスの人気者が一緒にご飯を食べているなんて、まずい以外なにものでもないことだ。
「ひっどい!そんなこと言う人まだいるの!?」
…。正直、からかいに来ていると思っていた。しかし、僕は彼女の瞳を見てわかった。これは心の底からの本心だと。何故かわからないけどそう思えた。
「だから、僕と一緒にいない方がいいよ」
もう、何度目だろうか。
僕と関わったら、その人が辛い目にあうかもしれない。それは、もしかしたら僕の最後の正義感なのかもしれない。
だけど…
「もー!君の意見は聞いてないの。私が一緒に食べたいって言ってるんだから食べるの!!!」
なんなんだよこの人。
「……そこまでいうなら。でも、責任とりませんよ」
もう、人と関わるのは御免だと。
「うん!さぁ、食べよ!!」
これが、君との出会いだった。