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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
【第三部】第一章 ホーリィを探せ。
98/124

③2対2。

長らくお待たせいたしました。



 「……ホーリィの、行方……ですか?」


 目の前に現れた【後藤 友梨】と言う名札を付けた女性に訊ねられて、恵利は無意識に返答返しをしてしまう。記憶を辿って名前を思い出そうとするも、全く覚えもない。


 「……いきなり過ぎて判らないわよね? ここで立ち話も何だから、少し付き合って貰えない?」


 言いながら出入口を指差され、一瞬だけ迷ったが、今日はまだ時間に余裕も有りそうだったので、促されるまま彼女の後に従い研究室を出る。





 ショートカットの茶髪以外は、スリムな体型に合わせたようなスキニーパンツとジャケットの組み合わせで、まるで現世に現れたホーリィの被服のように見える出で立ちに既視感を覚えた恵利だが、廊下から間仕切りで隔てられた談話室の椅子に腰掛けて向かい合うと、やはり全くの別人であり、それもそうだと何故か納得した。


 古くから在る大学だけに、談話室に置かれた鉢植えも年季の入ったゴムの木だが、掌より大きな葉のお陰で反対側の喧騒が嘘のように遮られ、声を潜める事も無く話が進められそうである。



 「……ところで堀井さん、私とは初対面じゃないって、知ってた?」

 「えっ? それって何時の事ですか?」


 切り出された話に戸惑っていると、友梨はやっぱりね……と応じながら、


 「……んと、堀井さん……もう一人の男の子と、ゲームの中に居なかった?」

 「……あ!? も、もしかして……ゴーグルとマスク付けて変な銃持ってたヒト!?」


 ……変な銃ね……と、ため息混じりに言葉を繋ぎつつ、友梨は種明かしする。



 「まぁ、それで当たりよ? あの時は【笑いガンマン】って名前で参戦してたからね……一応【マギ・ストライク】のランキング入りしてるんだけどさ……」


 砕けた口調で話す彼女からは、ゲーム内で出会った冷徹なプレイスタイルのキャラは全く感じられず、恵利は反応に窮してしまった。


 「まぁ、連れはあっという間に捩じ伏せられちゃったから、つい手厳しく出ちゃったんだけど……でも、あの時は引き分けだったのよね……」

 「そうですけど……ホーリィ相手に引き分けなんて、かなり凄いと思いますよ? 相手は全戦無敗でしたからね……たぶん、ですけど」


 話に付いていこうと合わせてみれば、ニヤリと笑いながら友梨は応じたが、


 「そっか!! やっぱり強かったんだ……でも、NPCなんでしょ? ホーリィ・エルメンタリアってさ」

 「そうですけど……でも、その……そう! 身体強化で強くなってる状態であんなに互角で戦えるとか、やっぱり強いと思いますよ? ……その、後藤さんも……」

 「いや、そーでもなかったわよ? 回避ばっかでギリギリの状態だったし、最後は弾切れで時間切れ、そんな引き分けなんて負けに等しいわよ……実際は」


 そう結論付けてから、友梨は暫く黙った後、


 「……だから、決着つけたくて何回もアクセスしたんだけど、この前の大戦を最後にホーリィが姿を(くら)ませたまんまでさ……一回、帝国側からリンクしたんだけど、そこでも全然足取り一つ判らなくてね。途方に暮れてたのよ」

 「でも、どうして私がホーリィの居場所を判ってるって思ったんですか?」

 「……どうして? えっ!? ……だって、あのキャラって貴女がモデルなんでしょ? 完全に双子にしか見えないけど……」


 そう言われて、恵利は渋々ながら、どうして似ていたのかを説明する事にした。






 「……あ~、やっぱりそうだったの……お父さんが製作元に居たって訳ね……」

 「いつの間にか、私をモデルに作られてて……知らない内に有名になってた感じなんですけど、判れば納得出来るんですが……」


 そう言いながら説明を終えた恵利は、何となく次に友梨が言い出す事を予測出来たので、携帯端末でスケジュールを確認してみる。程無く、如何にも今思い付いたかのように振る舞いながら、友梨が切り出した。


 「……ところで、相談があるんだけど……」

 「……一緒にホーリィを探さないか、ですか?」



 一瞬だけ、端末から眼を離してから問い掛けに答えた恵利の顔を、瞬きすらせずに凝視していた友梨だったが、やがて石化の呪縛から解き放たれたかのように動き出してから……(ようや)く答えた。



 「……アナタ、私の心が読めるの!?」




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……此処は?」


 クリシュナがスタスタと先立って歩くアンティカの背中に問い掛けると、クルリと身体を回して少しだけ小声で、


 「……ここは【自由兵】の集まる処……まぁ、さっくり言ってしまえば、敵味方関係無く自由に出入り出来る場所……って、感じですかぁ?」


 そう言うと肩をすぼめながら指先で示しつつ、更に声を落とし、


 「……帝国側もグロリアス側も集う場所……勿論、一般の帝国兵だと知れたら摘まみ出されますが、今の私達は【どちらでも無い】平民扱いなんで、こうして歩き回れます……でもね? 絶対に帝国兵だなんて判るような事は、言ってはいけませんよ」

 「……それにしても、何故帝国領にこのような場所が……」


 そう続けようとしたクリシュナに向かって、アンティカは自らの唇に人差し指を宛がいつつ、


 「……もう、声が大きいですぅ! ここじゃ私達の方が【他所者(よそもの)】なんですよ……? ほら、見てみてくださいな……」


 そっ、と目線で促す先を見ると……そこには異形の【自由兵】達が我が物顔で闊歩していた。




 ……ある者は顔全体を包帯で包み、耳と眼だけを覗かせて静かに歩いているのだが、眼の数は左右に四つ有った。


 ……また、ある者は長く伸びた後頭部がヘチマのように垂れ下がっていて、蜘蛛のような顔と鋭く伸びた牙が並ぶ口を隠しもせず、傍らに居る仲間と歩み去って行く。




 クリシュナは人の面影の欠片も無い者達にたじろぎ、つい視線を泳がせてアンティカに顔を向けたが、背の低い彼女の向こう側を歩いていた蛸のような触腕を首から垂らした【自由兵】のくびれた瞳と向き合いそうになり、開きかけた口を思わず閉じてしまった。


 「どうです? なかなか個性的でしょう? 彼等は見た目だけ変わっている訳じゃなくて大半は『黒き復讐の女神』に身も心も捧げ切った敬虔な方々だそうで」

 「……何故、今まで一度も出会わなかったのでしょうか……これ程まで面妖な方々なら、忘れようもないのに……」

 「ああ、それですか? この方々は【いべんと】と呼ばれる特異日にのみ、この世界に来るから、だそうです!」

 「……そうなんですか……」


 異形の【自由兵】達は、しかし見た目とは裏腹に特に騒ぐ訳でもなく、静かに市街地にたむろしているようだった。


 だが、そんな静けさは破られる。突如、集団が色めき立ち小さな集まりに別れたかと思うと次々に姿を消していったのだ。


 「転移術式ッ!! ……何故!?」

 「集合時間になったから、移動したんでしょうねぇ……」

 「だったら、私達もそこに行くんですか?」


 クリシュナが探るように訊ねると、それは元から無理よ! と返してから、



 「【転移術式】で何処に行くのかなんて、本人達以外は到着場所に居なければ判りませんよぉ~。それに、私達の最前線への移動は【転移術式】では、ないですからねぇ」

 「と、言われますと……」

 「前にお伝えしてませんでしたかぁ? 駅馬車ですよ、駅馬車!!」


 繰返しながら返答するアンティカだったが、何故か嬉しそうに微笑む口から発せられた言葉は、表情とは真逆の物だった。




 「……それも、最低で最悪、おまけに品位の欠片もない最下層の……ねぇ♪」






 

 

それではまた!

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