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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 連戦、龍【ドラゴラム】。
94/124

⑪力と引き換えに……

久々に更新致します。うーん、うーん……。





   [ クラスチェンジを選択してください!! ]





  幾度も幾度も、間隔を空けながら繰り返される女性の声(アナウンス)




 ホーリィは視界すら凍り付き指一本も動かせぬ中、想定外の事態に戸惑っていた。



 (……クラスチェンジ? ……んだよ、そりゃ……あ、もしかしてチェリっ子が言ってやがった【マチムスメ】って言うのが変化するって事か? ……何が何だかさっぱり判らねぇ……が、)


 そう心の中で呟きながら、結局、ホーリィは覚悟を決めた!!




 (……だがよ! 女は度胸!! 何でもやってみてから考えりゃ、だいたい上手く行くもんじゃねーか!?)


 そう決断し、先程から繰り返されていた【声】にハッキリと答える。



 (わーった!! わーったからよ!! サッサと【扇情麗女(センジョーレイジョ)】って奴にしてくれや!?)


 [ ……認証完了……【町娘】から【戦場令嬢】へとクラスチェンジしました ]




 ……ホーリィは、何やら色々と勘違いしながら……新たな姿へと変貌する。


 みりっ、と脊椎が伸び、やや身長が高くなった気がして……






             ……それで終わり。





 (……はああああああぁ~ッ!? 何だよコレ!! 期待させといて、たったこんだけかよ!?)


 気持ち、視界が持ち上がった感じもするが、身体は固定されたままなので、自らの変化を目の当たりにする事が出来ないのだが……


 (……はぁ。まぁ……いっか!)


 あっさりと諦めた直後、若干の虚脱感を伴いつつ、とん……と足先が地面に着き、長かった硬直状態は解消された。だが……今は絶賛戦闘中である。


 「けっ!! 何がどう変わったかちっとも判んねぇが……なぁ?」



 やっと呪縛から解放されたホーリィは、手足を振りながら首を回し、辺りの様子を窺う。彼女の視界を埋め尽くしていた騎士の集団は、突然立ち止まり柔軟体操を始めたホーリィに注視していたが、特に変化も感じられなかった為、中断していた包囲網展開に専念し始める。


 相手は予測不能の体術を用いて瞬時に接近し、甲冑を身に纏った完全武装の兵士を容易く葬るのだ。油断は即死に繋がる……そう、互いに目配せしながら。


 無言のアイコンタクトで身を覆う盾を装備した重装兵が前に出て、ジリジリと摺り足で間合いを詰めていく。彼等は視線の先に存在するのは見た目通りの麗しい女性ではなく、牙を剥き隙有らば即座に襲い掛かってくる魔獣の類いだと再認識しながら、油断無く一挙手一投足に注視する。



 しかし……最前列に居合わせた騎士全員はその後、戦史に『ドラゴラムの大敗走』と記録された惨劇の瞬間に居合わせた事を、誰一人として知る事はなかった。


 何故なら、次の瞬間に目の当たりにした光景の、唯一の目撃者にして、最初の犠牲者になったからだ。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……それは【花吹雪】そのものだった。




 上背が少しだけ伸びたホーリィから放たれた光輝く花弁の奔流が、夥しい勢いで溢れ出し彼等の足元まで一気に押し寄せる。



 (……な、何なんだ……コレ!?)


 ホーリィは犠牲者から奪い取り、僅かに増した魔力を転用し身体強化を行ったのだが……その凄まじい勢いに圧倒されていた。


 何時もの何倍にも値する付加効果が次々と我が身に降り掛かり、内側から(みなぎ)る活力に眼を見張ると同時に、情動に突き動かされるまま身体が勝手に動き出す。


 瞬く間に一人の重装兵の盾を足裏を付け、地面へ自らの軸足をめり込ませながら力を籠める。大きく足を開いた格好は、……誠に恥ずかしい姿であるが、【身体安定】の効果で華奢なホーリィの身体は微動だにせぬまま、相手を盾ごと後方へと撥ね飛ばす。


 「ぐううぅッ? ……う、ウソだろ!?」


 大柄な男は甲冑込みの自重を一蹴りで地に転がしたホーリィに唖然とするが、次の瞬間、彼女が振り下ろした踵に鼻梁そして顔面を踏み割られ、脳漿を撒き散らしながら絶命する。


 ……そして、濃密な魔力が眼下の死体から放出され、手にした双頭剣【ミダラ】へと吸い込まれていき、それがホーリィの活力(マナ)へと転化されていく。





 「…… あ あ ぁ ………… ! 沁 み る ぜ ぇ …… ♪ 」


 ホーリィの感嘆が辺りに木霊し、身体に収まり切らぬ魔力が放電されたように足元から地面へ流れ出て、妖しく自らを照らし出す。


 やや陽が落ち欠ける中、彼女の身体は紫電を纏い光り輝きながら照らし出され、大きく見開いた眼は瞬きすら忘れたまま中空を捉えて動かない。





 ……だが、最早……彼女を止める事の出来るような相手は、戦場には皆無だった。



 「……さて、それじゃ……喰い散らかすとしようかねぇ……♪」


 溢れ出るような過剰供給された魔力は、行き場を失いながら無意識の内に手にした魔剣へ流れ、【ミダラ】を新たな形へと変えていく。


 ……ばき、ばき、……と刃先が割れて二本の剣が四本へと分岐し、双頭剣は四方に伸びる十字剣へ変化。常人には扱い切れぬ異形の武具に変貌した【ミダラ】を掴みながら、ホーリィは爪先立ちながら周りを眺める。


 「……いち、にい、さん……あはぁ♪ こりゃ……堪んないねぇ……!!」


 獲物を前にした猛獣さながらの笑みを浮かべながら、手にした新たな姿の【ミダラ】をゆっくりと振りかぶり、


 「 そ れ じ ゃ あ …… い た だ き ま す っ ! ! 」


 ……渾身の力を籠めて、全体重を遠心力に変換させながら、【ミダラ】を回転させて投擲する。


 じゃっ、と空気を切り裂きながら猛烈な回転を与えられつつ、騎士の身体を端切れのように裁断し次々と斬り倒していき、


 「……ほいっと!! うはぁ……呆気ねぇんじゃねーの?」


 自らの元に戻ってきた【ミダラ】を掴みながら、通り抜けた跡を眺めてホーリィは素っ気なく呟く。四肢を切断されて転がる者、胴体を半ばまで切り裂かれ臓腑をはみ出させたまま……のたうつ者、そこには死者と死者に成りつつある者、そして仲間の姿に恐怖し逃げ出す者……最早、秩序立ってホーリィに挑むような者は皆無だった。


 「きゃはははははははぁ~♪ 殺り足りないよぅ~! ふぅ……くぁっ!?」


 狂喜しながら新たな犠牲者を生み出そうとする彼女だったが、乾いた海綿に水が染み込むように新たな魔力が供給され、身体の芯所を貫かれたように硬直させながら背を仰け反らせて喘ぐ。


 「……ああああぁ……だ、ダメだよ……く、狂っちゃう……く、くひ……♪」


 ホーリィは気付いていなかったが、【戦場令嬢】とは魔導を駆使する事を前提とした付与能力に特化した性能で、本来なら後方待機及び支援を旨とするが……彼女の持つ『吸精効果』及び『魔力供給』を備えた二振りの魔剣【フシダラ】と【フツツカ】を併用すると……果て無き需給の繰り返しとなり、周囲に漂う魔力を際限無く取り込み続けながら、殺戮行為が更に加速していく。



 「……あ、……ああ、……んく!! ……ま、魔力が……また……きちゃうぅ!!?」


 ……やがて、ホーリィは自らが魔力の奔流に弄ばれる事を止められぬまま、次第に自我を失い始め、やがて……()()()()()()



 「……あ、止まらないわ……あ、また斬っちゃったよ……う、うふ……うふふ 





          」


 「  あ、 ひぅ    ……


                   」


       「 あれ?      ……    バマツぅ?」




 「……あ、あああああああぁっ!? ……み、見ないで……お願いだからっ!!」


 ……そこには、ホーリィの常軌を逸した殺戮に硬直したバマツと、仲間達の姿があった。


 そして……バマツが彼女に向かって声を掛けようとした時には……








 ……ホーリィ・エルメンタリアは騎士の屍を踏み越えて、姿を消していた。





力に飲み込まれたホーリィは何処に消えたのか?

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