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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 連戦、龍【ドラゴラム】。
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⑤【剣聖】の嫁奪還作戦。

テンポ良く書けるのは、やっぱり長々と前置き編を書いたせいなのでしょうか?



 元が火山だった山の上に、長い年月を掛けて湖が出来る。様々な要因が重なり中心に島が出来、それを人間が見つけた時、どのような利用法を考えるか。




 「……ありゃ、騎士様達の馬車だね。お山の湖に何ぞ用事でもあるんだかね……?」

 「さぁね……噂じゃ金持ちの娘だか息子だかを幽閉しとる館が在るんだか、在ったんだか何て言われとったが……」


 二人の農夫が見送る中、厳重に封印が為された馬車が騎馬を伴いながら走り抜けていく。紋章は【城壁に騎馬】。一目で判る、ドラゴラム騎士団の所縁の馬車である。



 「……随分と厳重だったねぇ。一体誰が乗り込んで居るのかね……」

 「さぁねぇ……ん?」


 馬車を見送った後、農夫の片割れが麓から一人の猫人種がぽてぽてと歩きながら二人に近付いて来て、手を上げて二人と挨拶を交わす。


 「やぁ!! ご機嫌なお天気だね!!」


 快活な声を響かせながら、美しい毛並みの背の低い猫人種の娘は、ややブカブカの衣服を歩く度に靡かせて、被っていたツバ広の帽子を脱いで指先でクルクルと回してから、


 「ここら辺に湖が在るって聞いたもんで、絵のネタにでもしよーと思ってね!! ほら、これこれ♪」


 背負った背嚢には折り畳み式のイーゼルが括り付けられてあり、それを見た農夫達はやや見せていた余所者への警戒心を緩め、世間話を始めたのだが……



 「……で、この先って行き止まりなの?」


 山の湖に通じる道を指差しながら、その猫人種の娘は小首を傾げつつ、クンクンと鼻先を揺らして匂いを確かめる。随分前だが、確かに複数の馬が通った気配が残っている。


 「行き止まり……だなぁ、なぁ?」

 「ああ、山の上は湖だからね……山の向こう側は馬が通れないガレ場だから、人も(かよ)わぬ獣道位しかないな、うん」


 二人で頷き合って、そんなやり取りをする農夫の姿を見届けた後、折角の物見遊山も物騒そうだから、と残念そうに踵を返して山を下る娘……だが、農夫達から見えなくなった道端に、何やら見つけた娘は先程とは違い機敏な動作でイーゼルを鳴らす事も無く近付き、何かを拾い上げる。



 (……うはっ♪ 運が向いてきたかも!? ……()()()()()()()()、掘り当てたかも知れな~い!!)


 偶然落ちた物かもしれないが、しゃがみ込む彼女の指先には、長い女性の髪の毛が摘まれていた。しかし、彼女の嗅覚は忘れぬよう記憶の引き出しに仕舞い込んだ、中央都市で一度だけ会った事のあるジャニスの匂いと一致していた。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 《……手の内の間者が、()()()の幽閉先を探り当てたのが二日前、会戦は明日でしょうから、まだ移動はされていないと思います》



 頭の中でニケの言葉を反芻しながら、セルリィはいつもの衣服から、ホーリィと同じ伸縮性の高い被服へと着替えたのだが……


 「……うわぁ……食い込み凄いじゃない、コレ!? ……ホーリィったら、良くこんな恥ずかしい格好を……あ、アイツ胸無いからか?」


 やや押し潰されながらも、しっかりハッキリと自己主張する胸元と形の良いお尻を姿見の鏡で眺めつつ、諦めて革当てを腰周りと胸元に固定し、


 「……さて、と……先ずは例の間者に会わないと、か……」


 腰元に素っ気無い程簡素な鞘に収まった細剣(レイピア)を提げて固定し、急速に高度を下げるローレライの昇降口へと足を向けた。





 「……ふおおおおぉ~ッ!! ほ、ホントにローレライだっ!!」


 山道から離れた草原の一角に、予め示し合わせた組み木の符丁を配置させて会合場所とし、上空から確認し降下を開始するローレライ。


 そんな様子をピョンピョンと跳ね回り五月蝿く騒ぎながら、小柄な猫人種の娘が喜色を浮かべながら出迎える中、セルリィ自ら詳細を聞く為に地に足を降ろす。


 「そんなに珍しい? ……珍しいかしら、ねぇ……確かに。空飛ぶクジラで戦艦だし、うん……」


 彼女の様子に改めて考えると、確かに珍しいかも? と認識を改めるセルリィだったが、


 「まぁ、それは置いといて、初めまして。私は帝国所属、ローレライ付き士官のセルリィと言います」

 「……私はエヴト、見たまんまの絵描き……で、副業はスカウトなんだけど、もうどっちが本業か判んなくなっちゃってるけどさ!」


 そう言い交わしながら手を握り合い、やがて放すとエヴトは手短に報告を始める。


 「山頂の湖には、以前に金持ちの庄屋が建てた屋敷が真ん中に建っていて、行くには湖畔から船を出すしかないそうです!」

 「天然の要塞か……で、防備はどれだけなの?」


 エヴトは指を折りながら数を数え始め、セルリィの質問に答える。


 「……農夫さん達に聞いた時は、騎馬が四頭で馬車が一台。それに今日まで交代要員で六頭が入れ替わってるから、最低で六人。倍だと十二人、馬車に四人、合計の倍で……三十二人……そんなとこですかね?」

 「……流石は【剣聖】の嫁、元【邪剣】と恐れられただけは有るか……それって、人質を逃がさないように配置されてると思って構わないの?」

 「それで間違いないと思います。何せ相手は文字通りの『一騎当千』なんですから……まぁ、おおよそ八ヶ月の身重ですが……」

 「……そ、そうなの? そ、それは大変ね……」


 セルリィは身重の話になると言葉を濁し、視線を宙に漂わせる。


 その様子に妙な気配を感じつつ、エヴトは湖に到達する道は一本のみだと伝えながら、報告を終えた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……はぁ、まだまだ治らない、か」


 自らの竜眼が疼くように脈打つのを自覚しながら、セルリィは再び艦上の人になる。


 (いちいち妊婦だって意識する度に、殺意が芽生えるなんて……私はどうしようも無い性分なのかしら……ね)


 そう独り言を反芻し、彼女は気を入れ直し、伝声管に取り付く。


 『……半刻後に行動開始します、担当の者は速やかに後部ハッチに集合してください!!』


 声に合わせて何人かの足音が近付き、今回の即席強襲班が居並ぶ。


 何時もと違い、小振りな曲刀を提げたパルテナと、珍しく戦闘に参加するアジ、そして毎度お馴染みの器用なバマツ……人数はこれだけである。



 「……目標は【剣聖】の配偶者ですが、身重の為に同伴する際には注意してください。臨月はまだ先ですが……母子共に確保する事を最優先に!!」


 手短に通達し、それぞれの役割分担を再確認した後、ローレライに行動開始を通達する。


 「準備、整いました。」

 【……確認しました。皆さん、武運と慎重な行動を……では、戦闘速度!!】


 厳かに宣言し、ローレライが加速する。僅かな浮遊感と共に超低空を切り裂くようにローレライが木々の梢を掠めつつ湖上に到達し、目標の小島を目指す。



 (……さて、【剣聖】の掌中の珠を拝みに行きましょうか……)


 セルリィは首元の被服を引き上げて鼻まで覆い、長い髪を束ねた頭部に巻いたバンダナを締め直す。


 そこには華麗な美貌を誇る森人種(エルブ)の姿は無く、引き締まった肢体を黒装束に隠した、一人の殺人者が居るのみだった。




本当はこんな話ばかり書いていたいのです。次回も強襲強襲♪

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