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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 連戦、龍【ドラゴラム】。
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④密談。

深夜ですが更新いたしますよ? だって……書き終わったのだから。



 ……少し、時を遡り、視点をローレライ中心に据える。






 艦内を慌ただしく乗組員が動き回り、軍議の決定事項に従ってドラゴラムとの会戦準備を始めようとしていた矢先、セルリィは珍しい来客を出迎えていた。




 「……狙っていた、としか思えませんが……どうせネタは当分前から掴んでいたんでしょ?」

 「……否定はしません。結論から言えば【剣聖】絡みの事、なんですが」


 ローレライ艦内の士官室(とは名ばかりの狭い空間)に、セルリィともう一人の女性が相対し軽い探り合いを進めていたが……



 「もぅ!! 面倒だからハッキリ言わせてもらうわよ!? ……ニケ!! 貴女(あなた)の介護なんて私、絶対にやりたくないわぁ!!」

 「はああぁ~ッ!? あ、貴女こそ長命だからって、言って良い事と悪い事は弁えるべきだって認識する必要がありますわよ!?」



 ……二人は既知の間柄、つまり知り合いだったのだが、最初のうちは軍事的な会談で始まり、次第に互いの言葉の言葉尻を掴み合い……そして最後は罵り合い……流石に士官室の前に陣取っていた警備の兵が止めに入り、仕切り直しとなりました。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 セルリィの前には、手にした書類の束から幾つかの資料を取り出して話を再開させた【犬人種(コボルト)】の女性。ニケと呼ばれた彼女は人間要素の強い稀少種(対して獣人要素の強いタイプは原種と呼ばれる)で、頭部の柔らかな毛に包まれた耳と、衣服に隠されて現れていないが尻尾以外は完全に普人種である。



 「……それはともかく、今日はそんな喧嘩をしに来た訳では有りません。単刀直入に言いますが、私の妹を救出して欲しいのです」

 「妹? ……確か、貴女の妹って結婚して子供も直に産まれるって……」


 セルリィの言葉に、少しだけ悲しげな表情をしたニケだったが、直ぐに気を取り直し姿勢を改めてから、


 「妹のジャニスは【剣聖】と結婚しました。しかし、ドラゴラムから離脱した【剣聖】を抱き込む為に保護の名目の元、ジャニスは幽閉されています。この件に関しては当方の『武装商工連合』は過去に取り決めた軍事的中立を貫く為に、不干渉を維持するつもりです。でも……」


 そこまで歯切れ良かったニケが一瞬言い淀んでから、


 「……個人的な心情として、私は二人が戦の道具として扱われる事が不快で堪りません」

 「それなら貴女の配下を使えば良いのでは? その気になれば気取られぬ内に要人以外を壊滅させられるでしょ?」

 「それは個人的な私用に……()()()()を流用する事に抵触する為、禁止事項です。また二国間の不干渉の誓いにも著しく反します。我々は後ろ楯の無い交渉部門に過ぎません。正面切ってドラゴラム騎士団と戦争を始めるつもりも有りませんし、それは避けたい事案です……それに、」


 そう言いながらニケは言葉を区切り、


 「……帝国側にも救出すればメリットは御座います。妻であるジャニスを救出し、【剣聖】が戦場を去れば、ドラゴラムの戦線は確実に崩壊するでしょう。」

 「……其れ程に、【剣聖】の持つ求心力は高いの?」

 「えぇ。それは貴女が考える以上に、です。」

 「……出るしか、ないわね……」



 その後、暫く互いの持ち得る情報の擦り合わせを済ませた二人は会談を終えて、席を辞した。




 「……誰でも良いわッ!! 今すぐホーリィを此処に呼んでッ!!」


 伝声管に取り付いたセルリィが珍しく大声を張り上げる中、護衛の爬人種(リザードマン)四人を引き連れながら、ニケはローレライを後にした。




 「……ニケ様、帝国に加担せずとも、我々だけでジャニス様を救出するのは可能では……」


 暫く歩き、停泊地に留められているチャーターした飛空艇が見えた時、黒装束の面布を少しだけ捲り上げながら一人の爬人種が彼女に耳打ちする。


 「……いえ、この事案は帝国に託すのが最善です。我々はあくまで裏方に徹して表に出る事無く事態を終息させるべきです。」


 抑揚を抑えた涼やかな声で、ニケは前を向いたまま静かに答える。だが、次の瞬間、ダークグレーの長い髪を広げながら振り向き、


 「……しかし、そうは言っても()()()()()()()()()()使()()()()()()、後ろから糸を引き大陸を好き勝手に引っ掻き回すのを見ていられる程、私は暢気では無いですよ?」


 と、見る者を魅了する微笑みを浮かべながら語り、それに……と付け加えつつ、


 「……我々は、確かに誰にも見つからずにジャニスを取り戻せるでしょうが、それは却って『犯人は我々だ』と喧伝してしまう結果になります。でも、あの【ローレライ】と強襲猟兵が救出に向かえば、目立つ事この上無いわ。それこそ私達がどう絡もうと関係なく、確実に……でしょう。」


 と話を締め括りながら飛行艇に乗り込むニケ。彼女に影の如く付き従って来た四人の爬人種達だったが、


 「……やはり、これで帰らなければならんのか……?」

 「今さら何を言っているのですか? ……まぁ、ローレライに戻って空を舞いながら降りる護符を譲って貰えば、直ぐに降りられますが?」


 「……南無三ッ!!」


 強面、長身、武骨の三拍子が揃った爬人種四人は、どうやら空の旅がお気に入り……ではなさそうで。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……時と場所を会戦直後のドラゴラム国境付近に戻す。



 【……ホーリィ以下、三人が着地しました!!】

 「確認ご苦労様!! さぁ、私達も踏み込むわよ!!」


 一気に船速を上げて加速、あっと言う間に雲の間から青く澄み切った空へと躍り出たローレライは、船首を反転させて戦場と反対側へと向ける。




 「……船首このまま、ドラゴラム領内のカルデラ湖を目指します」


 ニケからの情報に依ると、【剣聖】の妻、ジャニスは山間に在るカルデラ湖の中心にある小島に幽閉されている、との事。


 【……セルリィさん、人員の選定は決まりましたか?】


 尋ねるローレライにセルリィは、キッパリと宣言する。


 「はい、決定しました。……無論、私も参加します」

 【……無理は禁物ですよ。慎重に進めてくださいね?】


 穏やかに返すローレライに、


 「……慎重に為すのは重々承知、ですが……戦争ですからね、無理は多少はしますよ? だって……」


 普段の白基調の衣服とは真逆、漆黒の被服と革当てに身を包んだセルリィは、長く蜜のように光る金髪を咥えたリボンで束ねて丸く纏めながら、


 「……いつまでも、ホーリィみたいな若輩者に負担ばかり掛けていると、何だか負けた気が致しますから……♪」


 そう断言したセルリィは、腰に提げたレイピアを抜き、曇り一つ無い表面に自らの顔を映しながら、


 「……弟子に劣る師匠なんて、只の恥晒しですわよ?」


 森人種(エルブ)とは決定的に違う、竜と同じ金冠の瞳を輝かせながら、闇と同化した深森人種(ハイ・エルブ)のセルリィは……罪深い笑みを浮かべながら艦橋を後にした。




次回は久々にセルリィさんとみんなが無双するお話。

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