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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章 恵利の世界とローレライ配属。
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⑮似て非なる魔剣。

久々過ぎてホーリィさんの戦っていない話が続きます。




 常に遠くで渦巻く風の音が鳴り響いて居た。




 ……航行中のローレライの艦内はかなりの低温である。飛行するのが本来なら人が到達しない高度であり、寒さに弱い者なら直ぐ様体調を崩す環境であるが、魔導に因る温度管理された艦内は、着衣に注意さえしていれば問題はない。


 その艦内を足早に進むホーリィは、武器庫のモロゾフが受け渡し口の奥で何かを取り出して眺めているのを目敏く見つけ、


 「なぁ、じーちゃん!! ……それ、何なんだよ?」

 「ふぅおっ!? お、おぉホーリィか! な、なんぞ用かぁ?」


 ホーリィに尋ねられたモロゾフは咄嗟にその剣を油紙に包み込み、そそくさと仕舞い込もうとしたのだが、


 「じっちゃ~ん遅いってぇんだよ!! おりゃ!!」


 狭い間口の受け渡し口を猫のように器用に潜り抜け、モロゾフの背後から剣を奪い取るとニヤリと笑いながら油紙を取り払い、


 「……なんだこりゃ? ……【フシダラ】と【フツツカ】みてぇだけど、魔剣じゃねぇのに……何か、変だぞ?」

 「あー、面倒な奴に見つかっちまったなぁ……全くよぅ……」


 モロゾフはブツブツと呟きながら、ホーリィから油紙を受け取り、ガサゴソと折り畳みつつ、


 「ソイツらは【人造魔剣】って奴でなぁ。当代随一の刀鍛冶と魔導士が、ぶちこめるだけの貴重な素材をこれでもかっ、て位にぶちこんで鍛えたんだとよ……」


 ホーリィは聞きながら一振りを鞘から抜き放ち、照度を上げたランプの下で眺めてみる。意匠や造り自体が魔剣然とした夫婦剣とは違い、片刃で先端を反らせた設えの短剣は黒い地金で、鈍く光を反射する傷一つ無い表面に、うっすらと油を流したような油紋仕上げになっていた。


 だが、この【人造魔剣】の特徴はそれではなかった。鍔に当たる部分の造りがまた変わっていて、刃の付け根と末端の柄尻に当たる部分に短いスパイクが生えている。


 「……ははぁ~ん、こりゃまた……悪趣味な設えだな! ……なぁ、じーちゃん! これ貸してくんねーか?」

 「はあぁ!? おめぇにゃあ、夫婦剣が有るじゃねーか!!」

 「はあぁ!? ワタシじゃねーよ!! エリに呉れてやるんだよ!!」


 そう言いながらモロゾフから鞘を受け取り【人造魔剣】を納めたホーリィは、不機嫌そうに投げ付けられた受領書にサインを記して返し、じーちゃんまたな! と気軽に手を振りその場を去った。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「さ~ぁてっと!! これから何して遊ぶぅ!? 鬼ごっこぉ? 隠れんぼぉ? それとも……()()()()()()()()()()()かなぁ~?」


 いつもと全く違う様子の恵利に、彼女のやり取りを見守っていた翔馬は困惑と共に焦りを感じる複雑な心境であった。


 だが、その舌足らずな口調に反し、恵利の視線は揺らぐ事無くマスカリーニの短身叭銃に注がれていた。そして、その両手には人造魔剣の【ヨウ】と【ホト】の二振りを提げているのだが、二刀はブラブラと揺れたまま。



 ……だが、その構えこそ、真骨頂。



 マスカリーニは手加減しなかった。無言のまま、恵利に向かって左右の短身叭銃を腰溜めに構えながら二連射。そして銃口から長く伸びた発砲炎の残像が目に残っている間に再度、銃を操作して新しい弾薬を装填。間髪入れずに「遅いよ? ねぇ、真面目にやってる?」


 ……と、言いながら恵利が双剣の握り部分から人差し指と中指を離す。



 すると乾いた音を鳴らしながら、弾丸が二発、床に落下して転がる。




 「はぁ……虫取りするみたいに掴めちゃうんだよね? ……こう、パッてさ……」


 溜め息混じりで退屈しきった顔のまま、恵利はゆらり……とマスカリーニの視界の中で残像を焼き付けながら前進。彼女の思考が恵利の接近を把握するよりも早く、


 「……おねぇさ~ん、その服……重くないぃ?」


 左右の短剣がぶれて歪んだかと思った瞬間、牛の角で出来たローブのトグルボタンだけを一瞬で斬り落とし、はらり……とローブの前合わせが襟元から開いた瞬間、床を強烈な勢いで蹴り進み()()()()()()し、背後に回り込みローブのセンターベンド(装飾的な切れ込み)を摘まみながら頭上で宙返りしつつ跳躍。重厚なローブからガチャガチャと幾つかの銃器を落下させながら、肉感的な肢体と黒の下着を露出させたまま、頭の上からローブを被せて包み込んでしまった。


 「きゃあっ!! ばっ、バカ何するのっ!?」


 突然視界が真っ暗になり、慌てるマスカリーニだったが時既に遅し……


 恥ずかしい格好でほぼ武装解除された彼女が、不承不承の体で降伏の意思を示し、衣服を正してから力無く両手を掲げて一歩進み出た。


 「……あー、何て言ったっけ? 【恥辱に耐えて虜囚になるか、名誉を守る為に死を選ぶか】……だっけ?」

 「……だっけ? と言われましても……」


 前がはだけた恥ずかしい格好のマスカリーニに聞いてしまった恵利だったが、暫く黙っていた彼女は縄を受ける為に自らの手を差し出し、捕縛の意を示した。



 「……勇ましかった割りに大人しいもんね……」


 呆気ない幕切れに意外そうな顔をする恵利だったが、チェリリアーニは二人の帝国兵に連行されるマスカリーニの後ろ姿を見送りながら、


 「……用心に越した事はないですが、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()です。逃げ出さないとも限りません。」


 まるで殺した方が無難だ、と言わんばかりに呟き……肩を(すく)めた。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……その後、合流したホーリィ達と共に探索を続け、離宮内に残っていた臣下から隠し部屋の在処を聞き出したパルテナ達が王族を探し当て、連行し作戦は終了した。


 尚、王族達は臣下の目の前で全員斬殺。王を筆頭に五人の王子王女を含めた七人が処刑され、その日の内に荼毘に付された。




 ……グロリアス国に従って帝国を妨げる意図を示し、開戦を目指したクレディウス国。だが、闇討ちに近い形で中枢を破壊された為、残された臣下達は止むを得ず降伏を余儀無くされた。


 一説に依ると、重臣達は王が目の前で斬殺される王子や王女の姿を見せ付けられて、半狂乱になる姿を目の当たりにし、抵抗する意思を無くした……と。




 誰が王族を処刑したのか、正式な記録は無い。ただ報告書には《王族はローレライ強襲隊により斬死。》とだけ残されている。





次回は長かった本章の最終回です。

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