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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章 恵利の世界とローレライ配属。
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⑬規格の外へ。

恵利と翔馬は、三人が姿を消していた間に何をしていたのか?



 ……ホーリィ達が各々の戦いに身を投じていた頃、恵利と翔馬の二人もまた、目的を達成する為に戦っていた。


 「……でね? 私がホーリィが戦っていた時ってロボットに乗っている感じだったんだけど、痛みとかは全然で……あ、でもホーリィってば怪我とか全然してなかったかな?」


 ……だが、恵利はと言えば、そんな状況でも軽く世間話に興じながら、迫り来る相手を軽く往なして退けていた。


 (……恵利サンのお父さんって、確かフルダイブEスポーツプレイヤーだったらしいけど……やっぱり血筋なのかな?)


 翔馬は突如謁見の間に現れた、多数の城内警備の衛兵達を相手しながら、そんな事を考えていた。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ゲームの中でもフルダイブVR系は操作自体は誰にでも(フルダイブ自体が傷病者のリハビリ目的に開発された為)行えるが、逆に高度な操作技術を求めるようになると、生まれ持った才能が要求される。それは今、翔馬が身を投じている【ギルティ・オーバー】でも同じである。


 通常時なら何気無く行っている動作も、VRの中では脳内で行動に区切りを付けながら行わないと読み取られず、様々な誤差を生じてしまう。ましてやゲームのようにシビアな動作を連続して長時間求められる環境ならば、その傾向は顕著になる。しかし、その誤差を目に見えない範囲まで補正するのが【管理A・I】という存在なのだ。


 例えば『剣の先で地面に字を書く』行為は、剣を持って先端を地面に突き刺し、ペンのように字を書く訳だが、【管理A・I】がそうした動作を自動変換し、あたかも自らが書き記したかのように字を地面に残す。だが、実際は人間側に寄り添う形でバーチャル空間に字を表示させて、多少の誤動作を帳消しにしてくれている。


 だが、それは意識に昇らない程度のタイムラグを生み出し、ゲーム内での【読み取り時間】として認識される空白の時間が発生しているのだ。




 ……それは通常の単独操作VR系ゲームならば、何も問題は無い。操作している人間にとっては認識出来ない程の僅かな誤差に過ぎないのだ。だが、対人操作となると時として……決して無視出来ないタイムラグになる。


 今の状況で例えるならば、翔馬が手に持つ先重り感が有る鉈剣で、相手の盾をを避けて攻撃する際、自動補正に任せたままだとゲーム内での数値が優先されて【(衛兵の能力数値+装甲値)ー(翔馬の操作+キャラとしての能力値)】が算出される。結果として……


 「……ッ!! くそッ……!!」


 がん、と鈍い音を立てて弾かれた鉈剣を持ち直しつつ、咄嗟にしゃがみ込んで相手の剣を避ける……と、なるのだが……



 「……それでッ!! いっつもこんな風にぃ、手早く斬るのが普通でさ……」


 苦戦する翔馬の脇から軽く一歩前に進み、爪先で相手の足を踏み動きを制しながら、同じ右足の膝で相手の膝を内側から崩しつつ、瞬時に左側へと体軸を回して側面を取り、両手の短剣を無防備な耳から頭蓋に突き立てて、絶命させる。


 その動きは、完全に操作補正をカットした【非補正同調リアルタイム・リーディング】仕様の筈にも関わらず、一切の戸惑いや躊躇の無い洗練された動き。それこそが翔馬が驚嘆する恵利の動きなのだ。


 「いや、それを普通にやってるの、恵利サンだけだから……」

 「そうなの? う~ん……お父さんとの稽古が効果あったのかな?」


 右手の短剣をトントンと肩に当てながら、ん~む、と天井を眺める恵利。しかし、彼女の足元には既に斬り伏せた衛兵の亡骸がゴロゴロと転がり、不自然な無人の空間が広がっていた。


 「でもさ、急に衛兵がわらわら湧いてきたけど、三人に何かあったのかなぁ……」


 次第に衛兵の出現が緩慢になる中、恵利は姿を消したホーリィとクリシュナ、そしてアンティカの三人と、相手陣営側の二人のPCを思う。


 今まで姿を現さなかったPC。しかし出現した二人は【ギルティ・オーバー】ではなく【マギ・ストライク】からの流入者と想定出来る。片方の現代的な武装は明らかに【マギ・ストライク】の特徴であり、恵利には未知の相手であった。


 (でもさ……こっちにだって(クロスボウ)や魔導ってモンがあるんだし、銃が有るのと大して変わんない……よね?)


 ……おまけに、恵利は《射出武器》に詳しくなかった。と言うか、普通の女子がゲーム以外で銃器の知識を備えている事自体が異例であるが。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……ん?」


 恵利は翔馬と雑談しながら、あらかた駆逐し終えた謁見の間に新たな敵が出現しないか、首を巡らせながら警戒していたのだが、その視線が一点に釘付けになる。



 それはとても小さな『異物』だった。


 宙に浮かんだその物体は、羽虫よりは大きいのだが、かと言って鳥よりは小さい。しかも糸か何かで吊るされているかのように動きは無いにも関わらず、時折水平にゆっくりと移動し、また元の場所へと戻るのを繰り返していたのだ。


 恵利は背後の翔馬に手で合図し、注意を促す。そして密かにマイページを起動し【剣の妖精】をクリックし、出現させる。


 (……パピコ……ミュートでアイツを捕まえられる?)

 (……静かに行って、捕まえるのね? りょーかい!!)


 【剣の妖精】であるパピコが背中越しに現れ、そんなやり取りを二人は交わしながら、恵利は翔馬へ囮になるように、背中で片手を動かし合図する。


 姿を隠したパピコが恵利と翔馬の背後から遠ざかり、壁際から天井へと移動し、吊り下げられたシャンデリアの陰で下を指差してから、


 (……5……4……)と一本づつ指を折り、降下するタイミングを計る。


 翔馬はその異物の注意を逸らす為に、恵利の傍から離れたり近づいたり、と小さく動いてみる。すると明らかに()()は興味を持ったかのようにユラユラと小さく動き、彼の動作に合わせて向きを変える。


 (……1……ッ!!)


 音も無くシャンデリアから落下するパピコと、両手を挙げながら近付こうと一歩前に踏み出す翔馬。パピコの姿を捉えてから進む為に踏み出した翔馬の眼は、慌てたかのように高度を上げた異物に体当たりする勢いで、パピコが飛び付き腕を回し、


 「とったどぉ~っ!!」


 ガッチリとしがみ付きながら、聞き覚えの無いフレーズを叫ぶ。僅かの間パピコと異物は宙に浮かんでいたが、やがて異物が力尽きたのか……ゆっくりと高度を落とし、地面へ着地した。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「誉めて~エリぃ!! ねぇ、私ってばやれば出来るエライ子でしょ!?」

 「はいはいイー子イー子ねぇ……で、チェリリアーニさん、これって……もしかして?」


 小さなコンパクト状のスベスベした表面の物体は、側面に小さなカメラに似た水晶体がびっしりと並んで見え、明らかに監視用の何かだと推測出来る。


 「えぇ、お察しの通りです。これはグロリアスの【女王の眼】。監視用にばら蒔かれる小型の魔導兵器の一種です」


 チェリリアーニはそう言いつつ、手にした【女王の眼】の側面を操作し、留め金をパカッと音をさせながら開け、中身を見せる。


 そこには複雑な機械は存在せず、楕円形の赤い宝玉が一つとそれを取り囲むように多数の小さな水晶体が有るのみだった。




 「なぁ~んだ、爆発するのかと思ったのに……残念!」


 そんな愚痴をこぼす恵利だったが、そんな発言は掻き消される。




 「……そう? お望みとあらば、爆発させても構わないけど?」



 衛兵達ほ謁見の間の奥から現れたのだが、その奥から新たに現れたのは……チェリリアーニよりもやや大柄な、魔導士然とした深緑色のローブに身を包んだ女性だった。




 「……お久し振りね、チェリリ……」

 「……ッ!?……マスカリーニ姉様……。」


 恵利の背後から互いに声を掛け合う二人は、誰の眼から見ても似てはいなかったが、まるで姉妹同士のように互いをそう呼び合った。





長くなりそうですが……次回もまだまだ恵利回です。ブクマ評価もお待ちしています!

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