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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章 恵利の世界とローレライ配属。
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⑦クレディウス攻略戦。

戦の準備が始まります。



 【……後方、十空里に友軍艦隊。前方に敵艦……無し……寒ぃな、全く……】


 ローレライの監視マストに登り、周囲を警戒している監視要員の声を伝声管越しに聞くセルリィは、傍らで膝を抱えて黙り込む赤毛の女性に声を掛ける。


 「……ほら、元気出しなさいって。何か口にした方がいいんじゃない?」

 「……有り難う御座いますぅ……そ、その……い、いいです、大丈夫ですぅ……」


 まだ若い彼女はローレライに搭乗する魔導要員だが、大規模戦闘に参加するのは今回が初めてであり、精神的に疲弊しているようだった。


 「ホントに大丈夫なら心配しないけどさ……ほら、ちゃんと立てる?」

 「……だ、大丈夫……じゃないみたいですね、は、ははは……すいません……」


 セルリィに気遣われた彼女は、力無く答えつつ、立ち上がろうとするものの足に力が入らないらしく、中腰になりかけながら、また座り込む。


 「これ、飲んでおきなさいね? いざって時に魔力切れじゃ、折角の才能も持ち腐れになっちゃうわよ?」


 手にした小さな瓶を渡し、魔導担当要員が待機する部屋に設置された椅子へと腰掛けてから、セルリィは彼女に再び語り掛ける。


 「エミリィさんが得意なのは雷撃よね? 私も昔、何回も挑戦したけれど……全然会得出来なかったのよね~」

 「あっ!! は、はい! でも、それしか出来ないから……得意かどうかは判りませんが……」


 魔導の呪印に依る攻撃は、派手な効果とは裏腹に目標の選定、効果範囲の絞り込み、そして威力の加減と様々な負担を術者に与え、目に見えぬ疲弊を重ねていく。それが魔力減退と共に術者の精神を削ぎ、魔力切れとして顕れて来るのである。


 エミリィという魔導要員は新人ながら稀有な雷撃系の魔導に秀で、セルリィと肩を並べながら支援魔導要員の一翼を担っていたのだが……本格的な長期侵攻を前にプレッシャーで押し潰されかけて……今に至る。


 両手で小瓶を包み込むようにしていたエミリィが、意を決して封を切り蓋を開け、桃色の唇に押し当てて一気に流し込み……



 「……ケッ!? ……ケホッ!!……うえぇ……これ、凄く苦いんですね……」

 「……そりゃあ、苦いわよ? だって~、ニガヨモギでしょ? アンゴスチュラでしょ? あとは……」


 空になった小瓶を眺めながら、使われている素材をセルリィが羅列するとエミリィは呆れながら、


 「はぁ……とりあえず判りましたよぅ……それにしても、効き目なんて……効き目な……ん……てッ!?」


 と、突然身体を硬直させたかと思うと、カッ! と部屋の片隅を力強く睨み付けて、


 「……み、見えますぅ……!! 私にも【強壮なる神々】の高貴なる衣の一片(ひとひら)がッ!!」


 ウェービーな赤毛を振り乱し、ワナワナと指先を震わせながら(うそぶ)くエミリィ……そんな姿を暫しセルリィは眺めていたが、


 「……まぁ、心配無しね! 誰が飲んでもこーなるし……元気になったから問題ないわよねぇ♪」


 そう呟きエミリィを一人、部屋に残して出ていった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「さて、それじゃ開封すっぞ? ……う~りゃっ!!」


 ビリリ、と乱暴に引き裂きながら封筒を開けるホーリィ。


 「……ねぇ、何でホーリィが開けてるの?」

 「ああん? だってよ~誰も開けたがらねぇじゃねーか?」


 不思議がる恵利にそう言い返しながら、ホーリィが封筒の中身を引き出して開くと、そこには簡素に短くこう記されていた。



 【 夕陽と共に城を抜け 】


 「……って、夜襲掛けるのかよ……?」

 「夜襲……って、まさか……」

 「おいおい!! 鷹馬は夜目が利かないぜっ!?」


 どよめく面々を余所に、静かな声で語るのは……やはり、ローレライだった。


 【……夜襲だとしても、『私の子供達』は必ずやり遂げます。そうでしょう? ホーリィさん?】

 「あぁ!! んなモンあったり前じゃね~か? 国盗りだろうと王殺しだろうと、【悪業淫女(バッドカルマ・ビッチ)】のホーリィ・エルメンタリア様がやってやんよ♪ なぁ? エリ!!」

 「そうね! それに夜襲なら住民も犠牲になり難いかもしれないし、いいんじゃないの?」


 そう返す恵利の言葉を合図にして、各自の準備を始める為に持ち場に向かって歩き出す乗員達。装備の変更や鷹馬の鞍を外したりと忙しく動き回り始めるが、そんな中で恵利と翔馬は各々の情報パネルを表示させて、現実世界での時間経過を確認する。


 「……あ、だいたい三十分位か……。それじゃ、この後は展開の区切りが見通せる位までは続けられそうだね」

 「そうだね。でも、このゲームって、アクセス終了後も時間経過が有るから、次に来た時にはグロリアスまで到達しちゃってるかも?」

 「それは仕方ないわよ……まさか、ゲーム廃人みたいにずーっと張り付いてる訳にもいかないし!」


 そう言いながら、二人は各々の装備を点検し、恵利はホーリィと同じような双剣を腰の後ろに交差させながら提げ、翔馬は鉈剣を背中へ下向きになるように背負う。




 「……それじゃ、後部ハッチに行きましょ?」

 「えっ? ま、まさかいきなりスカイダイビングするのッ!?」

 「いや……たぶん、それは無いと思うわよ? ……たぶん……?」


 促す恵利の言葉に戸惑う翔馬だったが、頼り無い返答をする彼女の様子に表情を凍らせる。


 「ウソでしょ? ……いやいやまさか……」


 彼の言葉は恵利には届いていたが、さぁ? としか言えない彼女からは否定の返答だけは出なかった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「はい、これが【夜鷹の護符】よ? 首の後ろに張り付ければ直ぐに効き目が現れるけど、絶対に『明るい場所』では貼らない事!」


 セルリィはそう言いながら手にした護符を各々に配り、念を押す。そして持ち物を入れる小さな鞄に仕舞い終わった恵利は、翔馬と共に強襲部隊のホーリィの下へと向かう。


 珍しく無言のホーリィに(緊張する事もあるのかな?)と思った恵利だったが……




 「……験担ぎ……験担ぎ……」


 頭の痛くなるような事を呟いていたので、忘れる事にした。





そして遂に戦が始まります……。さて、七十話を経て更に続きます! これもひとえに読者様のお陰で御座います! 引き続きブクマと評価を宜しくお願い致します!

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