⑤ローレライとの再会。
ローレライとの再会を果たした二人は、新兵として武器を受け取る。
「グランマ!! エリが帰って来たぜ!!」
黒い被服の襟元を広げながら引き下げて、腰骨の上で縛ったホーリィが颯爽と長い髪を靡かせながら、艦橋に据えられた宝玉越しのローレライに宣言する。
【……まぁ! エリさんお久し振りね! ……そちらが噂の彼氏かしら?】
「うぇあッ!? あの、彼氏とかじゃなくて! ご学友の翔馬クンですから!」
「……はい、そのご学友の翔馬です……初めまして、ローレライさん……」
がっくりと肩を落としながら、渋々自己紹介をする翔馬。……まぁ、仕方ない。
【成る程、判りました。……とりあえず、お二人には必要な装備を支給しなくてはいけませんが、希望は有りますか?】
ローレライはそう伝えながら、セルリィに促して武器管理所のモロゾフに伝声筒で連絡するよう促してから、
「そうですね……私はホーリィと同じみたいな短剣を二振り、持ちたいんですが」
「……あ、そうか……恵利さんは【ソード・フルコンタクト】の経験者だったね! それじゃ……俺は持てるなら、バランスの取れた……」
「だ~ッ!! ショーマちゃんよ! 男なら黙って【鉈剣】使えばいーんだって!!」
不意に割り込んで来たホーリィは、あまり耳馴染みのない、風変わりな剣を勧め始める。
「あのな! お前みたいな素人は、まず最初の武器選びをマズって自滅するもんなんだよ! 此処はおねーさんの言う事をキッチリ聞いて、間違いの無い武器選びしときゃいーんだって!」
力説しつつホーリィは腕組みし、うむうむと頷きながら特徴と利点を説く。
「鉈剣ってのは、こう……先が、ぶぁーって膨らんでて、ちょいと反ってんだ。でな? 先っぽが丸まってるから振り易いし、長さも丁度いいから使い易いし当たるとズバッてイクんだぜ!!」
……ホーリィさんは、どうやら説明は下手なようで、
((……どう聞いても、変なモノにしか思えないんだけど!!))
翔馬はともかく、恵利にはどうにもこうにも……聞いていて恥ずかしくなる卑猥な形しか思い浮かばず、かといって親身になって一生懸命説明を続けるホーリィを止めようもなく、思案に暮れていると、
「ホーリィ……ひとまずモロゾフさんの所に行って、二人に現物を手に取って決めて貰えばいいんじゃない?」
「おおっ!? そっか!! その方が話が早いか!!」
セルリィの助言に納得したホーリィは、ならばと二人の手を引いて、艦橋から通路へと早足で歩き出し、その勢いに引き摺られるようにしながら恵利と翔馬は慌てて宝玉のローレライへ、
「す、すいません! また来ます!」
「失礼します! いだだだだ! ホーリィさん手首が痛いっ!!」
取り敢えず挨拶しながら、騒々しさと共に立ち去って行った。
【ふふふ♪……最近、ホーリィさんは補充兵の質の低下を嘆いていましたから、随分張り切ってるみたいね】
「えぇ、近頃、急に自由兵の志願者が増えて、ウチにも幾人かやって来たけれど……予想以上に練度の低い者ばかりで損耗が激しい上に、鷹馬にも乗れない者ばかりで新規の補充兵は停止しましたから……」
ローレライとそう話しながら、セルリィは三人がそちらに向かったと伝声筒を使ってモロゾフに伝えた。
……蛇足だが、新規の自由兵とは【ギルティ・オーバー】からの加入者の事である。彼等は大半が痛覚キャンセル仕様の低年齢作品からの移行者で、痛覚刺激有りの【ギルティ・オーバー】(成人版から性描写のみを外した普及版)で早く実績を上げようと初期特典の【配属志願】を無理やり使い、大挙してローレライへとやって来たが……激戦地へ次々と投入される《棺桶運びのローレライ》の異名を体感し、途半ばで遁走してしまったのだ。
……そんな連中をホーリィは【タ○無し】と呼び、『○マ無し共を寄越すなら必ず死体袋を持参させろ!』と荒っぽく軍本部に進言したとか。
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「おおおぉ!! エリじゃねぇーかッ!! 久しいなッ!!」
「モロゾフさん! お久し振りです!!」
「かぁ~ッ!! 暫く見ねぇ内に……あんま変わってねぇか……んで、そっちのアンちゃんは誰なんだい?」
武器管理所でモロゾフと再会した恵利は、手短に翔馬を紹介した後、訪れた理由を話し、
「……と、言う訳で新しい武器が欲しいんですが……」
「じーちゃん! こっちのショーマに【鉈剣】を見せてやってくんねぇか?」
「んぁ? ほー、ホーリィのお勧めにしちゃあ随分と玄人好みの渋いモンだな……待ってろよ……よいしょっとぃ!!」
モロゾフはそう言うと傍らの棚から油紙に包まれた一振りの剣を取り出し、カウンター越しにホーリィへと差し出した。
「ほらよっ!! コイツが【鉈剣】だぜ! ……まぁ、アンちゃんが新兵だってからよ、小振りな方が使い易いだろ?」
ごとり、と鈍い音を響かせながらカウンターに置かれたその剣は、ホーリィの手で油紙を剥がされてランタンの明かりに照らされ、鈍く光を反射させる。
「……それが、【鉈剣】なんですか……」
ホーリィの手から翔馬の前に突き出されたその剣は、若干の反りを持たせた両刃(裏表の両側に研ぎ面を持たせた刃)の造りで、彼女の言う通り先端は急角度で丸みを持たせてあり、刃の厚みも先に行くに従って幅広になっていた。
「うわぁ……凄いな……(本物みたいだ……)」
翔馬が手に持ってみると、黒い刀身と鋼特有の鈍い銀の刃先のコントラストが映える、質実剛健を形にしたような剣である。握りの部分は円形に切り抜いた革を何層にも重ねた設えで、握り締めるとしっくりと馴染む。
「……ソコな、レザーコイン仕上げってんだ。握っても滑らねぇだろ? 血に濡れた手で掴んでも滑らねぇって話だが、なぁホーリィよ?」
「そうそう! そんな感じだぜ! ……で、どんなんだ?」
「……ちょっと待ってくださいね……よし、それじゃ……」
翔馬は各々から少し距離を置き、狭い艦内で素振りする緊張感を感じつつ、右手で持ち、左から右へと横振りにしてみる。
……びゅっ、と軽い風切りと共に、振れの無いフォームで綺麗に振り抜けた事に驚くが、(……あ、手振れ補正が掛かってるのか……)と気付き、自惚れそうになる心を諌めつつ、逆に左から右への凪ぎ払いにすると……やはり、しっくりと手に馴染むのである。
「なーにニヤニヤしてんだ? 気持ち悪ぃな……んで、どうだい?」
「ホーリィさん、これに……してみます!」
ホーリィの問いに元気よく返答する翔馬だったが、恵利とモロゾフはお互いの顔を見ながら内心で(……本当かよ!?)と思うが、既に後の祭りだった。
自らの勧めに乗じた翔馬に抱き付きながら「じゃー、帯剣祝いの筆下ろしすっか♪」と言い出すホーリィに構わず、恵利とモロゾフは真面目に剣選びを始め、やや短めの短剣を二振り選び武器選択は終了した。
さて、次回は翔馬の初陣に……? ブクマと評価も宜しくお願い致します!