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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章 恵利の世界とローレライ配属。
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④「ダークエルブ」

ローレライ専任魔導士のセルリィは、産まれも育ちも森人種の郷。彼女は何故ローレライに乗り込むようになったのか?




 恵利と翔馬はお互いに存在は意識出来たが、身体を動かす事は出来なかった。それは一見すると不快な筈なのだが、セルリィの思念と共感状態に近い二人に、無理強いして拒絶する思いは芽生えなかった。


 ……ゴメンね……ちょっとだけ、ズルさせてもらうね? あなた達が【ばーちゃる】何とかって言う魔導みたいな物を使ってこっちの世界に来ている、って聞いたから、それに相乗りさせてもらっちゃった♪




 頭の中に響くセルリィの声は、何処と無く面白がっている風情があり、不安は綺麗に霧散した。しかし隣に居た筈の恵利と翔馬は、互いの気配は感じているにも関わらず、互いを視認する事は出来ない。どうやら傍観者に徹するしかない状況のようである。



 二人の沈黙を承諾と捉えたのか、やや間を置いてからセルリィの独白が始まった。





 ……私は知っての通り、【森人種(エルブ)】の一人……まぁ、生まれを遡れば結構な家柄……と言うか、いにしえの種族に近い感じかな? で、エルブの大きな集落に生まれた私は、集落を取り纏める長の娘として生まれたって訳。


 ……その中で何不自由無く育った私は、成人になる前に一人の普人種と出会ったの。彼は旅の商人で、それなりに老成していたわ。




 セルリィが語り始めると、周囲の景色が後方に流れ、やがて前方の森の奥に小さな広場が現れ、そこに若いエルブの娘と普人種の男が立っていた。暫く其処に居た二人は互いに見つめ合ってから、手を繋ぎ走り出す。





 ……で、二人は一緒に暮らしてめでたしめでたし……だったら私は此処には居なかったでしょうね? 残念ながら、私にはそんな明るくて素敵な生き方は出来なかったの。


 ……私は親の承諾を得ぬまま、駆け落ち同然で森を離れ、普人種の住む里に降って生きる事を選んだの。まぁ、生まれ持った魔導の才能を活かして、色んな事を請け負う仕事で生計を立てていたんだけど……そんな私に故郷から忠実な森の民の猟師、【コボルト】達が放たれたわ。







 ……人里から僅かに離れた一軒家に、足音を忍ばせて近付くコボルト達。彼等は決して獲物を逃しはしない。闇夜も見透かす眼、そして優秀な猟犬らしい鋭敏な嗅覚は、姿を隠す事に長けた森人種(エルブ)を見つける為に好都合だった。身を潜めているであろう人家を静かに取り囲み、斥候がセルリィの不在を確かめた為、現れるまで辛抱強く待ち続ける。やがて戻ったセルリィが帰宅し、包囲するコボルト達は慎重に近付き、彼女の身柄を確保しようと家に踏み込んだが、彼等は意外なものを眼にする。





 ……私は彼を愛していたけれど、彼は……違う女性を好きになっていたの。私の居ない間に新しい命を宿した女性と、彼は共に生きると言ったの。自らを生かす為に飛び飛びで家を出て仕事をしていた私が居ない間に……一体何があったのかは、知らないけどね。


 ……で、私は当然のように嫉妬に狂い、手にした宝具のレイピアを構えて彼女を突き殺そうとしたの。でも、彼が立ち塞がって……出来なかったわ。



 ……でも、それだけなら……私は打ちひしがれて、静かにその場から消える筈だったかもしれない。




 ……あれさえ見なければ……




 ……あの、勝ち誇った女の微笑みを見なければ、私は過ちを起こさずに済んだでしょうね?




 ……気がつけば、私のレイピアは彼と女の心臓、そして新しい命を情け容赦無く刈り取ったわ。魔導強化を施した私の腕前は、そりゃあ見事の一言だったわね。そして……血に濡れたレイピアと我が手、そして抱き合いながら絶命している二人を見た瞬間、私は……狂ったみたいに笑って、そして……泣いたわ。涙が枯れ果てるまで……。




 ……そして、踏み込んで来たコボルト達に捕縛された私は、同族から《闇に堕ちた者》として、【ダークエルブ】の烙印を捺されて追放されちゃったの。






 不意に視界が元に戻り、二人はセルリィの前に立っていた。


 「そんな感じで私は今、此処に居る訳。……罪に穢れ、正しく【黒き復讐の女神】に祝福を受けたエルブ……ってとこかな?」


 そう言うセルリィの瞳は剛竜(ドラゴン)のように金色に眩く輝いている。だが、その光は類い希な美しさの裏に潜む狂気……闇を背負う者特有の魔孕(まよう)の気配を逆に照らし出しているようにも、見える。



 「……宝具のレイピアを持ち出した罪は、聖地追放で帳消しになったし……自らの手で好いた相手を殺めたんですもの、もう私を縛る物は何もない……って思って、暫くの間は世捨て人を気取ってたんだけど……そんな時に()()()に出会ったのよ」


 二人はセルリィが小さな窓から外を眺める姿を眼で追うと……そこには野外にも関わらず、バターカップと二人で頭から氷水(桶の水を魔導ではんなりと氷結させたらしい)をひっ被りヒャーヒャーと騒いでいる()()()が居た。



 「……相変わらずのバカよね……全然変わらないよ、ホント……ホーリィって奴は」


 セルリィは心底呆れたように呟くが、その声色は不思議と温かく、身内に向ける愛情を感じさせる優しさに満ちていた。


 「アイツに魔導を用いて【身体強化】を施す術式を伝授したのは、私なんだけどさ……今じゃ私より巧みに使いこなしてるわ。師匠顔無しよね?」


 やれやれ、と言いたげに手を振りながら歩き出すセルリィ。だが、ふと立ち止まり恵利と翔馬に向き直りながら、


 「その辺の事は今度飲みながら話しましょ! まだローレライに挨拶してなかったもんね?」


 そう話を締めくくり、二人を艦橋へと案内すべく先に進む。そうして彼女の後ろに付き従いながら、翔馬が恵利に向かって語り掛ける。


 「……ねぇ、俺……こんな事言うのも何だけど……【ギルティ・オーバー】って普通のバトル系ゲームなんじゃないの? ……セルリィさん、物凄く人間くさいって言うか……まるでアドベンチャーゲームのキャラみたいじゃない?」

 「うん……私も前にやった【ギルティ・レクイエム】って、制作会社の関係者用の凄くコアなのプレイしたんだけど、そっちも物凄く複雑で只のバトル系ゲームじゃなかったわ……」


 翔馬に答えながら、恵利は父親の透とのやり取りを思い出す。





 ……ねぇ、お父さん。何でホーリィはあんなに自由で好き勝手やってるの? まるでゲームキャラじゃないじゃん。


 ……ホーリィか。彼女は、いや【ギルティ・レクイエム】に登場するキャラクターは全て、我々と同じ量の人生経験をメガクラウド・サーバー(※①)の記憶野に持っているんだ。彼等は肉体と魂が無いだけで、もし、どちらか片方でも彼等が持ち得れば……純粋な人間と同列に扱うべき存在さ。


 ……それ、本当なの!? どうしてゲームキャラにそこまでの作り込みが必要なの?


 ……秘密、って言いたいけど、恵利には教えておくよ。ウチの会社【レグテクス】はゲームで名を売った会社だが、その開発技術を用いて人工知能やA・Iを活用した分野を開拓しようとしているんだ。彼等【ギルティ育ち】のA・Iはその雛型になっていて、ゲーム内の世界で実際の世界と同じように戦い、そして考えながら生きているんだ。つまり、バーチャル世界に生まれた新しい人間……かな?





 恵利は、透がホーリィ達を何処まで高めているのかは知らないが、これだけは判っている。


 ……ホーリィやセルリィ、その他の全てのキャラクター達は、リアルな世界の住人と全く同じようにゲームの内で生きている、と。




 「いっやぁ~爽快だったぜッ!! 氷水サイコーッ!! ……でも髪の毛乾かすの面倒だな……お~いセルリィ! アンタの魔導で乾かしてくんね~か?」

 「うっわ!! 頭振るな!! それとアンタ全身びしょびしょじゃない!」


 いつの間に艦内に戻ったのか、ホーリィが後ろから三人の元を目指して駆けて来たのだが……水を払う為に振り回した拍子でセルリィの顔に濡れた長い髪がべちょりと張り付き、その冷たさと重さに狼狽えながら、質の悪い悪戯っ子を叱るように怒鳴るセルリィ。


 仕方なく真正面から適度に暖めた風を送り、ぶわわと長い髪を乾かしてやると、


 「あばばばばばば……くひぃ、ひめてなひからくるひーほ!!」

 「うっさいわ! そう思うなら口を閉じてなさい!!」

 「はーひ……あ、後ろ向きになりゃいーのか……おほほ~♪」


 背中を向けたホーリィが嬉しそうに髪を靡かせる。そんな姿を見ていた恵利と翔馬だったが……


 「……し、翔馬クン!! は、早く艦橋に行こっ!!」

 「え? 何でそんなに慌てて……てっ、うわっ!?」


 ……水に濡れたホーリィの被服は、黒い全身タイツのようなモノなのだが、それが肌に更に密着すると……その下半身のラインはおろか、股の間も()()()()()()()()()()()()、つまり……ほぼ黒塗りの裸にしか見えない訳で。


 「ありゃ? エリとショーマは何であんなに急いで行っちまったんだ?」

 「……アンタの恥女っぷりと破廉恥さに呆れただけよ……」


 セルリィの言葉も全く気にしていないホーリィは、乾かし終わった髪の毛をいつもの髪留めで纏めながら艦橋へ歩き出した。




 (※①)→メガクラウド・サーバー。造語。複数のホストコンピュータを連結し、大量の複雑な処理や記録を実現化したシステム。


次回は戦の準備回です! ブクマと評価をお願い致します!

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