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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章 恵利の世界とローレライ配属。
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①恵利の成長。

ホント久々で申し訳ありません。しかし、忘れてはいませんよ? そして、久々に恵利視点のお話です。



 眠さを堪えて講義を受けていると、不意に携帯端末が唸りだす。


 『今夜は時間ある?』


 翔馬しょうまクンからのメールに頭の中で答える。


 『あるよ? 何かあるの?』

 『あの、都合良かったら……一緒に【ギルティ】に行ってみない?』


 ……うわっ!? 誘われたっ!? ……どーしよ、まだ彼には【ギルティ・レクイエム】までやった事あるってカミングアウトしてなかったけど……


 たぶん、彼は【ギルティ・オーバー】の方の事を言ってる筈なんだよね。この前、旧作の集大成として、垣根を越えた普及版の【ギルティ・オーバー】が発表されたから、新作ゲーム好きの彼ならきっと手を出すと思ってたし。


 私はあれから大学に進学し、唯一の同校卒業生の翔馬クンと知り合ったけれど……彼には悪いけど在学中に同じクラスメートだったって、進学してから知ったのよね……不登校のゴタゴタもあったし。






 【ギルティ・オーバー】って、同じ会社の【ギルティ・エレメント】の世界観(ギルティ・レクイエムの全年齢対象で集団戦メイン)をそのままに、個人イベント追加と、異なる世界観(銃での戦いがメインのファンタジー系)の別基軸作品の【マギ・ストライク】ってゲームをミックスさせた、お父さんの会社の最新作。


 あのチーター騒ぎで色々あった、美華って人が司法取引みたいなやり取りで会社に返り咲きして、最初に作ったって話だけど……やっぱり凄い人なんだろうな、それだけ……。不利益全てに眼を瞑って、会社に掛け合って再雇用させたお父さんも相当苦労したみたいだけど、それだけの訳があったみたいだし。



 ……うーん、どうしよう……そんな感じだから、久々にホーリィ達にも会いたいけれど……レクイエムのキャラを引き継げるなら、いいかな?




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……話したい事がある、って聞いたから何かと思えば……()()()()だったのか?」

 「ちっ!? 違うもん!! お父さん……ちゃんと話聞いてたの!?」


 恵利は両手に構えた戦闘模擬剣(バトルスティック)を振り直し、握り締めながら、眉間に皺を寄せて疑念の眼差しを向ける。


 「そうだな……【ギルティ・オーバー】は過去の作品のユーザーを取り込む為に、引き継ぎ機能はちゃんと用意されているさ。恵利のアバターもあの魔導人形で、貢献度も引き継いだまま、な」


 対する父親のとおるは、見慣れた黒い道着に身を包み、恵利と会話をしながら、ただ立っていた。しかし、Eゲーム内の個別格闘モードではあったが、たったの一年で習得した全身没入(フルダイブ)での合気道の使い手として見れば、二人の間にあるのはじゃれ合いではなく、試合そのものの雰囲気だった。



 大学進学後、二人は時折、こうして離れた場所にお互いが身を置きながら(透は会社内、恵利は自宅)、手合わせをするようになったのだが、それでも二人の実力差は全く埋まらなかった。


 恵利は幼い頃からスポーツチャンバラから派生した《ソード・フルコンタクト》(打撃と組み投げ技有りの格闘技)を一貫して部活動と道場で継続し、関東大会で入賞した経験もある。謂わば【武器使用有りの柔術】といった風情の強烈な武道を学んできた恵利は、自分の技術に自信は常にあったのだが……こうした電脳空間での戦いとなると、勝手が違うせいか、透には敵わなかった。


 ほぼリアルに等しいフルダイブでの試合は、一見すれば体格差の無くなった(透が望んで同じ体格のアバター使用を促した)恵利の圧勝に終わると思われたが、フルダイブ環境下での達人の透は格の違いをまざまざと見せつけたのだ。


 聞けば「電脳空間で合気道を学ぶ事が出来るか試す為に始めた」のは、僅か一年前。その間も仕事の合間を縫って、基礎学習アプリを使い、初心者向けから中級者向けへとステップアップを続け、現在は「実戦で何が出来るかを知る事は良い開発材料になる」らしく、恵利との異種格闘技を望むようになったのだが……チーター事件の際に垣間見せた姿は、既に達人の域に達していた。



 「まぁ、彼も恵利と一緒にゲームするのは……かなりツラいかもしれないがな?」


 まるで未来の二人の往く末を想像しながら話すかのように、人の悪い笑みを浮かべる透に、恵利は頭の芯が沸騰しそうな感情を抱きながら、


 「なっ!? 何よそれ!! まるで私がホーリィみたいだって言うの!?」


 憤りながらも、セオリー通りの丁字(ていじ)の踏み込みからの突きを入れる恵利の攻撃は、透の掌底に受け流されて弾かれる。即座に恵利の足の上に踏み込もうとする透を牽制する二刀目は、背中を見せながらの側転で軽く交わされる。


 「相変わらず動きが単調だな。関東大会を制覇出来なかった理由はそれじゃないのか?」


 お互いの距離を縮めたまま、透は技を極めるつもりで恵利の泣き所に容赦無く言葉を投げながら一気に踏み込んだが、意外にも彼女は怒りの態度も見せぬまま、予想外の動きを見せた。


 にらみ合う形で相対していた恵利は、突然ニコッと笑うと透の膝に足を乗せ、彼の動きを読み取り回避を兼ねてそのまま小さく跳躍。相手の左肩に手を着き、肩の上でバトルスティックを重ねた状態で手放さぬまま身体を捻り、体操の鞍馬の要領で体を入れ替えながら背後に着地して、


 「昔は昔、今は今よ? お父さんだって、昔より今の方が強いんじゃないの?」


 両手でバトルスティックを器用にクルクルと回しながら、恵利はまるで挑発するかのように父親と真正面から向き合い、悪戯っぽく笑みを浮かべてから、


 「……いつまでも()()()()()()()()()、あっという間に追い越されちゃうわよ?」


 そう言い放つ恵利だったが、透はその言葉に、


 (……追い越す時は、白馬の王子様の後ろに乗ってるならいいが……このままなら手綱を握るのは確実に恵利の方だな)


 と、精神と肉体の両面で成長した娘の往く末を感じ、一瞬だけ淋しさがよぎる。だが、今はそんな姿を見せる恵利に、先達としての矜持を示す時である。




 ……それからきっちり五分間、互いの全力を以て臨んだ結果は……頸動脈を絞められて継戦不能と化した恵利の黒星で幕を閉じ、星を落とさずに済んだ透は何とか威厳を保つ事が出来た。だが……代わりに彼女の内面的な成長をも目の当たりにし、父親として複雑な心持ちになった。





 (……やれやれ。今回勝ったのは俺だが、次は判らんな……)


 そして、恵利と別れた透は約束通り【ギルティ・オーバー】のアクセスコードを送り、電脳空間から離脱した。



新キャラの翔馬クンは果たして恵利の心を掴めるのか? 続きをお待ちして頂けるならば、ブクマ評価も是非お願い致します!

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