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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
【第二部】第一章 ローレライ強襲騎兵隊編
63/124

⑧東西将軍。

久々更新です。少し早い時間ですが、宜しくお願い致します!



 巨大な帝国の戦艦、その艦橋に一人の武官が豪奢な椅子に腰掛けて空の景色を眺めていた。その視線は揺るぐ事無く、周囲の下士官達も話し掛ける事は無かった。やがて艦橋に一人の下士官が現れると、そちらに視線を向ける事無く、静かに口を開く。


 「……フィリオ、先刻の空中戦艦は捕捉継続中か?」

 「畏れながら……どうやら、索敵に優れた担当乗員が居るのでしょう、此方の先鋒艦の追跡を振り切って消息を絶ちました……」

 「ふむ……まぁ、よい。どうせ西方の山猿風情がしゃしゃり出て来たと嘲笑いにやって来た連中だ。勝手にさせておればよい」


 ローレライが砦に強襲を掛けた日、その空域には三隻の空中戦艦が居た。


 二隻は灰系統の迷彩色に塗られた帝国正式重戦艦、もう一隻は離れた空域に艦籍不明の赤い戦艦が視界にあり、そちらは偵察任務中の外国艦と推測されていた。


 当該空域が空戦許可外であった為、お互いに距離を保ちながら監視を続けていたが、帝国側の一隻が降下を始めるのを見届けた後、次第に高度を上げ、先鋒艦(小規模艦船類)を置き去りにして姿を眩ましてしまった。



 「……二番艦、地上に着底完了。これから第二段階に進みます」

 「抵抗はないだろう……強襲は毎度のローレライか?」

 「はい……ホーリィ様もいらっしゃると思いますが……如何なさいますか?」

 「……捨ておけ。どうせ我が家の恥晒しだ」

 「……畏まりましたッ!」


 フィリオと呼ばれた下士官は恭しく頭を下げてから、艦橋を出て行く。その姿を見送りながら、男は誰に言うでもなく呟く。



 「……誇り高き我がエルメンタリア家に、女人の跡取りなぞ不要であるに、親父殿ときたら……全く……」


 彼はそれだけ言うと、艦を帝国本土に向けて進行させる。巨大な戦艦はやがて雲の中へと姿を消し、上空には先鋒艦が三隻程残り、警戒しつつ下方の戦艦が戻るまで緩やかな円を描きながら待機した。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「おお? ありゃウチの殿艦(でんかん)じゃねぇか?」


 ホーリィは頭上を進む空中戦艦を見つけると、手にした綱を緩めてから空を眺める。


 「……大きい……それに魔導駆式があれだけくっきりと顕れてるって事は……見た目だけの張りぼて艦じゃなさそうね……」

 「あったり前だろぉ!? ありゃ東西将軍直轄の最大艦さ! 一隻で五百人の地上要員を運べる戦略級艦船だぜ?」

 「へえぇ……ふああぁ!……首が疲れるわぁ……」


 そんな話をしながら歩くチェリリアーニとホーリィだったが、不意に思い出したようにチェリリアーニが切り出す。


 「……あの、帝国って……捕虜の処遇は、どうなっているんですか?」

 「あぁ? あー、ウチの処遇は戦奴と売身の二つだ」


 ホーリィの背中に問い掛けるチェリリアーニに、彼女は振り向きながら答える。束ねた黒髪がふわり、と舞いながら背中に降り、静かに流れていく。



 「……センドとバイシン……?」

 「戦奴ってのは、戦闘奴隷の略でよ、売身ってのは……ノ・クターン国に性奴隷として売却……まぁ、各々年期奉公に近いんだがよ……戦奴は五年、売身は三年で年期明け出来るぞ?」

 「…………」

 「でもよ? 頑張りゃ売身なら一年で返せるらしいぜ? まぁ、それでいいってんならの話だがよ……」

 「……私は、国に捨てられました。そこに来て、更に自分まで捨てるつもりも有りません。……もし、許されるならば……恭順して闘士として……ッ!」

 「……あ~っ!! 判った、判った~っての!! ……ちぇっ! 全然儲からないんだぜ、全く……さぁ、行くぜ?」


 毒づきながら、ホーリィはチェリリアーニを促して歩き始める。そんな二人を周囲の帝国兵士達は好奇と羨望の眼差しで眺めていたが、


 「……おっ? 謁兵だな……どこの赤ベタ(襟章の赤い印・将校の証)がこんな僻地に……うぇっ!!」

 「どうしたんですか?」

 「……下の兄貴だ……」


 奇声を上げたホーリィに問い掛けるチェリリアーニだったが、先方に固まる兵士と将校の集団の中に自らの肉親を見つけたホーリィは、思わず口に出していた。


 「おお!! ()()()()じゃないか! 参加しているのは知っていたけど、会えると思わなかったぞ!!」


 軍帽を被り、黒いコートを纏う『下の兄貴』と呼ばれたその将校は、ざわつく集団から抜け出すと、配下の者を放置してさっさと歩み、ホーリィに近付いて親しげに話し出す。


 「あ、あぁ……兄貴、いや将軍は何で此処に?」

 「見ての通りさ、ホッジス将軍の発案で動いた兵隊が、キチンと仕事しているか現場で見てこいって言いやがってな……自分は上で見物してたようだが、もう帰ったらしいさ」


 遅れて駆け付ける警護の近衛兵が取り囲む中、二人はそんな話をするが、ホッジス、と言う名前を告げられた瞬間、ホーリィは表情を曇らせる。


 「……ホッジス将軍……」

 「あー、やっぱりホランドはまだ根に持ってるか? 何せ帰還した君を『当家に不要な物だ』と門前払いした張本人だものな……」

 「……もう過ぎた事だし……それにワタシは【ホーリィ】だぜ? ホランド坊っちゃんは死んだんだ……」

 「……そうか? まぁ、本人がそう言うなら……悪かったな、ホーリィ」


 ホーリィはそう言うと次兄の将軍から離れ、チェリリアーニの元へと戻る。



 「だ、誰なんですかあの人は!!」

 「あー、ワタシの次兄、つまり二番目の兄貴。ホルベイン西部将軍……通称『西のホルベイン』ってんだ。ホッジス東部将軍ってのが長兄で、そっちのほうが偉い?だから『東から昇った太陽が西に落ちる』って揶揄されてて、作戦発案がホッジス、実行指揮がホルベイン、って流れが帝国(ウチ)のやり方だ」


 ホーリィはそう伝えると、チェリリアーニを促す。


 「まぁ、細かい事はそのうち判るさ。とりあえずウチの船で簡単な調書作るぜ?」

 「……ホルベイン将軍、カッコいい人ですね……」


 何故かホルベインに食い付いたチェリリアーニに苦笑いしつつ、ホーリィは彼女を先に歩かせてローレライへと戻っていった。





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