⑤イイ生け贄見~っけ!!
ホーリィさん対チェリリアーニさん。
「……はい、以上で御座います……ではまた後程……」
チェリリアーニはグロリアーナへの報告を済ませると、中継用の式神を解き放ち、空高く打ち上げる。式神はやがて上空に待機しているであろうグロリアーナの空中戦艦に引き込まれ、様々なデータを届けて役目を終えるのだ。
(……それにしても、実りの薄い実証試験でしたわね……女王様直々の立案でしたのに、残念ですわ……)
彼女は内心で呟きながら、遠方まで出向いて行った、魔導付与による身体変換の出来に一抹の寂しさを、そして華々しく検証結果を持ち帰れぬ侘しさを感じて、一人俯く。
(……最近、女王様は私にわざと芳しくなり難い検証をさせている気がします……なら、何故そうするのでしょうか……判りません)
愚直な程、忠誠心はあるにも関わらず、彼女は未だ低い階級。だからこそ良い印象を持って貰い、少しでも階級を上げていかないと……きっと、永遠に悪循環が続く気がしていた。だからこそ、検証結果に歯痒い思いを持つ。
丘巨人に秘密裏に移植した宝玉を用いて、感情操作と獣性開放を強制的に行い、グロリアス国に害を及ぼす者を誅する……それは確かに部分的には成功したが、丘巨人は実力を発揮する前に葬られてしまい、宝玉も回収不能……ならば、自爆させる為に許可を得ようと連絡し、今に至るのだが……不意に背後から声を掛けられ身を翻した。
「……お前ぇ、グロリアスって国の連中だろ? ワタシにゃ判るんだよ……」
手に提げた双剣をゆらゆらと振りながら、ホーリィは路地の中程に立つチェリリアーニにそう告げると、即座にローレライに連絡を付けようとし、
【……グランマ、今すぐワタシの周りを隔離……あ、あれ?】
「……お生憎様ね……この近辺は魔力干渉を施してあるから、通話で増援を呼ぶ事は出来ないわよ?」
ホーリィの意図を曲解したのか、そう言いながら得意げに胸を反らすチェリリアーニだったが、
「……まぁ、いっか。騒ぎ立ててワタシの獲物を横取りされたくねぇし……」
静かにそう言うと、魔導付与の勢いで後ろに束ねた黒髪が次第に浮き上がり、宙に舞いながら躍り出す。
「これは……貴女、私と一戦交えるおつもりで?」
「……コイツを見りゃ判るだろ? 御託は聞きたくねぇし……こちとら、ずーっと暇してたから、さっさとぶっ殺したいんだ……だからぶっ殺させろ……!」
ホーリィにしては珍しく抑揚を欠いた声で、己の情念を吐露すると、
「……言われて素直に首を出す程の愚か者では……御座いません。残念ですが他を当たってくださいまし?」
返すチェリリアーニも静かな物言いではあるが、黒いローブの端からがちゃがちゃ……と重い鉄塊が幾つも落下し、言葉とは裏腹に静かな怒りの炎を宿した瞳を光らせる。
「……お前ぇが最後に聞く名前だ、ホーリィ・エルメンタリア……」
「……グロリアス国、第一等魔導銃士、チェリリアーニ……参ります」
チェリリアーニが足元に落ちた鉄塊を、爪先で踏み締めて先端を舞い上げさせながら掴むのと、
ホーリィが魔導付与の身体強化を発動させて、虐辱の予感に身を震わせながら双剣を振り上げたのは、同時だった。
「おらあああああぁぁああぁーーッ!!!!!」
「……付与術式【連撃破砕】発動ッ!!」
踏み込みと同時に加速し、壁に跳躍しながら中空に舞い、逆さまになりながら猛烈な勢いで双剣を振るうホーリィを、手にした長方形の鉄塊から放たれる強烈な弾幕で迎え撃つチェリリアーニ。
跳躍した勢いは猛烈な速度で連射される弾丸により押し戻され、つぎつぎと放たれる弾丸を火花と共に斬り落とすホーリィだったが、掃射を終えた鉄塊を投げ捨てたチェリリアーニとはかなりの距離が開いていた。
「……なんだ、そりゃ?……矢でもねぇし魔力の匂いも少ねぇし……」
「呆れました……剣で弾くなんて狂気の沙汰ですわよ? 脳筋ですわね! ……本当に……」
だが、全ての弾丸を的確にホーリィへと命中させていた彼女の腕前も確かだったが、それを全て【眼で捉えて反射反応のみで】弾き返してしまった相手の身体能力に、我知らず言葉を洩らす。
「……当たれば肉を容易く突き抜け、骨を砕く破砕の弾を弾き飛ばすとはね……」
「あぁ? そんなモンか? 楽勝じゃねぇ?」
事も無げに言うホーリィだったが、身体に纏った被服は所々が火花と跳弾により小さな穴や裂け目が開き、戦闘の激しさを物語っていたのだが……本人は涼しい顔である。
「楽勝、ですか……でしたら、少しだけ真面目にやりましょう……」
チェリリアーニはそう告げると軽く一歩、後ろに下がる。だが、同時に頭上に魔導の紋様が浮かび上がり、何かの先端がずっ、と突き出される。
「さぁ、これは如何でしょうか? 【長砲招来】【瞬殺発砲】……ッ!!」
魔導の紋様から突き出した一抱えもある砲口がホーリィを捉えるや否や、チェリリアーニは口を開けて耳を掌で塞ぎ、射出の衝撃に備える。
「……斬ればいいのか? そいつ……」
さも当然のようにホーリィは言い放ち、チェリリアーニの頭上に浮かび上がった砲口に向かって跳躍した。
さて、何を斬るでしょうか? 次回をお楽しみに!!