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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
【第二部】第一章 ローレライ強襲騎兵隊編
57/124

②先駆けを競え!!

久々の更新で御座います。



 今の時期であれば、どんな土地であろうと移り変わる季節に合わせ、木々は秋の装いを纏い、茶色い木の葉を少しづつ散らしながら幹を露にしていくものである。


 人里離れた林の間を駆け抜けるローレライ強襲騎兵隊は、風切り音を立てながら、しかし静かに砦へと走り続けていた。




 【……クリシュナ、アンティカ……配置に付いたか?】


 ホーリィは耳に着けたイヤリングを握り締めながら、配下の二人に問い掛ける。魔導付与に由る音声伝達で彼女の声は各々のイヤリングを介し、耳へと届く。


 【はぁ~い♪ ちゃんと付いたわよぉ~?】

 【……こちらクリシュナ……バマツさんと共に到着しました】


 二人(クリシュナはバマツを同行)は定位置へ着き、物陰に身を隠しながら弩や強化弓を引き絞り、目標を狙う。


 【よっしゃ……そのまま待機してな……鎖鉄の事だ、しくじって無いだろうから油断しねぇで、しっかり狙っとけよ?】


 ホーリィはそれだけ伝えると、鷹馬に拍車を懸けて更に加速させる。


 かかかっ、と鉤爪を鳴らしながら走る鷹馬の背で、姿勢を低くし更に伏せて羽毛に身を沈める。その姿はバイクに跨がるライダーのようで、遠目には色の違う羽毛と見違えてしまうだろう。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ……さて、彼等が向かっている砦とは、どのような物であろうか。


 略歴を説明すれば、宗主国との軍事的な緊張関係が続いていた大陸の小国が、防御拠点として国境付近の街道を塞ぐ形で山間部に作った物である。


 砦とは、主に防壁と監視塔、そして出入りを制限する為の門が備わった設備であり、三角形に防壁を設ければ最小限の面積で効率的な防御が行える。


 今回ホーリィ達が向かっている砦は、二つの岩山の間に築かれた自然の理を活用した典型的な形状で、規模も数百人の兵士を駐留させられる上に、十分な備蓄設備や複数の井戸もあり長期籠城も可能である。


 砦の南側には巨大な門と、それを守る物見塔が左右に突き出して睨みを効かせている。防壁も人の背丈よりも遥かに高く、もし無策のまま門へ殺到しても複数の矢や弩を射込まれて為す術も無く、骸と化すだろう……。




 ……だが、ホーリィは臆する事無く、鷹馬の騎首を砦へと向け続け、走りを止めずに突き進む。


 【……グランマ、そろそろ林を抜ける。()()()()()()()()を頼むぜ……】

 【了解しました。強行降下後、迅速に支援行動を開始します】


 二人のやり取りが終わると同時に林を抜けた一団は、三角陣形から菱形陣形に、そして三列行軍へと移行しながら一気に加速。



 「……なっ、騎馬隊だと!? いつの間に……ッ!!」


 異常を察した砦の物見塔から矢や弩の応酬が始まるが、即座に緩やかな放物線を描く筒状の物体が塔へと飛来し、衝突して液体を撒き散らすと同時に黒い煙を上げて燃え始め、炎に包まれた犠牲者が一人また一人と落下していく。



 固く門を閉ざし侵入者を拒む構えの砦に迫る一群の前に、突如滑るように飛来したローレライが現れると同時にターンし、後方開口部を開いて魔導要員が集団詠唱を開始する。




 【……地に巡りし竜脈の源よ、今此処に顕現し姿を変え賜え……】



 

 ……ずずん、と地響きを立てながら防御壁に向かって地面が盛り上がり、あっと言う間に固く締まったスロープ状の起伏が防御壁を貫通するように出現し、騎兵隊は応射の無いまま速度を維持し、砦の内部に向かって全速力で駆け抜けていった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……何処の物好きが攻めてきやがったってぇ?」


 砦の奥部に作られた拠点に、身を横たえさせていた丘巨人(ヒルジャイアント)の男が起き上がり、物憂げに兜を被りながら配下に巻き込んだ敗残兵の一人に尋ねる。


 「そっ、それが……どうやら帝国の騎兵隊らしく、あっという間に砦の中に……」

 「兄貴……そりゃ、ローレライの連中だろうな。神出鬼没……何処にでも現れて霧のように消えちまうって噂だ」

 「……ふん、騎兵隊がどれだけ来ようが無駄なことだ……」


 兄貴と呼ばれた巨漢は、片手に人の背丈を越えそうな巨大なカイトシールドを掴むと立ち上がり、傍らに置かれていた戦斧を持つと肩に担ぎ、


 「……俺達、ナグラロク兄弟に喧嘩売ろうってんだ、タダで帰れるとは……思っていなかろう?」


 ずしん、と地響きを鳴らしながら拠点から踏み出すと、混乱を極める周囲の兵士に向き直り、


 「おめぇらッ!! 死にたがりがやって来ただけだッ!! 丁重に歓迎してやろうじゃねぇかぁ!!」


 大気をびりびりと振動させる程の声量で兵士達を一喝すると、鷹馬達が怯え(おのの)き、攻め手側の騎兵隊が慌てる事になってしまう。



 「ありがてぇな、探す手間が省けたぜッ!!」


 だが、恐れを知らぬホーリィはほくそ笑みながら鷹馬から飛び降りると、自らの三倍は有りそうな巨体に向かって歩み寄りながら、


 「図体はご立派だが、果たして中身はどうなんかねぇ……? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()してくれよな?」

 「……んだぁ? マメかと思ったら口利きやがったぜ……まぁ、()()()()()()()()()()()()()だがな! しかし帝国も人手不足かぁ? メスガキに慰問団任せてる位だからなぁ!!」


 互いに値踏みするような視線を投げ合いながら、悠々と得物を構えもせずホーリィはナグラロク兄と対していたが、



 「……面倒くせぇな……パルテナの奴がゴチャゴチャ言ってたが、居ないんだから仕方ねぇか! ぶっ殺そう!!」


 あっという間に痺れを切らし、手早く双剣を抜きながら柄を繋げて双頭剣へと変化させ、魔導強化の多段効果を発揮させる。足元から湧き出すように視認出来る程、濃密な魔気を孕んだ波紋が現れると、流石の巨人も相手の異常さが理解出来たのか、俄に表情を曇らせる。


 「……メスガキ、おめぇ魔導強化なんぞ使いやがるか? ……ローレライ付きの連中に『化け物』が居るって聞いたが……」

 「今更誉めるんじゃねぇっての!! ウチのモットーは『観ての御代はお命で』ってんだからよッ!! 黙って死ねッ!!」


 双頭剣【ミダラ】を振り(かざ)しながら、ホーリィは極めて低い姿勢を維持しながら跳躍し、真下に近い位置から先手の一撃をナグラロク兄へ見舞わせる。



 ……ずどん、と強烈な斬り付けはナグラロク兄が翳したカイトシールドに阻まれたものの、周囲に飛沫が飛び散り互いの足元から土煙が舞い上がる。


 「……ふ、ふははは……やるじゃねぇの、メスガキぃいいッ!!!」

 「あああぁん!? 防ぐな避けるなッ!! さっさと死ねェ!!」


 ナグラロク兄の言葉を耳にして、眉間に皺を寄せながらぎりりと歯を食い縛り、一気に攻め切ろうと双頭剣を頭上に持ち上げて、全身の筋力を総動員させながら跳躍。




 「……これが……【悪業淫女(バッドカルマ・ビッチ)】の全身全霊って奴だ……受け取れぇぇええええッ!!!!」



 凶剣を構え巨人に挑むホーリィと、受けて立つナグラロク兄の戦いが、両軍の狭間で派手に火花を散らしながら、幕を開けた。



 

 

そんな訳で次回も宜しくお願い致します!!

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