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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第四章 大陸覇道編・仲間を増やそう!
55/124

⑬終宴……?

ひとまず、一区切り。



 恵利は泣きながら家族との再会を果たした娘達の姿に貰い泣きしつつ、背後に近付く気配を察し、真っ赤になった眼を誤魔化しながら振り向くと、


 「ホーリィ? ……あ、あれ? オリヒロさん……いつの間に?」

 「……エリ、少しだけ話がある。いいか?」


 直ぐ後ろに立つ着流し姿のオリヒロに驚くも、そのいつもとは違う強い語調に気圧されて、人々から少し離れて林の中に身を紛れさせてから、



 「あの、お話って一体……」

 「……ああ、このままじゃ判らないか……俺だよ俺、父さんだよ」

 「えっ、とうさん……って、もしかしてお父さんッ!?」


 驚く恵利と向かい合うオリヒロは、ややばつの悪そうな表情を浮かべながら、恵利に向かって自らを父だと名乗り、そして……


 「……まぁ、何と言うか、今はこのキャラクターを借りて【役員専用サーバー】経由でアクセスしている最中でな……見てみな、周りを……」


 指し示されて、言われるままに周囲を見ると、救出された娘達と再会を喜ぶ姿を見せていた家族は全員、一切の動きを止めて凍りついたように固まっていた。


 更に視野を拡げてみれば、風に(なび)き葉を落としていた木々や、舞い散る木葉ですら空中に停止し、この環境全体の時間が止まっている事を物語っていた。


 「何これ!? ……も、もしかして動いているのは私達だけなの?」

 「まぁ、そう言う事だ。それにしても派手にやってくれたな……」


 オリヒロの姿を借りた父親は、困ったように呟きながらも、何処か誇らしげに微笑みながら恵利のアバターの頭に手を伸ばし、


 「おまけにコイツは【魔導人形】……次のイベントで配布される予定の隠しアバターの一つだったのに、お前が使ったせいで公表前から『あれは何だ』と問い合わせが殺到しちまうし……困った事をしてくれたが……」


 そこで言葉を切り、頭に当てていた手を戻してから、


 「……それはともかく、チーター対策が始まる前に事態は終息したようだし、一応は礼を言っておかないとな……ありがとう」


 丁寧に頭を下げる父親に困惑した恵利だったが、次の言葉を聞いて表情を固くする。





 「……だが、お前は今からアクセス停止だ、それは譲れない」





✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 




 ……秋も深まり、木々の装いが季節を現す茶色に染まった頃、ホーリィは待ちかねた再会を果たしていた。



 「エリッ!! 全くお前って奴は……おらぉ!!(ボコッ)」

 「いたっ!! 痛いってば!! ……でも、連絡出来なくてごめん……」

 「……おっ? 少しだけおっぱいデカくなったか?」

 「なってないわよ!!」


 二人は手短に(若干の手荒い歓迎はあったが)言葉を交わしつつ広場で顔を合わせ、暫くして遠くに見えるローレライへと向かって歩き始めた。






 ……チーター狩りから直ぐ後、父親に《未成年のままアクセスしていた事》を指摘された恵利は、基準の年齢に達する秋までギルティ・レクイエムへのアクセス禁止を命ぜられた。


 流石の恵利もこの通達には、ぐうの音一つも出せず、ただ黙して従うしかなかった。





 それから暫しギルティ・レクイエムと疎遠になりながら、夏から休学していた学校へ復帰した恵利を待っていたのは、然程(さほど)期待していなかったクラスメートからのそれなりの謝罪と……






 ……何処から漏れ出たのか知らないが、自分とホーリィ・エルメンタリアという【ギルティ・レクイエム随一の強烈な個性を放つ】アバターとの関連性についての質問の嵐だった……。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 並んで歩む二人は、ホーリィは灰色の略式軍装、恵利は魔導人形の外観に同じ略式軍装で、遠目から見たら同じような階級の女性士官が二人並んで歩いているようにしか見えなかった。


 そんな服装の二人の会話は、お互いの近況報告だったのだが……


 「……で、毎日毎日ずーっと!! 『ホーリィは恵利自身が操っていたのか』とか『ホーリィって何処に居る人が使ってたのか』とか……会う人毎に聞かれたのよ!?」

 「……ふ~ん、そりゃ大変だったなぁ……でもよ? エリはその……年が足りないんだから、知らぬ存ぜぬで通せばよかっただろ?」

 「勿論言ったわよ!! ……でも、ほら、丁度その頃私も学校に行かなかったから……」


 そんな会話をしながら、段々と近付くローレライの外殻が視界を覆う距離になり……そして、


 「……さて、エリ……行ってみるか!!」


 ホーリィに手を引かれながら、ローレライの乗員昇降口に到着し、二人を出迎える乗組員と対面した恵利は、ややはにかみながら彼等と言葉を交わした。



 「エリさん、足元に気をつけて御上がりください」

 「あっ、どうも……やっ!?」

 「うわっ!? ドンくさッ!!」

 「うるさいっ!! ……久々だからまだ慣れないんだっての……」


 船体に吊るされた急な折り畳み階段につまづき、慌てる恵利に呆れるホーリィだったが、周囲の乗員は笑うこと無く手を差し出して、上部へと引き上げてくれる。


 「それにしても、本当にやらなきゃ……ダメ?」

 「ダメに決まってるだろ!? ……普通だったら二ヶ月の習熟訓練の後だけど、今回は特例で【通常空挺訓練】のみで終了なんだからさ、諦めろっての!」


 ホーリィに促されて、しぶしぶ従い艦内の待機室へと向かう二人は、待機室の扉に手を掛け、中へと踏み込むと……



 「……久し振りっ!! エリ、元気だった!?」

 「おおっ!! 待ってたぜっ!! ……調子はどうだ?」

 「やぁ~ん♪ エリちゃん元気してましたかぁ~?」


 ……そこにはローレライ強襲班を筆頭に、艦内作業専任要員や厨房担当、そしてパルテナやオリヒロ、そして山猫族の戦士に至るまで、定員数ギリギリまで膨らんだ人々が恵利の到着と共に、再会を喜ぶ言葉を口にしながら彼女を出迎えた。


 「……み、皆さん……」

 「なぁ! 驚いたろ? だから『全員一致で名誉予備役隊員に推薦』したってのが判ったろ~?」

 「……うん、うん……ほ、ホントにありがとう…………ッ」

 「なっ!? 何泣いてるんだよっ!! そーゆー意味じゃねぇっての!!」

 「あ~! ホーリィさんがエリちゃんを泣かしましたぁ~!! いけないんですよぉ~?」


 感極まって涙ぐむ恵利、そんな彼女に慌てるホーリィを茶化しながら、しかし二人の肩に手を伸ばして一緒に抱き抱えながら、アンティカが静かな口調になりつつ、


 「……でもねぇ~、エリちゃん? ホーリィさんだって……貴女がこうして再び現れるまで、毎日毎日ず~っと『気が変わって現れないんじゃないか?』って、心配なさってたんですよぉ~?」

 「……うわっ!? い、今それ言わなくていーじゃんかよッ!! バカッ!!」


 と、こっそり耳打ちし、それを聞いたホーリィは耳まで赤くしながらアンティカの拘束を解こうとジタバタと足掻くが、涼しい顔で暴れるホーリィを往なしつつ、


 「……つまり、みぃ~んな、貴女の帰還を首を長くして、待ってたって訳ですからぁ~!! これからも~、宜しくですわぁ~♪」


 にこやかに微笑み、そっと二人を解き放ってから……艦内作業要員に手を挙げて合図し、


 「……と、言う訳で……皆さ~ん!! エリちゃんの初降下、しかと見届けてあげましょ~♪」


 ……と、言った瞬間……ごうん、と腹に響く鋼鉄が軋む音が鳴り響き……待機室の隔壁がゆっくりと開き始め、びゅう!! と風鳴りが流れると共に真っ青な大空が少しずつ、隔壁の隙間の向こう側から見え始める。


 遮る物一つ見当たらない紺碧の空に、刷毛でさっと撫でた程度の薄い雲が所々見え……恵利は肌を刺すような冷気と希薄な空気に一瞬喘ぎ、そして隔壁が開き切り、見渡す限りの壮大な景色を一望しながら……




 「……や、やっぱりまた今度に……出来ないかなぁ……?」

 「はぁ!? 今さら何を言ってるんだっての!! ……ほら、これでよし!」


 思わず足がすくみ、一歩でも開口部から遠ざかろうとする恵利の背後に立ち、背中に翼の呪符を貼り付けながら、ぐいっと前に押し出して、


 「ったく!! 世話の焼ける奴だな!! ……判ったから、ワタシも一緒に降りてやるよ……ほら、行くぜ?」


 恵利の手を握り締めて、隔壁の開口部へと引っ張っていくホーリィ。


 「やっ!? だからとりあえず今すぐとか慌てなくても……あっ!?」


 だが、ホーリィは我関せずとばかりに開口部に到達すると、恵利の顔を見ながら……手を離し、大空へと()()()()()()()()()()()()()()()



 「あっ!? ホーリィ!!」


 恵利が思わず駆け寄って手を掴むと……ホーリィはしっかりと握り締めながら、



 「……バーカ!! ……引っ掛かってやんの!!」


 と、してやったりの悪い笑みを浮かべ……





 「きぃいいいぃやああああぁ~ッ!!!!!!??」


 耳をつんざくような悲鳴をあげながら落下する恵利にしっかりと抱き付きながら、


 「……そーゆー事だからよ……手、離すなよ? 離せばワタシがミンチになっちまうからさ~♪」


 上手く企みが効を奏した事にすっかり満足したホーリィは、恵利に自らの命をお手軽気分で託しつつ、



 「……まぁ、そんな心配は要らぬお世話なんだろ~けどさ!」


 ホーリィはそう(うそぶ)き、恵利と共に猛烈な勢いで大気を切り裂きながら落ちていった。










             ……第一部、完。




……。

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