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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第四章 大陸覇道編・仲間を増やそう!
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⑨山城の夜。

そろそろ我慢の限界です。



 通常のVRゲームならば、どんな箇所で中断しても再開した場合は市街地から始まるのがセオリーである。



 しかし、今そのアバターが出現したのは断崖絶壁の直ぐ際である。もし一歩でも動こうものならば、即座に奈落の底へと一直線だ。その先に待っているのは想像を絶する激痛、そして同時に今まで積み上げてきた技術や貢献度は一瞬で消え失せるだろう。


 だが、全身を黒い鎧に包んだアバターは、その場から動く事もなく、ただひたすらじっとしていた。


 やがて、ゲーム内で数分が経過したその時、背後に同じように現れたアバターは……全裸であった。一糸纏わぬ姿を晒しているにも関わらず、局所はぼんやりと薄く霞みがかり、視線を逸らす必要もないようだ。



 ……と、最初に現れたアバターが全裸のアバターに近付くと、そっと二の腕辺りに手を触れる。すると裸のアバターは何かを察したかのように動き出し、その後ろを鎧姿のアバターが追い掛けていく。

 鎧姿のアバターの背中には両手持ちの剛力剣(グレートソード)が二振り提げられていたが、その装備は明らかに重量過多で本来なら一振りしか持つ事は出来ない筈である。



 先を行く全裸のアバターも、良く見れば顔の部分も霞みがかったように不鮮明で、顔の無いアバターは初期設定の段階で創作出来ないのだ。つまり、両者ともに不正な改造を施し、違法な手段でこの世界へと現れた『チートキャラ』だろう。



 ……と、先頭を進んでいたアバターが不意に立ち止まり、後ろへ身体を向けて振り返り、右手を顔の横へと持ち上げて耳元へと付け、数回握ったり放したりのゼスチャーを始めた。


 そのゼスチャーに呼応した後方のアバターは前方のアバターの横に並んで止まると、不意に両者は固まって動かなくなった。




 (……おい、聞こえるか?)(……えぇ、聞こえてるわよ?)


 二体のアバターはフルダイブゲーム中にも関わらず、イヤホンマイク等を介して話し始めたようだ。本来ならそのような事は出来る筈は無かったが、改造されたHMDを使用しているのか判らないが、会話は続けられた。


 (……この前の同調動画、幾らで競り落とされたと思う?)(……さぁ、どうだったの?)


 (……何と一回分のダウンロードに十万だぜ!? あんなモンに大金積むバカも居るもんだなぁ!)(……体感的には現実世界と殆ど差異は無いわ……それに繰り返し使える訳だし、考えようじゃ安い買い物かもね……)


 (……しかし、ボロ儲けも良いとこだぜ!! まだ()()()()は居るけどよ、まだまだ種類が少ないからな。もう少し見た目の若い連中も引っ張って拉致っとけばまだまだ稼げそうだよな!)(……そうね……)


 

 二人は暫くそんな会話をしていたが、やがて動き出し、闇夜の中を薄明かりが見える方角へと走り去っていった。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 静かな夜だった。



 闇に沈んだ山城の修繕された城門からやや離れた場所に(かがり)火が焚かれ、ぱちぱちと火花を散らしながら赤々と燃えている。


 その篝火から少し離れた場所に、一人の猫人種の少女が積み上げられた木材の上に所在無さげに座りつつ、じっと篝火を見詰めて居た。


 普通ならば、如何に夜目の利く種族とは言えど、一人で少女が彷徨くような事は祭りの夜でも無ければ有り得ない。しかし、彼女の周りには見廻りの巡回兵の姿も無く、城の警備に当たる兵士すら見当たらない。



 少女が闇夜に浮かぶ月を見上げる。その形は三日月より細く、地上を照らす明るさには乏しく頼り無げだったが、彼女は興味無さげに視線を城門へと移したのだが……


 不意に吊り上げ式で開く城門が音も無く持ち上がり、人一人が容易く潜れる高さになったその瞬間、音も無く黒い何かが場内へと滑るように入り込んだ。




 そして、城門を片手で持ち上げていた黒い鎧に身を包んだ何者かも侵入した瞬間、持ち上げられていた城門が真っ直ぐ下に落ち、地響きを立てながら地面へとめり込んだ。


 侵入者がゆっくりと近付いて来る様子を眺めていた少女は、やおら木材の上に立ち上がると、踵を返して山城の奥へと向かって走り始める。


 侵入者の二人は少女の姿に気付き、一瞬だけ動きを止めていたのだが、後を追って直ぐに走り出した。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……これ、本当に元に戻せるんだろうニャ?」


 艶やかな黒髪から飛び出る耳(ふさふさとした毛付き)を撫でながら、憮然とした表情でホーリィはエキドナに奇妙な語尾を付けて詰問する。


 「し、心配しなくても大丈夫っ……よ? ……く、くふふ……♪」


 人の悪そうな笑みを浮かべつつ、しかし上機嫌のエキドナは尻尾の先を揺らしながら答えるのだが、ホーリィの心配は止む事は無かった。


 「それによ……この尻尾!! ……はぁ、心配で心配で……ずーっとこのままの格好じゃ、戦場で格好が付かないじゃないかニャ……?」

 「お、御姉様はどんな格好でも問題有りませんよ!? ねぇ、アンティカさん?」

 「うん! うん! 凄くいいのぉ!! もの凄く捗るのぉ!! 嗚呼、ちっこい姿にケモ耳……オマケに可愛らしい尻尾まで……全てが愛らしくて……私、理性を保つので精一杯なんですけどぉ♪」


 後ろに身を捩りながら、背後でゆらゆらと蠢く尻尾の先を、心配そうに見つめるホーリィの問い掛けに、必死の形相で答えるクリシュナが傍らのアンティカに問うのだが……やはりどんな時でも決して自分を見失わない彼女らしく、いつもの被服を纏ったホーリィを陶酔し切った様子で見詰め、潤んだ眼を見開きながら一刻でも長く焼き付けようと必死になるアンティカに、果たして声は届いているのやら……?




 ……何故こうなったのか、手短に説明すれば簡単である。


 再びやって来るだろうチーターを必ず葬る為に、ホーリィを筆頭に全戦力で迎え討つにしても……相手は死を恐れず、それで居ながら自らに不利と悟れば恥も外聞も無く逃げ出すに決まっている。だからこそ……必ず逃さぬ為にも、幾重にも張り巡らせた罠の最奥まで引き込み、絶対的且つ圧倒的な手段で完膚無きまで叩きのめさない限り、必ず舞い戻るだろう。

 ……ならば、相手を引き込む為にも……囮を用いて誘い込むのが一番なのだが、そんな危険な目にか弱い娘達を引き出すのは、余りにも危険が伴う。ならば、頑強でいて、相手の油断を誘うような見た目の者を【猫人種】仕立て上げた方が万全である。囮には精一杯活きの良さを出せて、更には釣り針の返し(先端に付いた抜け防止の逆トゲ)として釘付けに出来れば尚良し、であった。



 ……その結果が、これである。


 普人種も猫人種も、元を辿れば起源は同じ(実際にパルテナの夫は普人種だ)らしいので、エキドナの手による《旧憶遡行》の外法と幻術を併用した結果、身も心も猫人種……のようなホーリィが完成したのだ。



 しかし、本人は決して望んだ変装(?)でもないし、更に言えば……


 「……小柄で細身なんだしよ……そんで()()()()()()()んじゃ……あざといって言うか、何と言うか……複雑だニャ……」


 ゆぅら、ゆぅら、と尻尾を振るうホーリィは、情けなさげに先を掴み、トホホと言いたげに呟く。


 ……つまり、余りにも自らの振り切れ方が何時もの自分から《可愛らしいネコ娘》の方へと極振りされて、困惑していたのだが……、


 「ふわあああぁ~あぁ、……フムン、しっかし……こりゃまた、何と言うか……」


 一人娘を胸に抱きながら、ホーリィの姿を眺めていたパルテナは、被服のお尻の上に空けた穴から尻尾を出し、周囲の反応を持て余し困惑しきりの様子にほくそ笑みながら、娘に語り掛ける。



 「……撒き餌なんだから、もっと旨そうに見せたらいーんじゃないかねぇ? ……パルマもそう思うだろ~?」

 「あぃ!! まぁま……ねぇ~ね♪」


 呼ばれた娘のパルマは無邪気に笑いながら、ホーリィを指差してそう言うと、キャッキャと声を上げ、嬉しそうにぱちぱちと手を叩いた。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳





 ……ほんの少しだけ、時間を遡り……ホーリィが猫人種に変化させられていた頃と同じ時、上空に待機するローレライ艦内。



 「……本当にいいんかい? これぁ、俺が生きてる内に拝めるか否か……いや、それより何よりとんでもなく()()()()()だぞ?」

 「……構いません、モロゾフさん。私は……少しでも御姉様のお役に立ちたいんです」


 二人の前に置かれた作業台には、黒い厚手のビロードに載せられた刃物が四つ有った。




次回こそ……激しい戦闘にしたい……お楽しみに!!

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