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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第四章 大陸覇道編・仲間を増やそう!
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⑦現世とモフモフ。

暫く振りですが、更新です!



 とん、とん、とん、と軽やかに階段を降りて階下へと降りた恵利は、居間にやって来た。


 「恵利! お父さん今夜も遅いみたいだから、先にご飯食べちゃいなさいね?」


 母親の千春(ちはる)が恵利にそう告げながら、千切りキャベツを盛った皿にトンカツを載せつつ食卓に並べる。


 「はーい……ねぇ、ウスターソースかけていい?」

 「いいわよ! ……普通なら中濃ソースなのにね……」


 千春はそう言いながら、冷蔵庫からウスターソースを出すと恵利へと手渡す。傍らに添えられた味噌汁はシンプルな大根の千切りと油揚げだけだが、フルダイブVRゲームに朝から没入していた恵利には、匂いだけでも染み入るような香りに感じられた。


 「頂きます!」と言ってから……ずずずっ、と啜り込む味噌汁の何と温かな事か! みしみしと音を立てんとばかりに落ちていく汁の持つ味と風味の奥深さに、恵利は思わずほぅ、と溜め息を交えながら味わいつつ、傍らの皿に盛り付けられたカツにウスターソースをすーっ、と一筋かけてから、しゃくっ、と音を立てて噛み付いた。


 ロース特有のしっかりとした脂の甘味が舌の付け根にどっかと居座り、良く噛んで味わえと後押しする。ならば、と本腰を入れて噛み続けると衣の香ばしさと、甘味を排したソースの(いさぎよ)い風味が肉の甘味を後押しし、気が付けば手にしたお碗からご飯を口へと運びつつ、わしわしとカツ、ご飯、キャベツ、味噌汁の四点移動を夢中になりながら繰り返し、



 「……御馳走様でした! お母さん、美味しかったよ♪」


 と、笑顔で告げながら流しに皿を運び、洗い始める。




 そんな恵利の後ろ姿を見守りつつ、千春は自らの食事を進めつつ、内心では娘に言い出せぬ一言を口から昇らせるのを辛うじて留め、ただ一言だけ恵利へと投げ掛ける。



 「……恵利、余り遅くまで起きていてはダメよ?」

 「うん……勉強終わったら直ぐ寝るよ……」


 そう受け答えながら恵利は歯磨きをする為に洗面所へと向かったが、そんな彼女の背中に投げ掛けかけた言葉を飲み込み、ただ短く、


 「……おやすみなさい!」

 「ハイ、おやすみなさい……!」


 と発した千春に恵利は続けて答えた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ……ばむ、とベッドに身を投げてから、恵利は枕に顔を(うず)める。


 恵利が学校に行かなくなった原因は、父親の仕事が大々的に有名になってしまったから……だった。



 彼女の父親、堀井 (とおる)の会社が世界初のフルダイブVRゲームのギルティシリーズを世にリリースして一躍有名になり……その会社の開発部長である透が度々テレビ等でインタビューされ、彼の来歴が時折口にしていた恵利の発言と全く同じだった事に()り、一部の生徒から「恵利のお父さん、あの会社の部長なんだったら、新しいゲームとか手に入らないの?」等と言われる事に嫌気が差し……学校を休んだ事が始まりであった。


 元々、成績は悪くなかった事もあり、秋から冬になる迄には復学すれば卒業する事は出来るだろう。しかし、彼女は今だけは……あのゲームを一区切りつけるまでは、戻りたくなかった。




 大学在学時からEゲームで各種国内タイトルを幾つも獲得し、卒業後は世界大会にも挑戦していた父親が母親になる千春と出会い、恋に落ち……やがて二人の間に恵利が産まれた時、その才能を売り込んで現在の会社に就職。その後は誠実に職務を勤め上げ、やがて新商品開発プロジェクトに参加した時に開発部長として昇格したのである。


 恵利の眼から見ても尊敬に値する父親を、只の便利な道具箱のように見られた事がショックであり、更にそれによって自分が足手纏いになったような気がして、気付けば登校する夏休み開けも自宅で自主学習を続けていたのだが、両親は理由を聞いても何も言わず「行く気になったら行けばいい」と許してくれたのだ。



 ……だが、それは恵利にとっては毒のように自らを蝕み、結果的に自分を堕落させる口実になっているのではないか、と悩んでもいた。そんな最中に偶然、居間で仕事の書類をノートパソコンで消化していた父親の後ろ姿越しに、手元のタッチパネルを一度だけ見た拍子に暗証番号を垣間見て覚えてしまい、それを用いてゲームを手に入れてしまったのだ。


 只の出来心だった、と言い訳も出来ぬまま……今に至る。





 (……でも、やっぱり……許せない!……お父さんの作ったゲームをネタにして、酷い事をされたら……)


 恵利の心に突き刺さった怒りの炎は、未だ消えず燻り続けている。そんな気持ちを抱えたまま、HMDを被ると眼を瞑り、



 「……絶対に、許さない……」


 一人、呟きながら、再びホーリィ達の元へと舞い戻った。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ……恵利が再びギルティ・レクイエムの世界へ戻った瞬間、最初に目に飛び込んで来たのは……沢山の毛玉だった。



 「……ふぁっ!? な、何これ……きゃあ~っ!?」

 「おねーちゃん、ツルツルしてるー!!」

 「ママのにおいするぅ~♪」

 「ママ~♪ だっこして~!!」

 「ママ~♪ おぱいちいさくなった?」

 「ふにぃ~! しっぽふまれたぁ~!!」


 恵利はどうやらしゃがんで居たらしいのだが、そんな彼女の周りを、モフモフとした柔らかな毛に包まれた小さな猫人種の子供達が取り囲み、口々にママ、ママと連呼したり、隣の子に尻尾を踏まれて泣き出したりと騒々しかった。


 茶、白、黒、ブチに縞柄……高い体温と猫人種特有の高い声、そして……極上の毛皮(猫人種は小さい内は全身に毛が生えている)に包まれながら、恵利は次第に落ち着きを取り戻すと共に、言い知れぬ多幸感へと到達していき……




 「おおおおおおおおお……もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふぅ~♪ もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふは正義!! 凄い!! やっこい!! ……あ、抱っこしてみよ♪」


 抱き上げられた茶色の毛並みの子供は、不思議そうに恵利の(無論戦術人形の姿だが)顔を眺めていたが、やがて馴れたのか疑似頭髪に手を伸ばし、サラサラと指先で(もてあそ)びながら……


 「……ん? あったかい……あったか? あーっ!! この子オムツしてないっ!?」


 じょろり、と出始めた小水に慌てふためく恵利だったが、


 「あー、トムスクはまだ一人じゃ我慢出来ないからな~、おマルがそっちに在るから連れていってやってくれ」

 「ひゃひゃひゃひゃひゃ~♪ マジ笑えんなぁ~!! エリ!! もー諦めて浴びとけって!!」


 背後から声を掛けられて振り向くと、一人の童女(勿論猫人種)を抱きながら部屋の入口で嬉しそうに微笑むパルテナと、直ぐそばで腹を抱えて笑い転げるホーリィの姿だった。




タイトル通りの内容でした。そして後何話か日常回が続きます……良く考えたら第一章だってそんな感じでしたしね。ではまた次回!!

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