⑤奴等が来た後、
ほんのり強者同士の戦いです。
「……斬れば、倒れると思うのが普通じゃないか!? なぁダンナ様よ!!」
「そうだね、確かにそう思う……」
山猫族のパルテナが身を翻した瞬間、僅かに遅れて元居た空間に何者かが落下する。その肉体が石畳を踏み割りながら着地したその時を狙い、オリヒロが足を搦めて喉に手を宛て体勢を崩し、後頭部から石畳へと叩き付ける。
緋色の革鎧に身を包み、手にした長刀を振るうパルテナとは対比的に、夫のオリヒロは黒い衣服のみで敵と対峙していたが、相手と接近して戦っているのはオリヒロの方だった。
筋肉の動きで相手の先を掴み、足運びに注意して次の動きを読む。関節の捻れから動作を汲み取り合わせるように重ねる手足は正に『合』。
接触した箇所を基点とし、最も適した流れを生み出して作用を促す。即座に変わるバランスに合わせて最小限の力を添えて体勢を崩し、動きを制する流れは正に『気』。
全てを制して出鼻を挫き、然るべき結果へと帰結させる技は正に『道』。
オリヒロの繰り出す動作は敵を効率的に崩し、反撃のタイミングに合わせてパルテナの『魂喰い』が一閃し、頭部を見事に両断する。眼を半分に別けて耳の上から一直線に血の筋が後ろへと流れ、即死は免れないのは明白……にも関わらず、敵はむくりと起き上がり、にやりと笑う。
「……ちっ!! 何なんだよ、コイツは……不死者かよ?」
「いや、それは無いな……どう見ても生者だ。間違い無く……」
二人が相手するその化け物は、何度もパルテナの刀で斬られ、幾度も地に伏せた。にも関わらず、平然と起き上がり……何事も無かったかのように再び拳を握り締め、挑み掛かってくる。
背後では既に数十の兵士が骸と化し、その只中で全身に矢や槍を受けながら平然と立つ全裸の男が、また一人の兵士の頭部を掴み、無造作に握り潰していた。
二人の前に立つ男が突然走り出し、背後の男の元へと近付いたかと思うと、何かを伝え合ったのか知らぬが唐突に城門の方へと動き出し、現れた時と同じようにあっという間に消えてしまった。
何故に逃げたのかは判らなかったが、身内を拐われて泣き崩れる者の姿が浮き立つ中、辺りに残されたのは破壊された建造物と、犠牲になった兵士達の亡骸が残されているのみだった。
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「ふん!……女だけ拐って、暴れるだけ暴れたらオサラバかい……随分と判り易い連中だがよ、死なないって割りには俗な事をやりやがるな!」
パルテナの回想を聞き終えたホーリィは、その内容を知ってつまらなそうに鼻を鳴らし憤慨しながら呆れたように返す。
領地に戻り、盗賊狩りに明け暮れていたパルテナと自領の兵士達を襲った相手は、二人の若い山猫族の娘を拐かした後、好き放題に暴れて追跡を断念させてから遁走したと言う。
「……あの、それって……金曜日でした?」
「……ん? キンヨウビ? ……あぁ、鐘鳴る日※①の事か? キンコーン、って鳴れば……それが何だって言うんだい?」
突然思い出したように曜日の事を切り出す恵利に、一瞬周りの空気が止まったかに思えたが、直ぐに応じたパルテナが答えると、暫く考え込んだ後……
「……その化け物、チーターかもしれない」
誰に聞かせるでもなく、小さく確認するように呟いた。
※①鐘鳴る日→この世界での金曜日。夕方になると鐘が鳴らされるので付いた名前。
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「……エリよ、何なんだよその、ちーたー、ってんのは?」
ホーリィの言葉に全員の視線が恵利に注がれ、我知らず内に緊張し、恵利は言葉に詰まるが、
「えっ、その……それは……実は……」
……恵利は覚悟を決めた。その話をする為には、自分自身について告白しなければならない事、そして……今までホーリィ以外の各々を偽り、真実を隠したまま共に行動していた事を告げなければならない。それは不登校になる程に弱い自分には酷な選択だったが……
「……成る程な。時折ホーリィが戦闘時にボーッとしていたのはそれが理由か……」
アジは暫し沈黙し、彼なりに気付いていた事と照らし合わせ、理解した。
「そうだったんですか……じゃ、ホーリィさんが大怪我した辺りから重なっていたんですね……」
バマツはそれだけ言うと机を見つめたまま固まり、思案しているようだった。
「……御姉様がそれを理解していたのならば、私は何も言う事は御座いませんよ? これからも気兼ね無くお付き合い下さい!!」
クリシュナはそれだけ伝えると、柔らかく微笑みながら手を差し伸べて、ぽん、と肩を叩いて恵利に語り掛けた。
「あらぁ? それじゃこれからはエリさんとお呼びすれば宜しいのですねぇ? 改めて宜しくお願い致しますわぁ♪」
アンティカはふわりと語りながら、眩しげに恵利の姿を眺め、そして嬉しそうに笑いかける。
「……そうなのかい? まぁ見た目はアレだけど、要は中身が私らと変わらないって事だろ? 気にする事無いんなら気にするな!」
パルテナはそう言い切ると耳をぴぴんと動かしてから、胸を反らして力強く宣言する。
「エリ!! だから心配すんなって!! 細けぇ事気にするような肝っ玉の小さい奴はワタシの前じゃデカイ面はさせねぇっての!!」
ホーリィはそれだけ言い、最早盟友と呼ぶべき恵利の頭をくしゃくしゃと乱暴に混ぜ撫でてから、
「って事で!! コイツはワタシの妹分の一人だ!! 文句有る奴は八つ裂きにしてやっから覚悟しとけよ!? っても、まぁ何だ……お前らは別にそーゆー連中だ、なんて思ってねぇんだけどな……と、ともかく!!」
そこまで語ったホーリィは恵利の頭に手を置いたまま、続きを彼女に促した。
次回もお楽しみに!! ちなみに書き貯めはあと一話でおしまいです……ふふふ。
そして、目標ポイント突破!! これからも宜しくお願いしますです!