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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第四章 大陸覇道編・仲間を増やそう!
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①餌撒き。

大陸進出を果たした帝国に立ち塞がるのは……果たして何者か?



 林の間を抜ける道の向こうから、からからと軽快な音を立てながら馬車が現れる。


 二頭立ての馬車は二両が縦に連なり、林の中の道を陽光を浴びながら街道を進んでいた。



 大陸へと進出した帝国は、宗主国の中継ぎに依って今まで交流の無かった国々とも新たに交易を始める事が出来るようになり、急速に流通網が伸びて物資や人々の出入りが始まったのだが、そこには新たな問題が発生していた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……林の奥から街道を見渡せる丘に伏せた人影がにわかに動き、高く鳴る口笛で注意を喚起すると、眼下に控えた繋ぎの者が足早に林の中へと分け入り、急ぎ足で仲間の下へと近付いて行った……。


 「……来やがったぜ……おっ? ありゃ……噂に聞いた帝国の交易商じゃねーか?」

 「……ああ、確かに……ちっ! 羽振り良さげじゃねぇか……くそっ!!」


 髭に覆われた顔の中で、怪しげに光る眼光が馬車を捉える。数人の盗賊が武器を手に待ち構える中、獲物である交易商の馬車は何も知らぬまま待ち伏せの箇所へと近付いて来る。


 勝ち戦の陰では、負けて野に墜ちて野盗の類いへ成り下がる者も後を絶たず、様々な弊害を生じさせていたのだ。


 帝国の新たな交易網はまだ脆弱で、近隣国家からすれば自らの手で整備させるのは面倒も多い。その為に提案されたのが、軍隊を用いた【盗賊狩り】だった。





 「なぁー、バマツぅ……酒飲んでいいだろぉ?」

 「何て事言ってるんですかっ!? 今は仕事してるんですよ!?」


 御者台に座るバマツに訊ねるホーリィは、手にした革袋を振りながら中身を確認し、まだ有るのを確認すると素早く栓を抜きごくごくと飲み、急いで栓をもどしてからひょいと後ろに投げ込んだ。


 「……ホーリィさん、今飲んだでしょ?」

 「の、飲んでねーし!」

 「隠しても判りますからね? ……匂いで判るんですから……」

 「ちぇっ!! つまんねぇ~の……」


 そんなやり取りを続ける二人だったが、囮役の馬車に乗り込んで進む事はバマツには緊張を、そしてホーリィには退屈を与えるものだった。




 宗主国は帝国との戦争により、国内の産業を活性化させていた側面も有ったが、逆に国外との交易網の整備を減少させてしまっていた。そうした脆弱化した交易網の綻びに付け入るように盗賊は暗躍し、まだ始まったばかりの宗主国経由の流通は尖端に行けば行く程脆く、そして危険な物になっていた。


 更に敗戦に依って多くの敗残兵が帝国の掌中から逃れようとして、そうした辺境で商隊相手の盗みを働く事になり、事態は悪化していったのである。



 そこで当座の出番も無いローレライの面々は、機動力を生かして野盗狩りを任されたのだが……やはり今回も【活きが良くて見た目も良い】ホーリィに白羽の矢が立ったのだ。


 【……ホーリィ? あまり飲み過ぎると査定に響きますよ?】

 「……ほ、ほんへなうって!! ……もー! グランマったらヒトが食ってる時に話し掛けてくんなっての!?」


 遥か上空に居るにも関わらず、悠々とホーリィを(たしな)めるローレライに、たまたまパンを齧っていたホーリィは慌てて返答する。ローレライにとっては遠く離れた相手に音響振動(エコー・ロケーション)で自らの声を直接伝える事が出来る上、同様に任意の場所の声も正確に聞き分けられる……らしい。


 【……とりあえず、小規模な武装勢力が前方に待ち伏せしていますね。やっと仕事が始まりますよ?】

 「うっし!! ……けどよ~ホント退屈で死にそうだったぜ……よっこらせっと!」


 ローレライの報告を確認し、ホーリィは気合いと共に御者台へ向かうとバマツの隣にちょこんと座り、前方を注視した。




 ……すると、明らかに不自然な倒木が道を塞ぎ、馬車の進行を妨げていた。大人の足程の太さがあり、馬車の車輪ではそれを乗り越える事は不可能だろう。

 

 馬車は林の中を抜ける事は出来ず、やがて停車する頃合いを見計らって周囲に分散していたであろう盗賊が包囲しながら近付き、馬車を襲って強奪を開始する筈だ。




 「……食うもん食った事だし……さて、どうやって……」


 事態が動き出すのを察し、ホーリィは着ていた白いワンピースの中に隠した双剣の収まりを確かめながら、呟く。



 「…………暇潰しすっかな?」



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 盗賊の男達は近付く馬車の御者台に座るホーリィの姿を目敏く見つけると、仄暗い興奮に包まれていった。


 辺境の交易網の末端は、過酷な生存原理にのっとって生きる無法者同士の序列から見ると、生きるか死ぬかの瀬戸際と言って良い過酷な環境である。


 遠距離を移動する商隊は必然的に武装や護衛は欠かさないし、牧歌的な移動手段に見られがちな乗り合い馬車にすら盗賊避けの用心棒を乗せている事もざらなのだ。

 そんな環境では、ただの商隊に見た目も若く上玉の麗しい女性が乗り合わせる事は皆無であり、大抵は護衛の中に時折見られる魔導士の類いで、そんな連中には手出しの出来ない盗賊は指を咥えて見送るしかないのだが……


 (……おいおい、どう見ても素人じゃねぇか……)

 (待てよ、何処から見たって魔導士にゃ見えねえ……と、すると……)

 (んなもんどうだって良いだろ!? 捕まえてひん剥けば判るぜ!)


 白いワンピース姿で黒い髪を(なび)かせながら座るホーリィは、そんな彼等にすれば……正に【みすみす取り逃がせない】獲物にしか見えなかった。



 次第に近付く馬車に印された帝国所属を表す紋章がくっきりと見える所まで近付いた時、二台目の馬車が通り過ぎるのを待ち構えた盗賊が仕掛けた罠の出口を閉ざす為に、倒木を吊るした紐を断ち切り後方の道を塞ぐ。


 そしてそれを合図に包囲していた二十人程の男達が街道へと殺到し、あっという間に馬車は取り囲まれていた。



 「……悪いが積み荷と【女】は……頂いていくぜ?」


 一人の盗賊が前に出て、問答無用で剣を抜きながらバマツに向かって告げた瞬間、御者台に座っていたホーリィは、堪えきれずにとうとう爆笑しながら……


 「……ひっ! ひゃひゃひゃひゃひゃ~♪ あー、笑えるわぁ……積み荷ぃ!? 【女】ぁ!? 欲しいのかよ、そんなに欲しけりゃくれてやってもいいぜ? ほ~らよっと♪」


 言いながら立ち上がり、着ていたワンピースをおもむろに捲り上げ、そのまま脱ぎ捨てる。


 咄嗟の動きに唖然としていた盗賊達は、目の前に屹立する長い黒髪の白い肌の美少女……に擬態していたのが、全身を黒い被服で覆い、腰に双剣を提げた異形の女剣士だと気付いたのだが……更に後方の馬車の荷台を開け放して現れた者達の姿に、思考は完全に停止してしまっていた。


 「あ~、退屈でした……それに御姉様から引き離されて……」

 「何を言っているのですか!? 私だって……ホーリィさんと一緒は駄目だと告げられた時の辛さと言ったら……悲しくて辛かったですわぁ……」


 腕の四本各々に直剣を持ちながら、軽やかに飛び降りた完全武装のクリシュナと、ホーリィと色違いの紅い被服に身を包み、両手に凶悪な棘付き球棍棒(モルゲン・スタイン)を持ったアンティカの二人が現れて、口々にそう言い交わしながら盗賊など全く意に介さずホーリィの元へと集まっていくのである。


 「……な、何だよコイツら……何処が商隊なんだ!?」

 「ヤバいぜ……どう見たって《盗賊狩り》の連中か何かじゃねぇかよ!」


 ざわつく盗賊の言葉を聞いたホーリィは、にやりと笑いながら髪の毛を髪留めで纏めながら、


 「ああ? 盗賊狩りぃ? 違うなぁ……ワタシ達は通りすがりの【死神】って奴だぜ?」


 ぺろり、と舌なめずりし、ホーリィは双剣を抜きながら盗賊に向かってそう言い、


 「そんな訳だからよ……せいぜいイイ声上げて、泣き喚きながら赦しを乞えよ? ……じゃねぇと、気分が盛り上がらねぇじゃん?」


 とんとん、と肩に右手の【フシダラ】を当ててから、赤、青、緑の色彩を伴った魔導強化の術式を波紋のように広げながら、嬉しそうに微笑んだ。



そんなホーリィさんが久々に剣を交える相手は一体誰か? 次回更新をお楽しみに!!

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