「超絶剣技!!究極アバター《ホーリィ・エルメンタリア》降臨!!」
久し振りに本編とは無関係の回を更新致します。翔馬君、今見ているのは……
高校生の有賀・翔馬は、ゲームを実際にプレイするのは苦手だったが、ゲームプレイを体験出来るVR視聴が好きだった。
Eスポーツのトッププレイヤー同士による白熱したネット対戦や、幻想的なファンタジー系で高難度のクエストに挑戦する様の実況中継は、手に汗握る物ばかりで翔馬を夢中にして止まないのである。
そんな中で、今一番のお気に入りは「ギルティ・エレメント」と言う名の集団戦闘がメインのファンタジー系戦記ゲームで、中でも話題になっている【ホーリィ・エルメンタリア】という名の女性キャラ視点でのVR視聴が好きだった。
「ギルティ・エレメント」というゲームは、世界中のプレイヤーが二つの陣営に別れて戦い、実際の戦記を作り上げていくという壮大な代物である。代表的な剣や槍、更には弓矢やボウガンと言った射出武器を複数持ち、【貢献度】と呼ばれるポイントを稼いで蓄積させていき、キャラクターの能力や技術を上げて成長させたり、武器や防具を新調させて自分だけのオリジナルキャラクターへと育てていくのがメインとなっている。
その中で活躍するキャラクターのVR視聴は、様々なメディアでも取り上げられ「新たなヒーローやヒロイン」としてグッズ販売やメディアミックスによる映像化と、新たな文化的流行として注目の的となっていた。
「ギルティ・エレメント」の会戦は最大で一万人が同時参加可能の巨大なイベントとなっていて、日夜を問わず開催される会戦は様々なタイミングで行われ、世界中のプレイヤーがVR機器を介した同時通訳機能をフル活用しながら、互いの陣営を滅せんと熾烈な戦いを演じていたのだが……
……ある時、「ギルティ・エレメント」に特化した掲示板の書き込みの中に、奇妙なタイトルを見つけた翔馬は興味を掻き立てられたのだ。
【ギルティ・エレメント界に降臨した異形の戦士《ホーリィ・エルメンタリア》】
そう題されたVR視聴のタグにアクセスすると、「美少女キャラに似合わぬ超絶剣技に酔いしれよ!」との手短な説明の後、即座に開始されたのだが……
……その模様は、正に説明通りであった。
長い間、膠着状態だった「宗主国陣営の多重塹壕攻略戦」では鷹馬(ギルティ・エレメントで所有するには超高額な貢献度が必要)を駆って並み居る敵を騎乗したまま次々と撃破し、境頭堡を確保する為に単騎で突貫しつつ敵陣に到着するや否や、両手に構えた双剣を用いて飛来するボウガンを反射神経のみで易々と叩き落とす神業を披露(VR中継だから編集やチートは即座に露呈する)して、翔馬の度肝を抜いたのだ。
又有る時は、広大な陣営に溢れる様々な敵を剣技のみで狩り続け、合間に披露するモザイク入りの挑発ポーズで相手に精神的なダメージを与えたり……と、時には強さと下品さを兼ね備えた強烈な個性を発揮したりと、八面六臂の活躍と共に彼女への興味を掻き立てられたのである。
だが、翔馬は彼女の戦いを単なる色物としてではなく、華麗な技を超人的な精度と速度で繰り出すプレイヤーの技術に、純粋に惹かれたのだ。
(……このプレイヤーって、どんな人なんだろう……)
彼はそう思いながら、視聴を終えてそのままベッドに身を投げた。
……それがまさか、クラスメートの堀井恵利が絡むキャラクターだとは、知らずに。
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チカチカと点滅する画面に刺激を感じ、眼を開いた翔馬は机の上に置かれたディスプレイ上に表示された、【視聴者の皆様へお知らせ】の文字に眼を向けた。
そこには「チート対策のパッチ対応に依る一時的な視聴停止が有りましたが、現在は改善されましたので問題なく視聴可能になりました」とテロップが流れていた。
(……チートか。迷惑だよな……正々堂々とやれっての!!)
ゲーム視聴しかしない翔馬には、データ改竄で自分勝手なキャラクターやルール無視の行動を取る連中が行うチート行為に、怒りの感情しか持てなかった。
(でも……もし、ホーリィ・エルメンタリアってキャラクターが、いや……操るプレイヤーが……チーターだったりしたら……)
と、考えてみるが……彼にはあの個性的で自由奔放なホーリィ・エルメンタリアがチート行為の末に存在するとは思えなかった。
VR中継を体験してみれば判るが、ホーリィ・エルメンタリアは戦闘に於いて僅かなミスで容易くライフポイントを減らすし、実際にそれが原因で戦線離脱した事も一度だけ有ったのだ。
それでも……彼女は、ホーリィは戻って来て、再び見惚れるような剣技を披露してくれている。そして、彼女を操るプレイヤーも以前以上に、強烈な戦闘スタイルを貫いているのである。
(じゃあ、ホーリィ・エルメンタリアと悪質なチーターが戦ったら、どちらが勝つんだろうかな?)
翔馬はそう考えながら、時計を見てまだVR視聴が可能だったので、HMDを装着し、眼を閉じる。やや刺激を感じながら再び眼を開いた時、
……そこは見慣れた、そしてホーリィ・エルメンタリアの世界だった。
彼は同じクラスの後ろの席に居た堀井さんの事を、少しだけ知らな過ぎたのです。さて、そんな感じですが次回もお楽しみに!